終 R18 好きでも嫌いでもない夫に嫌と言えない私は、むげにも出来なくて困っています。

にじくす まさしよ

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白黒まんまる愛らしい夫に、絆されて来たようです ※

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「ん”……ごごば……?」

 体中が痛い。あらぬ場所の骨の軋みを伴った筋肉痛で、ほんっとに体が動かせなかった。声がしわがれていて、しゃべると咽すら痛む。ほんのわずかに血の香りがした。

「メグッ! メグぅ~! 良かった、もう目を覚まさないかと!」

 あれれ? 離婚までカウントダウン残り1状態だったはずの夫が、涙を流して私の手を握りしめてくるなんて、一体全体どうしたこうした?

 そうだ、昨日この人に、腹上死に見せかけた殺人事件の被害者になるような、なんとも悪辣すぎる所業を散々されたのだった。

 でも、待って。私、生きてる! 生きてるー! やったわ、辛うじて生きてた!

 騎士の夫の猛攻撃に、か弱いただのパンダ獣人が打ち勝った。試合に負けて、なんとやらに勝つってやつね。

 ビクトリー! 実際はベッドの上で、視線をキョロキョロしか出来ない状態だけど、生きてるだけでビクトリーよ! 体が動くようになれば、夫が仕事に出かけた隙に実家に逃げよう。そうしよう!

 逃げなければ、これから毎日、アレをするって言ってた気がする。次があったら今度こそゴートゥーヘブンまっしぐらよ! 年始恒例のガラガラのゴールドの玉である、極上の笹が私を手招きして待っている天国への片道切符、一名様ご案内大当たりになっちゃう。

「旦那様、いい加減離れてください! ああ、奥様、もう大丈夫ですわ。さぁ、こちらをお飲みください」

「う”ん”……あ”り”が”ど”う”……ケホケホ」

「声まで涸れてなんとおいたわしい事でしょう。もうお話にならず。どうぞ、ゆっくり召し上がってくださいませ」

 優しい侍女たちが、私を抱き起してゆっくりスプーンで、滋養強壮のはちみつ入りのドリンクをもらうと、ひりひり痛んでいた咽がすぅっと楽になる。

「ああ、おいしい。皆、ありがとう……。死ぬかと思ったー!」

「今朝がた、旦那様が結婚してから初めてのお渡りをされた事を、執事から聞いたのです。お昼まで奥様が起きて来られないので、もしやと思ったら。まさか、旦那様にこんな風にされているなんて……。私たちが来たからにはもう大丈夫ですわ。このお部屋には、旦那様は入れさせませんからご安心くださいませ」

「ほんと? 助かるわぁ~。彼がいきなり来てしまって、もうダメかと思ったの」

 侍女たちの言葉に、心底ほっとした。シチミ様さえこなければ、私の身の安全は保障されたも同然。なぜなら、彼女たちも訓練を受けた手練れのパンダ獣人なのだ。いくら副騎士団長になったからといって、彼女たちが総勢でかかれば、夫はボロ雑巾パンダ獣人になるに違いない。

 私の安全は守られた! か☆ん☆ぜ☆ん☆勝☆利よぉ!

「メグ、そんな! 昨日はあんなにも僕を受け入れて愛してるって応えてくれたじゃないか! 今日からは一緒に寝るんだ。そんな、そんな事許さないぞ?」

 あ、しまった。夫がすぐそこにいたのね。

 あんまりにもドリンクが美味しい極上の甘露のようだったからついうっかり本音をありのままに口にしてしまった。こんな事を言えば彼の面目が立たない。私は滅茶苦茶怒られるだろう。

 彼の叱責を恐れて目を閉じてシーツをぎゅっと握ると、夫は怒るというよりも、泣いてダダを捏ねる子供のように言いつのった。いつもの威厳なんて20~30マイクロメートルほどのシアワセモほどもない。なんだか幼児のパンダ獣人みたいで、全然怖くないと思った。

「旦那様は黙ってくださいっ! 執事長、ぼさっと突っ立ってないでそこの悪逆非道なパンダ獣人だんなさま元の場所執務室に今すぐ捨ててらっしゃい!」

 侍女長たちにぐるりと囲まれた、御年56歳のイケオジパンダ獣人の執事長は震えあがって、私に泣いてすがろうとする旦那様の首根っこをひっつかんだと同時に、ぴゅーっと部屋から出て行った。

 侍女たちの鉄壁のガードとパーフェクト介護のおかげで、私の体はあっという間に回復した。毎日、仕事帰りの旦那様が、「メグ、僕だよ。照れてないでここを開けて!」ドンドン扉を叩いて泣いて五月蠅かったけど。

 体が元気になると、心も引っ張られて夫への恐怖や不安も小さくなった。ほとんどどころか、完全に合意なしの行為とはいえ、まだ夫婦なのだ。

 夫の言う事は絶対。子作りは妻の一番のおつとめ。だから、シチミ君が何を望んだとしても、きちんと応えるのよ?

 お母様の教えが頭の中を、エコーつきでリフレインする。

 あの日の夫の言葉を思い返すと、どうやら彼は私を嫌っていないのかもしれないと思い直した。なにやら、私の言動のせいで、あの日まで触れなかったようだし。普段のあの態度は、侍女たちが言うにはツンデレが拗れて捻じくれたあげく、まわりまわってああなってしまっただけだという。

 うーん……勘違い、思い違いにしてもほどがあるだろうと思いつつ。私も彼に対して無関心すぎて、近所の挨拶するくらいの奥様レベルの家の高校生の子供扱いだったから、もっとお互いになんとかできたのかもと反省した。

 彼は彼で、あの日私にした事を執事長に洗いざらい吐かされて、呆れられて何時間も説教されたらしい。くどくどネチネチ言われっぱなしになって、……子供のように拗ねたっぽい。
 この数日、夫はパンダの姿でもっふもふの真ん丸になって、背を向けて壁に向かって笹を泣きながらムシャムシャして過ごしたらしい。たまに人間の姿に戻って、おいしい料理を食べたくなっても、執事長含む全職員が一丸となって、笹しか与えなかったと聞いた。夫が厨房に直接乗り込んで料理長に頼んでも、笹を見事な包丁さばきで素晴らしい模型を作り、銀のトレイに乗せて提供するという徹底ぶり。

「あらあらまあまぁ……」

 巨大な白の真ん丸なフォルムが、目の前で木に括りつけられたタイヤにぷらんぷらんぶら下がって遊んでいる。彼にしてみれば、あれも訓練の一環であり、決して遊んでいたり拗ねているわけではないとの事。

「ワウ、ワウゥ……(メグ、ごめんよぉ。僕が悪かった。知らなかったんだ。あれが上級者向けだったんて。騎士団長がこっそり隠してあった、シュミケーン著の大人の恋愛の本に、ああすると女性が物凄く喜ぶって書いてあったんだよぉ……。うう、上級者向けなら上級編ってでかっくタイトルに書いとけよ……。メグに嫌われちゃったじゃないか。僕はこれからどうやって生きて行ったらいいんだ? ああ、メグと一緒に美味しいご飯が食べたい。一緒に寝たい~。手を出さないから……出さ……な、くない。絶対出しちゃうけど。ごめん、メグがあんまりにも魅力的だし可愛いし愛しいから、絶対出しちゃうだろうけど、ほどほどにするから、だから、一緒に寝たいんだ~)」

 タイヤが、左右前後に揺られて、くるくる回り出す。手足と耳の黒は、艶やかで美しい。白も丁寧にブラッシングされていてコントラストがはっきりしている。白いぼんぼりしっぽは、時々ぴこぴこ動いていて、実にキュート。

 タイヤ遊び、もとい、タイヤでの訓練に飽きた、じゃなくて、終了した彼が、ぽてんと地面に転がる。ウエストがない真ん丸おしりが、ころんとなったかと思うと、こちらに向けて大股開きで座った。たれ目模様の泣きつづけていたお顔が、私の姿を捕らえた瞬間、ぱぁっと花開いたかのように嬉しそうに笑った。

「旦那様、お久しぶりです」

 私は、夫から贈られたセーターを一枚だけ着用している。ここは気温を高く設定された温室の中なので、ハイネックのノースリーブのワンピースタイプだ。伸縮性のある厚手のセーターは、丈は太ももを1/3くらいしか隠していない。ピタッとした脇下からおしりの上寸前まで背中が大きくえぐれているため、ブラは着用できない。

 恥ずかしいけれど、頼りないそのセーターの模様がかわいいし、どうやら流行の服装みたい。侍女たちにも勧められ、彼からの贈り物を着て、仲直りしようとここまでやってきた。

「ワウ、ワウ……クゥン……」

「はい、もうそんなに泣かないでくださいな。皆から、全て聞きました。学生時代に、クラスメイトがガチムチ騎士たちを見て、男は体も地位も、せめて師団長レベルくらいじゃないとって言っているのを適当に相槌していた時の事で、当時ひょろひょろだった旦那様は体を鍛え上げようと思ったんですってね。合ってます?」

「ワン! ワフッ!」

「ふふ、で、あの夜の事は、良かれと思ってした行為だと。私が離婚しようとしている事を知って、慌ててやってきたのですってね。決して、私を懲らしめようとしたり、うっかり事故で亡き者にしようという意思はなかったと?」

「そうだ。僕は、折角昇進したし、ずぅっと僕が今のようになるのを待ち続けたメグに、逃げられるって思ったら、もう……。でも、ごめん、メグの気持ちを無視していた……ごめん……」

 ワンワンでは、いまいち詳細な意思疎通ができない。人間の姿になった夫と、長い時間話し合い、これから本当の夫婦のように仲良くなろうと誓い合った。

「メグは政略のようなものだったのかもしれないけど、僕はずっとメグが好きだった」

 夫が私を膝の上に乗せて座らせたかと思うと、背後から、セーターの脇に手を入れられ、ノーブラおっぱいを揉まれた。

 あら? さっきまでしょんぼり反省していた彼はどこにいったのだろう? 

 いくらなんでも切り替えが早すぎてついていけない。だけど、イヤと言えない私は、彼のなすがままされるがまま。

「ああ、メグ。僕のメグ。今度は優しくから。愛してるよ」

「あ……! あぁん、ダメ」

 ダメって言ったのに、言ったのにぃ……。

 あれよあれよと言う間に、おっぱいの谷間にセーターが寄せられた。そのすきに、裾もたくし上げられ、下着を降ろされる。指で散々愛撫されて、足がびしょ濡れになった時、後ろからゆっくり彼の剛直が入ってきた。


 あの夜リターンズかと身構えたものの、宣言どおり優しくシてもらった。



 仲直りだけだったはずなのに、舌の根も乾かないうちに、私に速攻手を出した夫は、侍女たちにお仕置きされている。翌日になった今、彼と私が仲直りしたと言っても、笹しか与えられていない。気の毒だけど、この人は懲りない人なのだろう。


「ジージー」

「はい、あーん。ゆっくり食べてね」

「ワン!」

 私の夫は、なんだかんだでその時はションボリ泣いて反省しているにしても、今はとっても幸せそうだ。どうしようもない夫を持った私は苦笑いをしつつ、嬉しそうに笹をもしゃもしゃ食べる夫がなんだかかわいく思えるのだから、私もなんだかんだで幸せなのだろう。

 それにしても、もう離婚なんてしないって言っているのに、下の処理をしようとすれば、「これでメグは別の男の所に行けないぞ。ここの処理はダメだからね? わかった?」と、いもしない別の男に嫉妬する夫のために、無毛に出来なくなった。
 妻としての嗜みなのに、チクチクするくらいに生えてきたそこをうっとり撫でるのは、是非やめていただきたい。

 そんな事、恥ずかしすぎて言えない私は、困りながらも、今日も彼に組み敷かれて激しい愛とほどほどの快楽を与えられるのだった。






R18 好きでも嫌いでもない夫に嫌と言えない私は、むげにも出来なくて困っています。──了


 お読みくださりありがとうございました。





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