新米魔術師の成り上がり

朝凪 霙

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第一章 『哀色な残火』

第一章2  『十握剣剣製術』

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 ……誰かの、走る音が聞こえる。
 ……それに、身体が揺れて……。

「おい!そろそろ起きてくれ!動きにくくて仕方ない」


 ――。
 ――――。
 ――――――――。

 声が、した。

「は――っ!!」

「……やっと起きたか」

 微睡んでいた意識が覚醒し、拍子抜けな声を出していると、一級術師と名乗っていた青年は少し不愉快そうに呟き返した。

 目が覚めたと言っても、まだ混乱が続く思考。数秒ほどボーッとした後に、俺はあることを思い出す。

「すみません!貴方はこの村を助けに来た魔術師さんですよね! なら、俺の両親を知りませんか!?髪は、黒色で――」

「――すまないが、知らない。確かに俺は魔術師で、この村を救いに来た。……けど、もう手遅れだったんだ……っ‼︎ 俺が助けられた村人の中に、黒髪は居なかった……」

「なっ……!! ――なら、今からでも探しに行って下さい!俺の両親を、救ってやって下さい!!」

「駄目だ。第一、お前の両親が生きてる可能性は少ない。それにたとえ生きてても、三人を庇いながら魔物を相手するのは不可能だ」

 苦悶に満ちた顔を浮かべながら魔術師は言う。それは不可能だ――と。

 ……おいおい、ふざけんな!
 ……両親を見捨てて、俺だけ助かれって言うのかよ――!

 俺なんかが言えたことじゃないのかも知れないが、ここで両親を見捨てることなど到底できないし、したくない。
 俺の脳裏に、明るい笑顔を見せる両親の姿が過ぎる。

「それなら、俺だけでも探しに行く!!」

「止めろ!」

 俺は、魔術師の背中にしがみつきながら暴れ出す。身体を大きく揺らして、強引に魔術師から離れようとした。
 だが、魔術師の方もしぶとくて、なかなか離れることが出来ない。

「下ろしてやるから動くな――ッ!」

 痺れを切らしたのか、魔術師はそう言って俺を下ろしてくれる。

「全く、ふざけた真似をするな。こっちも時間が無いんだぞ――」

「――ッ!!」

 俺を説得しようとしているのか、魔術師は呆れたような口調で語り出したが、俺はそれを聞かなかった。
 背中から下ろしてもらい、自分の力で立ち上がった俺は、すぐさま魔術師の胸ぐらを掴みに行っていたのだ。
 そして、俺は叫ぶ。

「どうして救ってくれなかったんだよ!俺の親を‼︎ お前、魔術師なんだろ⁉︎俺たちみたいな一般人とは違って、自分以外の誰かを救ってあげられるような力があるんだろ! だったら何で救わなかった⁉︎ 救えなかった⁉︎ 今からでも俺の親を助けに行けよ!!」

 俺のこれが、逆ギレなんだってことは分かってる。いくら魔術師でも、全員を救えるような完璧な救世主でないことくらい知ってた。
 でも、そんな論理的な思考なんて、強い憎しみの感情の前では意味がない。

 俺は、怒りの矛先を魔術師に向ける大馬鹿者だった。見当違いもはなはだしい。本当は分かってる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「――――」

 俺が荒い呼吸をする中、魔術師は一言も発しない。
 ――何を考えているのか。押し黙る魔術師の姿には、ある意味恐怖さえ感じられて、それでも俺は虚勢を張り続けた。

「何だよ。言葉も出てこねえのか、魔術師さんよ」

「――――」

 ……っ、何か喋れよ。

 煽り口調で語りかけたというのに、依然として返事は無い。俺がそのことに不気味さを覚えていると、

「――神崎かんざきあおい。これが俺の名前だ」

 魔術師――否、神崎葵という名の青年は、斜め上の応えを出してきた。

「――は?」

「二度は言わない。取り敢えず俺の名前だけでも覚えとけ。――お前の、憎むべき相手になるんだからな」

「お前……」

 明るいとは言えない表情を浮かべながら、神崎は言う。

「いいか、よく聞け。 この村はお前も知ってる通り、上から見ると円の形になってる。幸いにも、魔物は今の俺たちとは反対側にいて、一つしかない出入り口は俺たちの側にある。 だから、お前は出入り口側の半円の中で親を探せ。俺はその反対側だけで魔物と戦う」

「――。分かった。取り敢えずはそれで納得する」

 神崎は魔物との戦いを最小限に抑え、俺が魔物に狙われることなく親の探索が出来るようにしたいのだろう。それが、神崎が短時間で出した解決策だった。

 ……必死に考えて出してくれた方法だ。
 ……それでも、最悪の場合は魔物に近づいてでも親を助け出す。

 全てに従う気は無い。取り敢えずは安全な範囲を探し、それでも見つからなかった時は危険な範囲に入る。
 納得すると言いながらも、俺は内心で裏切るようなことを考えていた。

 ……そうだ、最後にこれだけは言っておこう。

「一応、最後に言っておく。 俺の名前は時永遠ときとわ秀一しゅういち、また会うぞ」

「……そう、だな。俺の為にも、精々死んでくれるなよ」

「――? 死ぬ気なんて最初はなから無えよ。じゃあな」

「――――」

 言いたいことだけ最後に言った俺は、取り敢えず神崎の目に入らない所まで走り出す。
 神崎もそんな俺を様子を見て、俺とは反対の方向――一級の魔物がいる方向に駆け出した。


 ――別れの言葉を交わした俺たちは、それぞれの思惑を持って動き出す。
 後ろは、振り向かない。


 ▽▲▽▲▽▲


 ……もうそろそろか。

 感じる魔物の気配が近くなってきたため、俺は一度立ち止まる。そして、どうやって魔物を祓うのか、見通しを立てた。

「まずは、先制攻撃だな」

 額に浮かぶ汗を袖で拭いながら、俺は呟く。暑くて制服を脱ぎたくなるが、制服にはそれなりの防御力が備わっているので、それはやめておいた。

 ――瞼を閉じて、神経を研ぎ澄ませる。

「――『十握剣とつかのつるぎ』」

 瞬間――俺の手のひらに握られるような形で、拳十個分の刀身の長さをした剣が具現した。
 その剣には過度な装飾が施されていなくて、研ぎ澄まされた鋼だけが美しさと異彩を放つ。

 鍔は金色で、つかは黒色。今は刀身に炎を映すを固く握りしめて、俺は慎重に一歩を踏み始める。

 ――『十握剣剣製けんせい術』。
 それが俺の術式。十握剣という、刀身が十個分の長さの剣を精製することが出来る。

 俺は約十七年間、この術式に向き合って生きてきた。だが、未だ限界に達したことはない。この術式には、まだまだ可能性があると俺は見込んでいる。

「油断も慢心も無い。 あの時永遠と言う少年の為に、そして俺の為に、魔物おまえを祓う……‼︎」

 俺の紫紺の瞳は、憎むべき魔物の姿を見据えていた。


 **キャラ紹介**

 ▽時永遠ときとわ秀一しゅういち:今作の主人公
 性別:男
 年齢:17歳
 容姿:黒髪茶目。髪はショートで直毛。身長は約168センチ。体型は標準的。
 術式:○○○○○
 備考:一人っ子

 ▲神崎かんざきあおい:一級術師
 性別:男
 年齢:17歳
 容姿:銀髪に紫紺の瞳。髪はショートでやや癖あり。身長は約170センチ。体型は標準的。
 術式:十握剣とつかのつるぎ剣製けんせい術。(十握剣を精製することが可能)
 備考:気は少し強め。高貴さがある。有名な神崎家の家系。

 ▽漆原:特級術師、総司令官、現代魔術師最強
 性別:男
 年齢:20代
 容姿:黒髪。ダイヤモンドのように綺麗な虹彩に、黒曜石のような瞳孔。髪はショートレイヤー。身長は約185センチ。体型はスリム。
 術式:○○○○
 備考:イケメン。最強。才能の塊のような人物。
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