【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ

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8 Goeie nag 異界から来た子供

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 僕は、召喚が成功したという第一報に喜んだ。

  ジスクール兄上はとても有能だし優しい。こんな混血の僕の事もすごく気にかけてくれて、兄上にとっては来たくもないだろう、この寒い館にも頻繁に訪れてくれる。
 そんな兄上だから、きっと神託の乙女と順調に愛を育むだろう。僕だって、女の子なら兄上の妃になりたいくらい。
 兄上はすんごくモテる。でも、会った事もない神託の乙女一筋だった。会えば必ず、見てもいない神託の乙女の幻想を(来るたびに乙女のイメージがかわいかったり、美人だったりとコロコロ変わるけれども)僕に夢見るように話していた。完全に空想の女の子に恋をしていて一向に現実に目を向けてくれないから、父達もヤバいと思いだしたほど。

 とにかく、これで兄上の恋が実りそうで良かった。義理の姉上になる乙女はどんな人なのかな? 意地悪な人だったら嫌だなぁ……神託の乙女だしそれはないか。

 兄上は、異界の乙女だし僕の住む寒い環境でも過ごせるだろうから、一緒に求婚しようって言ってくれた。けど、いくらお嫁さんのあてがない僕でも会った事もない女の子とどうこうする気になれない。
 それに、兄上だって、本当は乙女を独占したいはずだ。僕ならきっと、愛する人を他の男と共有とかってやっぱり不満だから。

 この国では女の子が少ないから、女の子は最低でも3人の夫を持つ事が義務付けられている。それで今はなんとかバランスを保っているけれども、一夫一妻なら、あぶれた男が何をするかわからない。現に、過去には女の子の誘拐や、女の子をめぐる男同士の争いが絶えなかったようだ。

 兄上は王になる人だから、まずは兄上の子をできればふたり産んでもらって、それから夫候補たちとの子も作ってもらう事になるだろう。
 神託の乙女が、複数の夫を望めばだけれども。

 ただ、兄が浮かれすぎて暴走して嫌われてなければいいけれど……。

 そんな風に一抹の不安がよぎった時、

『……呼びませんから。あとですね、そんな地位はこれっぽっちもいらないので、すぐに私とカレンちゃんを元に戻してください。伯父たちは私を心配しているでしょうし、カレンちゃんだってご両親やお兄様が心配しているはずです』

  新たに来た報告で、乙女はそう言って拒絶したらしい。言わんこっちゃない……兄上何やってんだよ、と心配したのとちょっと苦笑した。

 報告が順次僕の元にも舞い込んでくる。どうやら神託の乙女は、『異界にこれ以上住みたくないほどその世界に対して悲観しているからこの国に来た事を喜び幸せになる』と聞いていた内容と違い帰りたがっているらしい。しかも、もう一人、小さな子供も一緒に来たという。

 この国での乙女の立場や兄上の妃云々の話なんて、そんなのは乙女にしてみたら迷惑以外の何物でもなさそうだ。
 だけど、帰してと言われても、帰せるはずがない。そんな方法は神託にもなかったし、どこから来たのかわからないのだから。
 気の毒だけれども、誘拐みたいにこの国に召喚した事を、僕たちは彼女や一緒に来た子供に生涯をかけて償わなければならない。

 どんなに悲しいだろう。僕だっていきなり兄上や父たちと離れたら、きっと辛くて堪らない。

 それにしても、名前すら呼んでもらえないなんて、一体兄上は何をして乙女を怒らせてしまったのだろう?

 とにかく、ちょっとずつでいいから兄上を理解してくれるといいなと思う。そのうち、僕にも会わせて貰えるだろう。

『ゼクス、異界から来た子供の事なんだが……。とても小さな子で家族を恋しがって泣いているんだ。召喚に巻き込んでしまった彼女を任せられるのはお前だけだと思う。私は政務が忙しいし、他の男達から四六時中狙われるだろう──すでに狙われ始めている──ビィノを守るだけでも厳しい。一緒に来たカレンは、小さな子供とはいえ女の子だ。他のやつらなら、本人の意思などお構いなしに囲い込んで、小さいのに無理やり嫁にしかねないからな。成人するまで面倒を見てやって欲しい。ビィノにも、カレンにも幸せになって欲しいし幸せにしなきゃならない。勝手を言うが頼めるか?』

 兄上がこんな風に必死に僕に何かを頼んでくるなんて珍しい。けれども、兄上の危惧する事はわかる。この国の適齢期の独身の男は、環境に強い子を産むことができるという異界の乙女に我が子を産んで欲しいに決まっているから。
 下手をすれば、離縁してでもビィノやカレンを我が物にしようとする男も出てきかねない。

『うん。ここにいれば寒いから兄上やシビル以外は近寄るのも嫌だろうからね。僕が出来る限り、その子供を守るよ。もちろん、兄上が不在中の時には義姉上の事も。だから安心して義姉上と向き合って』

『ありがとう、ゼクス。シビルも向かわせるから一緒にカレンを守ってやってくれ』

 どうやら、義姉上と言った事を否定しなかったから、今はビィノに嫌われてしまったみたいだけれど、兄上は諦めなさそうだ。そりゃそうか。そんな初対面で嫌われて諦めるくらいなら、とっくに他の女性と結婚しているだろう。それほど、兄上は神託の乙女に傾倒している。

 僕は兄上の健闘とビィノのこれからを思い、幸せを神に祈った。

 そんな事を考えていると、ドアがノックされた。

 来訪者はシビルで、彼の左腕にはちょこんと小さな子供が乗っかっていた。体もとても細くて折れそうだ。顔はシビルの肩に埋めているからわからないけれど、艶のある真っ黒の髪は肩甲骨の下くらいまである。

 シビルにひっつき虫のようにへばりついているから、シビルに抱っこしたまま座るよう伝えた。まるで、親か兄のように彼に抱き着いているから、こんなにも早く信頼されているシビルを少し羨ましく感じる。

 少しずつ、怖がらせないように注意して話をしていたら、カレンが僕を見てくれた。涙で腫れぼったくなった目元や、濡れた頬を見ると、僕の胸までもぎゅーって握りつぶされたかのように痛む。

 かわいそうに……。どんなに家族に会いたいだろう。

 それとは別に、幼い顔をしたカレンの可愛らしい表情や濡れて煌めく瞳を見て、なぜだか胸のどこかが高鳴ったのを感じた。
 きっとこの子は、泣き顔なんかじゃなくて笑顔が似合うに違いない。笑った顔が見たくなり、僕が笑顔にさせたいと思った。

「あの、私が消えた後、きっと両親も兄も心配しているはずなんです。帰れないって本当ですか?」

 カレンが、万が一くらいの期待を込めて僕に訊ねた内容に、僕は言葉が詰まった。けれど、返事をしない事が答えだとわかったのか、カレンはぼろぼろ涙を流し始め、そして、もう精神的にいっぱいいっぱいだったのだろう。シビルの胸で涙を流しながらすうすう寝始めたのだった。

「おやすみ、カレン。せめて夢の中では幸せなひと時を……」

 僕とシビルは顔を見合わせ、瞼を閉じたカレンを見下ろす。どうか、カレンに笑顔が戻る日が来ますようにと願いながら。




Goeie nag おやすみなさい
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