転生したら母乳チートになりました

むふ

文字の大きさ
6 / 30
1.死

1.死2/4

しおりを挟む




「…………さーん。平松さーん」
「………………え、はい」
「平松さん気が付きましたか?今先生呼びますね」


 気がつくと知らない女性に名前を呼ばれていた。
 白い天井と、ピンク色のカーテン。
 点滴が視界の端に入った。


「職場で倒れられたんですよ?ご妊娠されていたので、薬は栄養剤と水分補給の為の点滴だけなのでご安心くださいね。お腹の赤ちゃんも無事ですよ」


 脱水と栄養失調、貧血だそうだ。
 血液検査は既にされていて、そこで妊娠している事がわかり処置してくれたようだ。
 しかし、安心か残念感かよく分からない感情が渦巻いている。


「あ、母子手帳ありますか?妊娠何週目かとか教えてもらえますか?」
「………………ありません」
「え、妊娠に気がついていませんでしたか?」
「……いえ、………………すみませんっ………………」


 とても無責任な事をしていたと改めて現実を突きつけられ、自己嫌悪と罪悪感、そして事情も知らずに優しく声をかけてくれる看護師さんからの言葉に責められているような気がして感情が爆発してしまった。
 中絶できる期間が過ぎてしまった事はわかっていた。
 しかし、立派に育てる自信も、産む決意も、中絶して命を消してしまうことへの覚悟も出来なかった。ゆえに、考えを放棄してしまった。

 
 食事は食べられる物だけ、妊娠前と同じ生活。お酒は元々あまり飲まないので飲んでいないが、好きな物を好きな時に自由に過ごしていた。寝ると夢に彼が出てきてしまうので、寝不足でもあった。
 そのツケが回ってきたのか、早めの悪阻で嫌でもお腹の赤ちゃんの存在を認識してしまう。
 検診にも行けない、仕事も休めない、誰にも話せない。心を病んでしまった。


 泣き崩れた私を見て看護師さんも何か察してくれたのか、背中をさすって大丈夫大丈夫と先生が来るまで付いててくれた。
 個室であったこともあり、先生に事情をゆっくり話していった。


「うん。そっか。中絶はね、わかっているかと思うけど、もうできない期間に入ってしまっているんだ。この後、相談員さんにも来てもらうようにこっちで連絡しておくからね。辛いね、頑張ったね」
「すみません。…………すみませんっ」
「んーん。何にも謝ることないよ。パートナーに逃げれてしまうってやっぱりあってね……。今お母さんの体は赤ちゃんと一心同体なんだよね。赤ちゃんがお母さんが、しんどいってわかったのかも知れないね。それで休んでって」


 嗚咽と涙と鼻水とで話せなくなった私の膝に手を置いてゆっくりと話してくれた。



 「…………産むしか選択肢が無くなってしまったけど、それはお母さんが赤ちゃんの事を少しでも考えてくれていたことだから。辛いことがあったけど、中絶しないでくれてありがとう。中絶が決して悪い事では無いんだけどね。考えは人それぞれだから私達医師はお母さんとお子さん、その家族の幸せを願っているから。産むことへの不安は私達が解消出来るように努めるからね。そこは安心して欲しい」


 辛かったね。頑張ったねと宥めてくれる先生を前にひとしきり泣いて、エコーを持った看護師さんが来るまで赤ちゃんに向けてなのか、先生に向けてなのか、感謝と謝罪の言葉しかでなかった。





 少し落ち着き、お腹にエコーがあてられる。
 幸いお腹の赤ちゃんには今のところ問題はない。
 先生に産むことは任せてと勇気をもらい、少し安心した。看護師さんも彼の事を聞いて、私以上に怒ってくれた。
 栄養状態が悪いので、数日の入院が必要になったが、精神的な面からも少し長めに入院期間をとってくれたようだった。


 自ずと職場にも事情を話さなければならなくなり、電話で上司に伝えたところ同僚と合わせて休みにお見舞いに来てくれた。




「え、最悪…………。なんですかそれ。……ネットで拡散しますか?」
「そりゃ、だめだよ。もちろん最低な事をしたけど、私刑はよく無いし、晒した場合晒した方にも色々問題が出てくる可能性もあるからリスクが高い。それに平松さんにも影響が出るかも知れないよ?」
「ありがとうございます。話せただけで少しスッキリしました……誰にも言えないと思い悩んでいたので……」
「えぇ、でもムカつく…………酷い」


 上司が同僚の子を嗜めてくれたおかげで、納得してくれたが何故か同僚の子が泣き出してしまった。
 自分が思っていたより、良い職場だった。
 思い悩んでいた事を言えたら憑き物が取れた様に気持ちがスッキリしてきた。


 産むことへの心配は無くなり、仕事も上司に相談できた。
 相談員の方が来てくれて、今後の育児についてもサポートしてくれることになった。ひとり親の制度や、ひとり親同士でのコミュニティもあったり、こう言った男性に逃げられた方々の心のケアをしてくれる団体も紹介してもらえた。


 入院をしていて、看護師さんとも気さくに話せるくらいまで回復した。



 ――赤ちゃん。私、お母さんになっても良いかな?


 お腹に手を当てて、入院中今後について向き合おうとけついした。


 ――しっかり育てよう。





 入院期間も明けて、仕事に復帰した。
 中にはやはり面白おかしく噂をする人もいたが、一度開き直ったらどうでも良くなった。
 悪阻も落ち着いていき、お腹の赤ちゃんの胎動もわかる様になってきた。







 出産の準備も次第に進み、お腹の赤ちゃんが女の子だと言われたのでかわいい服やベビー布団などを買った。狭いアパートに増えていったベビー用品を見てとても幸せな気分であった。
 なんとか行政や他の人の支えもあって、これから何とかなると思い育てる決意もしっかりできた。


 ――元気に育つんだよ。ママ、頑張るからね。


 徐々に膨らむお腹。最初の数ヶ月、赤ちゃんにとってなんて酷い事をしたのだと、何度も涙する日もあった。心が不安定な上に、妊娠の不安も重なり鬱の診断も受けてしまった。お腹の赤ちゃんへの愛情は薄れる事はなく、自分を責めてしまうことだけはなかなか治らなかったが、カウンセリングを続けて何とか仕事にも行けていた。


 浮いて沈んでの繰り返しだったが、赤ちゃんに会えると思うと不思議と頑張らないとと勇気が湧いた。


 



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...