完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

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 太陽が西に沈む時間が早くなり、夕方には真っ暗で冷たい風が吹きすさぶ季節になった。
 ふるりと身を震わすような寒さではあるものの、魔法石のお陰で凍てつく寒さには苦労したことがない。とはいえ、平民や貴族の使用人たちは、冬の準備のために慌ただしく東奔西走していた。

 そんな中、冬支度の指示をしつつ愛する夫の帰りを待つのは、王都から魔導列車で小一時間の中途半端な田舎ともいえる、そこそこ貧乏な領地を治める若奥様。ここは、雪山がすぐ隣にあるため、冬の初めだというのに、王都よりも気温が10度も低い。最近では、はらはらと小雪がちらつくこともあった。

「奥様ー、御主人様お気に入りのカーテンに虫食いが」
「冬用のシーツが黄ばんでいて……いかが致しましょう」

 彼女は、執事長や侍女長にまかせきりにせず、ひとつひとつ丁寧に確認しながら、夫が安らげる空間を作り続けていた。

「虫食い部分は、幸いにも刺繍で誤魔化せそうね。シーツは……。ちょっとこれは、洗濯では黄ばみがとれなさそうねぇ。王都の腕利きの魔法使いが務めるクリーニング店ならなんとかなるのでしょうけれど……。洗うために、氷水を温めるだけのことに、貴重な魔法石を無駄遣いできないし。これはハギレにして雑巾や雑貨などにリメイクしましょうか」

 これが、金持ちの貴族なら即座に買い替えの選択になるのだろうが、ここではそうはいかない。
 繁栄している王都と違い、食料には困らないが、日々の生活用品や、ましてや魔法石の流通は最低限のものしかない。しかも、魔法石に込められた魔力の貯蓄料は一定なので、1度使えば魔力の補充をしなければ使えない。
 緊急時のために魔法石の使用を節約する必要があるので、夫や領地に住む人々のために、贅沢はできないと質素清貧に暮らしていた。

「奥様、旦那様がおかえりです」
「まあ、もうそんな時間? 大変だわ。スープを温めないと」
「奥様、給仕は私どもがしますから。どうぞ、旦那様とお過ごしください」
「え、でも。セバスも足首を痛めたし、マイヤだって手があかぎれだらけじゃない」
「そう年寄り扱いせんでください。この屋敷には、わしら夫婦ふたりしかおらんのですから」
「そうですよ。しかも奥様ときたら、なにかにつけてご自分で何もかもされるんですから。この間だって、建付けの悪いドアを細腕で工具を持って修理したときにお怪我をされたではありませんか。さあさ、旦那様のところに行ってくださいな」

 他の使用人は、それぞれ冬支度のために実家に帰って冬支度の手伝いをしている。とはいえ、この屋敷で働いているのは総勢4人ほどだが。

「そう? じゃ、お願いね。でも無理しないでね」

 セバスたちが、半ば追いやるかのように奥様の背を押す。ふたりに根負けして、彼女は玄関に向かった。

「おかえりなさい、イヤル。今日もお勤めご苦労さま。外は寒かったでしょう?」
「エンフィ、ただいま。君がオレに持たせてくれた魔法石のおかげで、寒さは感じなかったから大丈夫さ。変わりはなかったかい?」
「ええ、皆も元気よ」

 エンフィは、自分が使うために取り寄せた魔法石を、「家にいるだけだから」と全て彼に渡している。しかし、金持ち貴族の家のように、家が防寒にすぐれているわけでも、部屋が魔法石で温度調整されているわけでもない。
 山から容赦なく襲う冷たい風の冷気は、屋敷の温度を下げており、彼女の手足は氷のように冷たくなっていた。

「はあ……少しは自分のために魔法石を使ってくれ」
「ふふふ、厚着をしているし、動いていれば温かいわ。本格的に暖房が必要になる真冬のために、魔法石は取っておかなくちゃ」
「オレが魔法使いなら、魔法石に無限に魔力を込められるのに」
「そんな事言わないで。そうそう、今日は鴨肉のスープよ。この間あなたが助けてあげた猟師が、見事な鴨を持ってきてくれたの。うまく下処理できたし、臭みもなくできたわ」
「王都の子爵家のご令嬢だった君が、オレと結婚なんてしなければ、そんな下働きなんてすることはなかったのに……不甲斐なくてごめん」
「何を言っているの! 私はあなたと一緒なら幸せなの。それに、こうなったのは、二年前にうちを騙した詐欺師のせいでしょ。それまでは十分すぎるほど贅沢させてくれたし、今だってあなたは頑張っているわ。その証拠に、今年は使える魔法石が増えたじゃない。私こそ、役に立ってなくてごめんなさい。ほら、早く手を洗って。ご飯にしましょ」
「エンフィ、君が役に立ってないなんてありえない。君がいるから、オレも頑張れるんだ。オレの世界一の奥さん。愛しているよ」
「ふふふ、私も愛してるわ」

 魔法石のお陰で温かい大きな唇と、家にいながらも寒さにさらされていた冷たい小さな唇が触れ合う。

 イヤルは、愛おしい妻の細い腰に手を当て、ふたりは寄り添いながら鴨のスープの香りがしだしたダイニングルームに向かったのである。


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