3 / 5
2.起きたら実験室でした。
しおりを挟む意識が浮上した瞬間、私の期待は一秒で裏切られた。
異世界トリップの定番といえば、天蓋付きのベッドにふかふかの羽毛布団、そして「お目覚めですか、聖女様」と微笑む美形キャラ……。そんな甘い幻想は、背中に伝わる無機質な感触に叩き壊された。
「……え、硬いし、……なんか冷たいし」
目を開けると、そこは豪華な寝室どころか、完全に「手術室」だった。
周りは薄暗く、そして私にだけ煌々と光が当てられて眩しいったらない。
しかも、私が寝かされているのはアルミかステンレスか、とにかく鈍く光る金属製の台の上のようで、体が痛いから体制を変えたい。
身をよじろうとしたが、手足はご丁寧に皮のベルトで固定されていて部屋に台が軋む音が響いた。
「え……ちょっと! なにこれ! 誘拐!? 拘束!? さっきまでトカゲと戦ってたよね!? ……すみませーん!おーい!誰かー!!」
絶叫する私の声が届いたのか、寝かせられて見えないが頭の上の方で扉が開いて誰かが入ってきた。
「お!起きたか!」
白衣のようなものを着た男2人が、複数の注射器を手に持ち横に立った。
「はい!こんにちはー!」
「えっと……こ、こんにちは」
1人はとても元気に挨拶をしてくれたが、このベッドに括り付けられている状況と相反するテンションであった。
もう1人は何やら淡々とバインダーやらメスの様な手術道具やらをベッド横に用意していた。
「はい!それでは本日担当します、アロペット・ロロロラフと言います!そしてもう1人はアシュベトさんです!よろしくお願いします!」
めちゃくちゃ自己紹介してくれているが、何が何やらで頭が沸きそうであったが目の前の医者?は元気に話を続けていった。
「はい!本日行うのはまず鈍器や鋭利な刃物を使った物理攻撃への体制確認です!体のいたる部位と、力加減だったり、粘膜、口の中とかね!やってみます!よし!」
鋭利な刃物?……言われたことを理解しようとすればするほど血の気が引いていく。
「よし!じゃない!刃物って何!?物理攻撃への耐性って何?!!叩かれたら痛いに決まってるでしょー!刺されたら血でるよ!人間だよ私!何に見えてるの!鏡見せてー!!!」
「おい、実験体。動くな。陛下が連れ帰った『未知の検体』の反応を見る。とりあえず叩く刺すあたりから始めて……」
「待て待て待て! なんでさらっと恐ろしいこと言ってるの!? とりあえず一回試着してみようかーみたいに言わないでよ!私の体、一応28年連れ添った大事な体なんですけど! 」
私が台の上で陸に打ち上げられた魚のごとく激しくのたうち回ると、ベルトがミシミシと音を立て、2人がたじろいだ。
「わぁ!元気だねー」
「まだ何もしていないだろうが!」
「何かされてからでは遅いじゃないの! 助けて! 誰か! 警察! もしくはもっと上の話わかる人!!」
アシュベトさんはなんだかドン引きしていて、アロペットさんは何やら悩んでいる。
そして妙案が浮かんだのか、手のひらに拳をポンと置いて提案された。
「そっか!何されるか、どうなるかの説明してなかったね!それじゃ最初から丁寧にいこっか!」
「あ、え……?」
「はい!まずお名前をお願いします!年齢は28歳ね!種族は人間だよね!あと性別は女性で間違いないね!家族や既往歴もお願いします!」
「えっと、説明を受けてないからではなく……。えっと、東 咲、さきが名前です。年齢と種族?はご認識の通りで、家族構成は……こちらでは恐らくいないので独り身です。既往歴は小さい頃に左腕を骨折したことがあるくらいで、他に大病をしたことはありませんが、肌トラブルは比較的頻繁に起こりましてニキビができやすいです」
「肌トラブルは聞いてない」
なんだか気の抜けた回答になってしまった。
アシュベトさんは私が言ったことをメモしている。
「ほうほう、ご家族はいないと……。ちなみになんで奴隷落ちしたの?」
「気がついたら森にいて……」
こちらの世界にきた馴れ初めを話し終えると黙ってしまったアロペットさん。
一通り話しているとどんどん俯いてしまった。そして話終えると、いきなり顔を上げたと思ったらぶえーと泣き出してしまった。
「そっかぁ、そっかぁ、大変だったねぇ……買い手つかないからって戦地に放り込まれて……ここで実験されることになって……頑張って生きてたんだねぇ……」
「そうなんです。とりあえず、これ取ってもらって……」
「よし!そうと決まればさっさとやっちゃおう!」
そう言ってサイドテーブルに置いてあった金槌を持って思いっきり振り上げていた。
「なんで!いやーーーー!!あ゙ぁ゙あ゙!今の流れ、解放する感じだったじゃん!!!」
アシュベトさんがうんうん頷いているのが見えるが、味方をしてくれる訳でもなかった。
陸に打ち上げられた魚が最後の足掻きで、更にのたうちまわった。
狙いが定まらないと言ってなかなか振り上げられた金槌が振り下ろされることはないのを見た私は、諦めて金槌を置かれるまで暴れ回った。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる