【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

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憂いの美女と恐怖の野獣①

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 サヴァイヴが学園の寮に入り、クロヴィスもまた、一人だけ許された彼の侍従として付き従う。イヴォンヌに会いたくて、会いたくもなくて、結局、入学式ぎりぎりに入寮した彼は、式が行われる大講堂に足を踏み入れる。
 すでに180センチを超えるほど大きくなった彼は、入り口から入った途端、衆目の的になった。

「でけぇ……」
「誰だ? 見た事がないな」
「なんで、あんな頬に傷のある人と一緒の学年なの……怖いわ……」

 興味本位というよりもほぼ恐れられている言動が、彼の戦場で鍛えられた耳に届く。

 これだから、こういう気取った場所は嫌いなのだと内心ため息を吐く。不愉快極まりないが、それを表せばますます怖がられるだろう事は、これまで関わった服飾の店主や、タウンハウスで働く大人たちの態度で分かっている。

────誰のおかげで、こんな平和な場所でのほほんと暮らしていけると思っているんだ……

 もう、何度目か分からないやり切れない思いが心の中で暴れ出す。考えても、言っても詮無い事だ。だが、敬意をもって接するという事すらしない彼らに対してどす黒い何かが湧き起こる。

 クロヴィスは、この大講堂に入場を許されていないが、彼が側にいればなんとかサヴァイヴの乱れた心を静かにさせる事ができただろう。

 指定された席に腰を下ろす。前後左右の生徒がびくびくしだすのが分かり、ただ、静かに息をしてなるべく心を平穏に保とうとした。

 やがて式が始まる。同じ年、第四王子も入学するため、その姿を壇上に見せた。

「……あれが第四王子……」

────俺からヴィーを取り上げた男か……

 自分の不甲斐なさを棚の上に置いて、ふつふつと初めて見た王子に怒りや嫉妬心が芽生える。なるべく王子を見ないように心掛けていてもやはり注目せざるをえない。

 サヴァイヴが荒れ狂う気持ちのままでいると、いつの間に話が終わったのか会場中が割れんばかりの拍手がいつまでも鳴り響いていた。

 サヴァイヴは騎士としての校舎、王子やイヴォンヌは政治経済など国を治めるための修学をする校舎に別れた。それぞれ、重なる科目は必要最低限であり、しかも、それに対してそれぞれのスペースや教員が用意されている。一部のカリキュラムにおいては、年に数度彼らは一堂に会するがほぼ接点はなく、ほとんど姿すら見ない日の方が多いのだ。

 サロンや社交を積極的にしている学生たちはいるものの、お互いの校舎に立ち寄らない者が過半数以上を占める。

 騎士を目指す者の多くは、後継ではなく卒後立身しなければならない爵位継承がないような貴族の生まれや、金持ちの平民が多い。女性は騎士には不向きと判断されており、精々護身術を習う程度であるため、この校舎は少年ばかりだ。

 サヴァイヴは、すでに戦に何度も出ており、彼にとってほとんどお遊びのような訓練に対して内心ため息を吐く。すでに習得しているため、教えを請われる事も多い。

 敢えて他人に対して敵対心などを抱かせるような態度はとらないものの、すでに彼が名だたる武人である事を知らない者はいない。更に、大柄で頬に傷のある彼は、そこにいるだけで畏怖を抱かせるのだ。

 だが、騎士を目指す少年たちにとって、彼は憧憬の念を抱く対象だ。授業や彼らが自主的に訓練を行う際に、恐る恐る声をかけてくる少年たちがいた。

「サヴァイヴ様……」
「なんだ?」

 辺境伯という高位貴族の後継である彼は、子爵家男爵家の令息たちにとっては雲の上のような存在だ。無視されるか睨まれるか、あるいは怒鳴られるかもしれないと思っているのか、とても腰が低い。

「あの、僕たちに剣の稽古をつけてはもらえませんか……?」
「かまわないが……」
「あの、ご迷惑でしたら無理にとは……! え?」

 まさか承諾されるとは思っていなかったのだろう。了承されてびっくりしたものの、実地の経験もあり教師よりも上手く剣を振るう彼に直接訓練してもらえるとわかった少年たちは、わっとはしゃぎ喜んだ。

「あの、僕の家はお恥ずかしながら、その……馬がいなくて……。良かったら乗馬も……」
「ああ、乗った事がないだけでなく馬を知らないのなら、馬を知る所からでいいか?」
「わぁ……、ありがとうございます。正直なところ、初めて見るので怖くて……。貴方からすれば情けないですよね」
「いや、そんな事はない。ここに来た以上文官でなく騎士を目指すんだろう? 3年あれば扱えるようになるさ」
「ありがとうございます!」


 明るい笑みはないものの、丁寧に初歩の事ですら面倒がらずに教えてくれるため慕われていくようになったのである。


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