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6 あまりの変わりようにショックを受けたのも事実なんだ
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そうだ。そうだった。彼の好みの女の子は、まさしく14歳のあの黒歴史の時の私の姿や言動だ。まさにゲームヒロインまんまだ。なんということだ。痛恨のミスとはまさにこの事。
「あの、ボウウ様、私、当時の頃とはだいぶ変わっていて。だから、あの頃のイメージのままだと、失望なさいます。なので、このお話は、」
なかったことに。
そう言いつつ、180度体の向きを変えてダッシュしようとした。ところが、彼の大きな手が、10度ほど角度を変えた私の腕を掴む。
いやー。掴まないでよ。このままグッバイさせてくれー。
心の中でめっちゃ叫んだ。でも、よく見れば、周囲にちらほら人がいる。ボウウ様のファンたちがほとんど。だから、このままひとり去ってしまったら、彼女たちに袋叩きにされる未来しか待っていない。
YESと答えたら、なんであんたなんかがボウウ様とっていう、テンプレ極大の針の筵。
NOと答えても、あんたごときが、ボウウ様の申し出を断るなんてっていう、これまたテンプレの罵詈雑言。
現に、私が幼いころの彼の初恋だなんだという声を聞いた数名は、運命の出会いなのね、みたいに目をうるうるさせて、まるでヒロインとヒーローを覗き見している、過去の私のポジションの子までいるではないか。
誰か、私の味方になってくれそうな人はいないのかと、さっと目をうろうろさせてみたものの、男の子たちもボウウ様の味方っぽい。きっと、ボウウ様の気持ちを知っていて、ずっと応援していた連中なのだろう。あれだ、学生あるあるの、ボウウ頑張れよ的な友達。
「キヨク、待ってくれ! 確かに、当時の俺は、あの時のキヨクに恋をした。学園でキヨクを見た時、ツインテールもしていないし、服装も大人しくて、物静かな人柄だったから、あまりの変わりようにショックを受けたのも事実なんだ。だけど、俺だってあの時と変わった。だから、今のキヨクを知ろうと思って、色々気にかけていたんだ。ほら、魔法学の授業では、わからない学生に親切に教えていただろう? それに、ほら。図書館で、キヨクが読んでいた本。俺も読んでみたんだ」
「き、気にかけていて、私と同じ本を読んでいたんですか?」
ちょっと待ってー。それって調査というか、同じ本を読むとかストーカー?
私の読書は半端ない。古代の文化や学問だけならともかく、ちょっとえっちな大人向けラブロマンスだって読んでいた。うう、他人には知られたくない分野のものもあるんだけど。
彼の設定以外にも、ちょっと鳥肌が立ちそうな話を聞いてしまった。
「ああ。おかげで、少しはキヨクの好きな物とかが分かったと思う。でも、もっと知りたい。そうだ、しおりを本にはさんだまま忘れていただろう? 実は、返しそびれていたのもあるんだが、お守りがわりに大事に保管させてもらっていたんだ。今度、返す。その、アースリケージがいいかな。ヌケドメ殿下の伝手で予約がとれるんだ。キヨクは、そこの限定のイチゴのショートケーキが好きだったんだろう? いつがいい?」
その店の名前は、王室御用達の例のきのこのアレ目当てに、何度もおじさまがたにおねだりしたスイーツ店だ。なんというか、当時から私の行動をチェックしていたのかと、聞くんじゃなかったと心底思う。知らなかったら、私にとってはなかったことと同義。そんなこと、カミングアウトしないで欲しかった。
いや、これが私も彼を好きなら、嬉しいってなるんだろうけど。うわうわうわわわ。マジで鳥肌ってる。
もう、おうちに帰りたい。もう、あっぷあっぷで、そんな風に考えていると、目じりに涙がたまってきた。その涙を見て、ボウウ様がぎょっとする。
「キヨク? どうした? あっ、やぶ蚊がいたのか。刺されたんだな。こんな害虫がいるところに連れてきてすまない。妻をこんな目にあせたふがいない俺を許してくれ。すぐ治療してもらおうな」
たしかに、足首や腕のあたりが痛痒い。でも、涙の理由は断じて違う。それじゃない。しかも、妻をってなに、妻をってー。私、まだはっきりYESって言ってないんだけど!
私は断らなきゃって思ってても、もうなにがなんだかわからなくなって、言葉すら出せなくて、彼が皆の前を私を大事そうに横抱きにして通り過ぎていくのをぼんやり見ていた。
「あの、ボウウ様、私、当時の頃とはだいぶ変わっていて。だから、あの頃のイメージのままだと、失望なさいます。なので、このお話は、」
なかったことに。
そう言いつつ、180度体の向きを変えてダッシュしようとした。ところが、彼の大きな手が、10度ほど角度を変えた私の腕を掴む。
いやー。掴まないでよ。このままグッバイさせてくれー。
心の中でめっちゃ叫んだ。でも、よく見れば、周囲にちらほら人がいる。ボウウ様のファンたちがほとんど。だから、このままひとり去ってしまったら、彼女たちに袋叩きにされる未来しか待っていない。
YESと答えたら、なんであんたなんかがボウウ様とっていう、テンプレ極大の針の筵。
NOと答えても、あんたごときが、ボウウ様の申し出を断るなんてっていう、これまたテンプレの罵詈雑言。
現に、私が幼いころの彼の初恋だなんだという声を聞いた数名は、運命の出会いなのね、みたいに目をうるうるさせて、まるでヒロインとヒーローを覗き見している、過去の私のポジションの子までいるではないか。
誰か、私の味方になってくれそうな人はいないのかと、さっと目をうろうろさせてみたものの、男の子たちもボウウ様の味方っぽい。きっと、ボウウ様の気持ちを知っていて、ずっと応援していた連中なのだろう。あれだ、学生あるあるの、ボウウ頑張れよ的な友達。
「キヨク、待ってくれ! 確かに、当時の俺は、あの時のキヨクに恋をした。学園でキヨクを見た時、ツインテールもしていないし、服装も大人しくて、物静かな人柄だったから、あまりの変わりようにショックを受けたのも事実なんだ。だけど、俺だってあの時と変わった。だから、今のキヨクを知ろうと思って、色々気にかけていたんだ。ほら、魔法学の授業では、わからない学生に親切に教えていただろう? それに、ほら。図書館で、キヨクが読んでいた本。俺も読んでみたんだ」
「き、気にかけていて、私と同じ本を読んでいたんですか?」
ちょっと待ってー。それって調査というか、同じ本を読むとかストーカー?
私の読書は半端ない。古代の文化や学問だけならともかく、ちょっとえっちな大人向けラブロマンスだって読んでいた。うう、他人には知られたくない分野のものもあるんだけど。
彼の設定以外にも、ちょっと鳥肌が立ちそうな話を聞いてしまった。
「ああ。おかげで、少しはキヨクの好きな物とかが分かったと思う。でも、もっと知りたい。そうだ、しおりを本にはさんだまま忘れていただろう? 実は、返しそびれていたのもあるんだが、お守りがわりに大事に保管させてもらっていたんだ。今度、返す。その、アースリケージがいいかな。ヌケドメ殿下の伝手で予約がとれるんだ。キヨクは、そこの限定のイチゴのショートケーキが好きだったんだろう? いつがいい?」
その店の名前は、王室御用達の例のきのこのアレ目当てに、何度もおじさまがたにおねだりしたスイーツ店だ。なんというか、当時から私の行動をチェックしていたのかと、聞くんじゃなかったと心底思う。知らなかったら、私にとってはなかったことと同義。そんなこと、カミングアウトしないで欲しかった。
いや、これが私も彼を好きなら、嬉しいってなるんだろうけど。うわうわうわわわ。マジで鳥肌ってる。
もう、おうちに帰りたい。もう、あっぷあっぷで、そんな風に考えていると、目じりに涙がたまってきた。その涙を見て、ボウウ様がぎょっとする。
「キヨク? どうした? あっ、やぶ蚊がいたのか。刺されたんだな。こんな害虫がいるところに連れてきてすまない。妻をこんな目にあせたふがいない俺を許してくれ。すぐ治療してもらおうな」
たしかに、足首や腕のあたりが痛痒い。でも、涙の理由は断じて違う。それじゃない。しかも、妻をってなに、妻をってー。私、まだはっきりYESって言ってないんだけど!
私は断らなきゃって思ってても、もうなにがなんだかわからなくなって、言葉すら出せなくて、彼が皆の前を私を大事そうに横抱きにして通り過ぎていくのをぼんやり見ていた。
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