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初恋の君と僕②※R15
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フラットがイヴォンヌとキスし始めた頃~過去に戻ります。数話王子側の話になります。
「フラット、ちょっといいかな?」
「はい、兄上」
フラットは、イヴォンヌと婚約を結び、会えば所かまわずキスを必ず交わすようになって暫くしてから王太子に呼ばれた。アルフレッド以外の人物を部屋から追い出して、彼の淹れたお茶を飲みながら対峙する。
「フラット、最近のお前は羽目を外し過ぎだ。少しは隠れてするものだぞ?」
「僕が婚約者と接触していい範囲は超えておりません」
「いや、だがな? 彼女と仲が良いのは好ましいが、時と場所を考えろと言っている」
「……兄上だって所かまわず、僕以上の事を義姉上にしていたって……」
「あ、いや。それは、だな。ゴホン、今は私の話をしているわけではない」
暫くの間、苦言をものの見事に返り討ちにされて、王太子はしどろもどろになる。途端にやや緊迫していた空気が霧散し普段の朗らかな兄弟の会話に変わった。
そして、ひとしきり笑い合ったのち、王太子であるフラットの兄は身を少し乗り出して真剣な表情をした。
「それに、大丈夫なのか……? 無理していないか?」
言いづらそうに、けれど、とても大切な話だからと、本題はこちらであると訊ねた。
「うん。なぜかわからないけれど、イヴとなら出来ると思う……。他の女の子だと手を繋ぐことも無理だったのに」
「そうか……。俺は、お前が傷つかなければそれでいい。だがな、無理なら早めに相談しろよ? あの子の事だって、お前や俺たちの都合で不幸にして良い訳はないのだから」
「うん、分かってる」
彼がじっとフラットの瞳を見て、何もかもを見透かし、まるで心の奥底を読もうとしているかのようだ。
「えっとね……。あの日にさ……」
「フラット、辛い事は言わなくていいから。顔色が悪くなってきているし、呼吸も……。ほら、落ち着け」
「ひゅー……、だ、だいじょうぶだよ……。とにかく、イヴだとね、心があったかくなって、ぎゅってしたくなるし、イヴからも抱きしめて欲しいって思うんだ。怖かったけど、口づけもちゃんと出来たんだ。もっと、イヴに触れたいんだ……」
フラットの胸がドキドキ嫌な音をたててリズムを刻んだ。手足が冷えて、暗闇に真っ逆さまに堕ちていくような、ぽつんと同じところに取り残されているような感覚になっていく。王太子が隣に移動し、手を握りながら背中を擦る。
「そうか……。フラットにも、やっとそういう相手が出来たのか……」
「うん……。だからね、兄上。僕はこのままイヴと早く結婚して、兄上を手伝いたい。まだ、子作り出来るかどうかは、わかんないけど、イヴとなら出来そうな気がする」
フラットの荒げた呼吸が落ち着く。顔色も戻り、王太子はほっと安堵した。
「子供は無理に作らずとも、俺が沢山作って一人をお前にやってもいいぞ?」
「作るのは、まあ、兄上もだけど、産むのは義姉上じゃないか……。出産は命がけでしょう? あんまり義姉上に負担を強いたらダメだよ」
「ははは、そうだな。まあ、もしも、もしも無理そうなら、お前と彼女にとっていいように取り計らってやれるよう協力するからな。あと、出来れば、彼女にも打ち明けたほうがいいぞ?」
「……イヴには、うん、そうだね。考えておくよ……」
部屋にはフラットの事情を知っている者だけが控えている。
フラットの精神は、まだまだ油断はならなさそうではあるが、彼の明るい展望が見えて目が細くなった。
※※※※
フラットが精通して間もない頃、閨のための教育が始まった。はじめは座学だったが、やがて実地になった時、肉感的な未亡人が彼の寝室にやってきた。
彼女は、先代王妃の親戚筋の末端ではあるが信頼厚い女性であった。
夫に先立たれ、子供がすでに後継となり専ら社交で楽しんだり別荘で過ごしたり自由気ままにしていた女性だ。他にも閨の指導をしており、彼女に任せていれば安心だろうと選ばれた。
暗い寝室の中で、そっと小さな手を取り、蠱惑な笑みを浮かべる。フラットは、ドキドキとこれから起こる事への期待と不安で顔を赤らめていた。
初日は恙なく終了し、フラットの体に問題がない事を確認された。
「フラット、ちょっといいかな?」
「はい、兄上」
フラットは、イヴォンヌと婚約を結び、会えば所かまわずキスを必ず交わすようになって暫くしてから王太子に呼ばれた。アルフレッド以外の人物を部屋から追い出して、彼の淹れたお茶を飲みながら対峙する。
「フラット、最近のお前は羽目を外し過ぎだ。少しは隠れてするものだぞ?」
「僕が婚約者と接触していい範囲は超えておりません」
「いや、だがな? 彼女と仲が良いのは好ましいが、時と場所を考えろと言っている」
「……兄上だって所かまわず、僕以上の事を義姉上にしていたって……」
「あ、いや。それは、だな。ゴホン、今は私の話をしているわけではない」
暫くの間、苦言をものの見事に返り討ちにされて、王太子はしどろもどろになる。途端にやや緊迫していた空気が霧散し普段の朗らかな兄弟の会話に変わった。
そして、ひとしきり笑い合ったのち、王太子であるフラットの兄は身を少し乗り出して真剣な表情をした。
「それに、大丈夫なのか……? 無理していないか?」
言いづらそうに、けれど、とても大切な話だからと、本題はこちらであると訊ねた。
「うん。なぜかわからないけれど、イヴとなら出来ると思う……。他の女の子だと手を繋ぐことも無理だったのに」
「そうか……。俺は、お前が傷つかなければそれでいい。だがな、無理なら早めに相談しろよ? あの子の事だって、お前や俺たちの都合で不幸にして良い訳はないのだから」
「うん、分かってる」
彼がじっとフラットの瞳を見て、何もかもを見透かし、まるで心の奥底を読もうとしているかのようだ。
「えっとね……。あの日にさ……」
「フラット、辛い事は言わなくていいから。顔色が悪くなってきているし、呼吸も……。ほら、落ち着け」
「ひゅー……、だ、だいじょうぶだよ……。とにかく、イヴだとね、心があったかくなって、ぎゅってしたくなるし、イヴからも抱きしめて欲しいって思うんだ。怖かったけど、口づけもちゃんと出来たんだ。もっと、イヴに触れたいんだ……」
フラットの胸がドキドキ嫌な音をたててリズムを刻んだ。手足が冷えて、暗闇に真っ逆さまに堕ちていくような、ぽつんと同じところに取り残されているような感覚になっていく。王太子が隣に移動し、手を握りながら背中を擦る。
「そうか……。フラットにも、やっとそういう相手が出来たのか……」
「うん……。だからね、兄上。僕はこのままイヴと早く結婚して、兄上を手伝いたい。まだ、子作り出来るかどうかは、わかんないけど、イヴとなら出来そうな気がする」
フラットの荒げた呼吸が落ち着く。顔色も戻り、王太子はほっと安堵した。
「子供は無理に作らずとも、俺が沢山作って一人をお前にやってもいいぞ?」
「作るのは、まあ、兄上もだけど、産むのは義姉上じゃないか……。出産は命がけでしょう? あんまり義姉上に負担を強いたらダメだよ」
「ははは、そうだな。まあ、もしも、もしも無理そうなら、お前と彼女にとっていいように取り計らってやれるよう協力するからな。あと、出来れば、彼女にも打ち明けたほうがいいぞ?」
「……イヴには、うん、そうだね。考えておくよ……」
部屋にはフラットの事情を知っている者だけが控えている。
フラットの精神は、まだまだ油断はならなさそうではあるが、彼の明るい展望が見えて目が細くなった。
※※※※
フラットが精通して間もない頃、閨のための教育が始まった。はじめは座学だったが、やがて実地になった時、肉感的な未亡人が彼の寝室にやってきた。
彼女は、先代王妃の親戚筋の末端ではあるが信頼厚い女性であった。
夫に先立たれ、子供がすでに後継となり専ら社交で楽しんだり別荘で過ごしたり自由気ままにしていた女性だ。他にも閨の指導をしており、彼女に任せていれば安心だろうと選ばれた。
暗い寝室の中で、そっと小さな手を取り、蠱惑な笑みを浮かべる。フラットは、ドキドキとこれから起こる事への期待と不安で顔を赤らめていた。
初日は恙なく終了し、フラットの体に問題がない事を確認された。
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