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3.暴れたら上司がきました。
しおりを挟む私は何故か硬い床に正座をさせられている。
「ということで、大人しく実験を受けていただく」
「いや……、と言うことでも何も、痛いのは嫌だと申し上げておりまして……」
陸に打ち上げられた魚は最後の命を燃やして、海に帰ろうとしていた。
私なのだが。
騒いで、暴れに暴れまくっていた時、実験室のドアが勢いよく開くような乾いた音と共に、コツ、コツ、と潔癖そうな靴音が響いた。
「——やかましいですね!魔王城の静寂を乱すのは、その下品な叫び声ですか」
現れたのは、全身白の防護服にガスマスクをつけた人だった。
「あ!セプティム様」
二人がかしづいた。
その行為から、このいきなり入ってきた人が偉い人なのはすぐわかった。
「あの!その全身防護服の方!こちらのお二方の上司とお見受けいたします!何卒こちらの拘束具を外してくただいませんか!何かの手違いなんです!私、物理耐性?なんてありませんよ!一般人です!」
「こら!勝手にしゃべるな!この方はこの魔国ナンバー2の宰相、セプティム・マトマフ様だ!お前がおいそれと話ができる方ではない!」
ナンバー2の宰相ということにも驚いているが、なんでこの人は全身防護服なのか。
そんなこと気にしていられず、ここは最後のチャンスである。
何とか解放してもらわないと、私の体がズタズタにされてしまう。
「あの! 宰相様? 助けてください、この2人が鈍器で私を殴ろうと……」
「黙りなさい!細菌が散る!」
助けを求めた私を、宰相は冷ややかな、それこそ「床に落ちた生ゴミ」を見るような目で見下ろした。表情見えないけど。
「貴女、自分が今、どれほど無作法な振る舞いをしているか理解していますか? まず、叫ぶなど唾液が飛散します。衛生概念というものがないのですか? 貴女がいた環境では、口から菌を撒き散らすのが挨拶なのですか?」
「いやいやいやいや!? ちょっと待ってくださいよ! 命の危険を感じたら誰だって叫ぶでしょ!私だってこんなキャラじゃないよ!いきなり起きたら鈍器で殴られるとか、物理耐性の確認なんて無理でしょう!怖いに決まっているじゃないの!こんなに縛られてさ!元気に叫ぶでしょう!」
「いいえ、物理攻撃耐性と魔法攻撃耐性があることはすでに確認済みです」
確認しているなら鈍器で殴る必要がないじゃないか。
「わかってるなら何の茶番?!」
「えええい!人の話を最後まで聞きなさい!うるさい!そこへ座りなさい!」
ということで、冒頭の正座をさせられている。
「まず貴女は先日戦場で、バジリスクの雷撃を『無傷』でやり過ごしました。その後魔王様の一撃の衝撃波で岩に体を打ち付けられているはずですが、骨折どころか擦り傷一つない。覚えていますか?」
首を振ると、はっと鼻で笑われてイラっとする。
「覚えていなくてもそれが事実なので、記憶の有無はさして重要ではありません。その事実から推測すれば、この程度の鈍器で殴られるくらいで命を落とす可能性は極めて低い。それなのにこれだけ騒ぎ散らかして、一時報告に来てもいい時間なのに、来ないから様子を見に来てみればなんですかこれは」
「いや、だから、痛いの怖いし、耐性とか言われても本当に死なないかなんてわからないし、怖いものは怖いもので……」
目の前の宰相は溜息しかはかない。
「で?このまま実験を実行しようとすれば、今後も変わらず騒ぎ散らかすと?」
「痛いのは嫌なので、できるだけ阻止できれば騒ぎ散らかします」
「ほお、では実験に付き合わないのであれば処刑場に連れて行って、毒や水ではどうか、魔力封印をしてどうすればダメージが通るかやってみますか?」
今の実験の更にむごいことを提案されてしまった。
考えただけでもおぞましい。自分が死ぬまでどんなことでもされるということだ。
この人達は別に私がどうなろうと、死んでも生きても特に何にも感情が動かないと悟るしかなかった。
「……あ、いえ……それは、遠慮したい……です」
「はぁ、やっと自身の立場がご理解いただけたようで……。まぁ、勘違いしていただきたくないのは、奴隷だから、人間だからと差別するつもりはありません。魔族は実力主義、使えるものは使います。あなたの有用性が認められれば、この国に居場所があります」
思いがけない優しい言葉に俯いていた顔を上げれば、変わらず表情が見えないマスク。
頑張るしかないかと決意表明をしようと口を開いたが……。
「まぁ、弾除けくらいにはなりましょう」
捨て台詞をはいて宰相は出て行った。
決意表明なんてくそくらえだ。
かしづいていた2人は頑張って魔国一の弾除けになろう!なんて拳を握っている。
――殴ってもいいだろうか?
それから、私は拘束具を外してもらい、これからどうするか改めて説明と自身の意見を述べて人体実験のスケジュールを詰めていった。
「東さんが寝ている間に鑑定スキルである程度はわかっている」
「え?ならなぜ聞いた?」
「本人から情報を得ると更に詳細まで能力がわかったり、偽装をしていることもあるから聞くに越したことはないんだ」
私にはわからないことが多すぎた。
こちらに落ちて、半年くらいは経っていたと思う。
奴隷のお姉さんに聞いて、この国のさらっとした歴史や、お金の勘定、挨拶などの習慣は聞いている。
実力主義であり、差別もあまりないことも知っているが弱者にはかなりあたりが強い。奴隷制度も今の魔王になる前は本当に使い捨ての奴隷で、社会への厚生的な意味合いは全くなかったそうだ。
――意外と今の魔王って厳格者なのか、宰相が優秀なのか。
「ちなみに、お前の物理・魔法耐性はギフトと呼ばれてな、スキルではない」
ギフトとは、生まれながらにして1つ以上他者より特出した能力を授かる。この能力は定まっているわけではないが、遺伝の影響も受けやすいため、珍しいギフト持ちは国から管理されることもある。鑑定スキル持ちに鑑定されて国に登録が必須となる。
――出生届の詳しい版みたいな感じかな?
ギフトはまれに後天的につくこともある。
これは常軌を逸した修行や、死に直面した場合などに見られることが多く、そこまで多くの例はないが、現在の魔王は魔力圧縮と言って、体内に膨大な魔力を保有することができるようになっているらしい。
「ちなみに、東さんの物理耐性・魔力耐性自体はあまり珍しいものではないんだ。ギフトじゃなくて魔力を消費してスキルで耐性上げることもできちゃうから。でもね、ちょっと違うのが絶対って前についちゃってるんだよね。」
「え!絶対!」
「いや、かっこいいとか思っているところ悪いが、完全や絶対とついているギフトはそうそうお目にかかれなくて、どこまでが絶対なのかの範囲が分からない。大抵は料理中に手を切らないくらいなんだが、種族的なものが関係しているのかなどわからないことが多い」
「あ!ちなみに寝ている間に採血しようとしたけど、針とんでっちゃった」
寝ている間に勝手に針刺されようとしてて、おどけているアロペットさんを睨んでしまった。
「あ!ちなみにスキルというのはね、自身の経験や実践で培った能力のことで魔力を使わなくても発動できたりできるから、ギフトの下位みたいなものかな?例えば、目利きとか、運上昇とか。毎日魚を見ている漁師に目利きが付けば、良い魚を見分けられたり、プロのギャンブラーが経験から勘が鋭くなって運が上がる的なこと」
――スキルがあれば熟練者であるという証明で、元の世界では免許や資格みたいな感覚なのかな。
「で!君は今奴隷なので、労働先を探さないと今回みたいに戦地に行かせられたり、過酷な環境、糞便の掃除とかしか紹介ができないのね。そして、さっきのセプティム様の話通り、下手に野に放つともっと酷い実験される可能性もある訳」
「まともな食い扶持にありつけるためには、自分の有用性を発揮しろという訳ですね」
「そうそうそう!」
さっきのわめき散らしていた私を見るアシュベトさんが、冷静に話を聞いている私の姿に驚いている。
先ほど言ったように、命がかかっているならわめくし暴れるし大声だって出すが、状況が分かればこちらもおとなしくしている。
本来の姿はどちらかというとこちらなのだ。勘違いしないでほしい。
「でね、分かってもらったかなとは思うんだけど、今君は無職でこっちも今君から何か対価を得ているわけではないから、本来は君の意見を尊重する義理もないのね。今はセプティム様と、ハイラム様が面白いもの拾ったって持ってきたから今実験するんだけど」
「飽きられたらそこで終了で、自分の意見を通すには自分の価値と未来が見えれば意見もある程度は尊重いただけると」
「うん、そうそう!いつ飽きられるかわからないからね。悠長なことはしてられないよ?」
痛いのは嫌だ。
でも死ぬのも嫌だし、空腹も嫌だ。空腹を感じるということは餓死はする。
自分の価値が認められれば出生も何も気にされない。
実力しかこの国では生きていけない。
怖い、怖い、怖い、これだけであるが、腹をくくるしかなかった。
もうあきらめるしかなかった。
「……わかりました。痛いのは嫌です。怖いのも嫌ですが、やります……」
「その意気だ!」
「あ!ちなみにもう一つ、言っておかないとなんだけど、実験頑張るって言ってくれているけど、東さんのためでもあるから」
「へ?」
「君、針とばしているってことは恐らく点滴打てないからね。病気はするのかわからないのと、刺す人によっては問題ないのかもだけど、ちゃんと何が利いて、何が利かないのか、どの程度なのか把握していないと下手したらすぐ死ぬし、医療受けられないから。君医療の心得ある?自分でなら刺せるのかな?針」
またもさらっと怖いことを言われてまた青ざめた。
ちなみに自分で指先に針を刺そうとしたら弾かれた。
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