【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ

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7 シビルさんは熊のように大きくて、ちょっと怖いけど優しい

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 シビルと名乗ったプロレスラーみたいに大きな男の人は、ふんわりとした黒髪を短髪にしていた。米神くらいの高さに左右ひと房ずつ白い髪が混じっている。
 彫りの深い外国人みたい。整っているけれどもちょっと怖い感じの顔つきだけど、その瞳は日本人に似て黒っぽいからなんとなくホッとした。それに、私の事をとても心配してくれているのか、一つ一つの動作や、体の奥底にビリビリ響くほど低い声も聴いていて居心地がいい。
 なんとなく、ほんとになんとなくなんだけれども、この人ならついていっても安心だなって思った。といっても、他に何をしていいのかわかんないし言う事を聞かなきゃなんないけど。
 これから、さっき王子が言っていたゼクスっていう人の所に連れていかれるのだろう。

「君をゼクス王子の元に案内する。すでにゼクス王子には伝令を飛ばしているから、きっとおやつやジュースを用意してくれているはずだ。少し急いで行くから俺に捕まっていてくれ」
「え? きゃあ!」

 シビルがそう言うと、私は小さな子供がされるみたいに、おしりをその太い左腕に乗せて座る形で縦抱っこをされた。
 私は突然視界が、見上げるほどの彼の高い身長と同じくらいにあげられたから怖くなりしがみ付いた。

「カレン、悲しくて心細いだろうが、君の事は俺やゼクス王子が必ず守るし、出来る限りの事はする。だから、たくさん食べて大きくなれ。その、ここで幸せになれるように俺たちが側にいるから」
「え……あ、はい」

 大きくなれとは……?

 さっきからジスクール王子といいシビルといい、私をいくつだと思っているのか。こうして子供の様に扱われている事からも、やっぱり幼稚園児、は言い過ぎかもしれないけど小さな子供だと思われているのだろう。
 でも、そのほうが多少のわがままを言っても親切にしてもらえそうだ。

 私は、彼らの誤解を解こうとはせず、聞かれもしなかったので年齢を打ち明ける事はなかった。

 やがてたどり着いたのは、北海道庁旧本庁舎赤レンガのような建物だった。近所にある赤レンガに似たそれを見て、なんだかなつかしく思えて胸がきゅっとなる。

 帰れないって言っていた。だから、家族や友達だけじゃなくて、赤レンガを見る事ももうないんだなあ……。

 そう思うと、さっき泣き止んで抱っこされながら移り変わる景色にびっくりして乾いた目に涙が溜まっていった。鼻の奥がツンっとなって、ずずっと鼻をすする。

「カレン、どうした?」
「あ、ううん……。なんだか懐かしくなって。この建物に似たやつが、うちの近所にあったの」
「そうか……」

 シビルが眉を下げて、私の頭を大きな手で撫でてくれる。私はぶわっと涙が溢れてしまって、彼の肩に顔を埋めた。

「うう、うぇっ、うぇえん……」

 まるで子供のような泣き方だ。あっという間にシビルの左肩が濡れた。そこには、肩章がつけられていて、金色の糸でゴージャスに刺繍されていた。そういえば、騎士団の団長とかなんとか言っていたからきっと偉い人なのだろう。

ずーずずっ、ずびっ

 鼻水までいっぱい出てきちゃってどうしようもない。シビルがそっとハンカチで顔を拭いてくれた。

 そうしている間にも、シビルは歩き続けてくれたのか、建物の奥にある大きな扉にたどり着くとノックした。中から、テノールの男の人の声がする。

「シビルか? 入って」
「はっ」

 シビルがそう言って、部屋の中に足を踏み入れると、少しひやっとした空気に変わった。そう言えばこの建物に入ってから、外よりも少し涼しい気がする。

  さっきまでいた場所は少し暖かいくらいだったのに……。

「ゼクス王子、この子が神託の乙女と共に巻き込まれてこちらに来てしまったカレンです」

 私の顔も心も、悲しみと涙でずたぼろだ。顔をあげる気力もなく、温かくて大きなシビルにしがみついたまま動かなかった。

「カレン……? これから君の面倒を見てくれるゼクス殿下だ。挨拶くらいは……」
「シビル、いいよ。今はきっと辛くてたまらないだろうから。その子は、シビルの事は信頼しているみたいだね。落ち着くまで抱っこしてあげていて」
「ですが……」
「はは、とりあえずソファに座りなよ。カレンはシビルの膝の上に座らせて貰うと良い」

 私は相変わらずシビルにべったりへばりついたままだ。体勢が変わり、彼の胸に顔を隠すように首にしがみ付いた。

「随分と懐かれたね」
「いえ……恐らく他にいないからだと……」
「いや、きっとカレンはシビルが優しい男だって気づいたんだよ。カレン、君が思う通り、シビルは絶対に君を裏切らない。だから安心して兄、というよりも父親か? 家族みたいに頼るといいよ」
「おにいちゃん……」

 ゼクス王子が兄という単語を出した瞬間、カタナの事を思い出した。そうだ、私がいきなりこっちに来たから、きっとすごく心配している……!

「あ、あの」
「なんだい?」

 私は帰りたいけど帰れないこの状況に、今でも目が覚めたらこんな悪夢から出られるという淡い期待を抱いている。だけど、やっぱりこれは現実で、いきなりいなくなった私を心配しているだろう両親や兄の事が気になった。何か、知っているかもしれないと、涙まみれで汚れた顔なんて構わずに、シビルの肩から顔をあげてゼクス王子を見た。

 テーブルの向こう側には、黄色に近い金髪に黒い瞳の、優しそうなイメケンがいた。まるでモデルかアイドルみたい。ジスクールとはまた違ったタイプのイケメンだ。
 威圧感とか全くなくて、まるで兄のようにとんでもなく優しい瞳で微笑む彼に一瞬魅入ってしまう。

「カレン?」

 ぼうっとゼクス王子を見ていた私に、シビルが声をかけてきた。はっと我に返って、慌ててゼクス王子に訊ねる。

「あの、私が消えた後、きっと両親も兄も心配しているはずなんです。帰れないって本当ですか?」

 私はすがるようにゼクス王子を見つめた。

 ひょっとしたら、さっきまでのジスクール王子の話は嘘か、何らかの形で実は帰れる方法があるかもしれない。

  そんな一縷の期待を込めた問いは、ゼクス王子の痛ましそうな表情を見た瞬間、やっぱり帰れないという事実を突きつけられたも同然だった。









 



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