ショタコン女冒険者の婚活

市樺チカ

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リエンダ

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オーガの討伐依頼をこなし、ギルドへと戻ってきた。コツコツとブーツの踵を鳴らしながら受付前の行列に並ぶ。
暫く待っていると、こちらを見ながらひそひそと話し込む声が聞こえてきた。

「ほら、あの人だよ…ソロでモンスター狩りをやりまくってるっていうA級冒険者…」
「うわっまじかよ…!でもパッと見は普通の女だぜ?」
「馬鹿っ良く見ろよ。あんなでかい剣背負った奴が普通なわけないだろ」

失礼な。ぎろりと視線を向けると、男たちは気まずそうに去って行った。
私はごく一般的な、人より少々戦い慣れているだけの婚活女子である。料理も洗濯もからっきし出来ないが、その分狩りの腕はかなり良い。私が外で働いて、旦那さんは家で家事をする。それが理想の生活なのだが、生憎この世界では働く女は異端扱いだ。今日も今日とて陰口に晒されながら自分の食い扶持だけを稼ぐ生活。寂しい。

「おうリエンダ、早かったな」

受付に討伐証明を出すと、奥から大男が出てきた。杖をついて左足首を庇いながら歩いているが、その肉体は驚くほど筋骨隆々としている。
男は受付の青年に近付き、二、三話して担当を変わった。

「ちょっとデューク、なんで変わっちゃったの。今の子可愛かったのに」
「うるせぇ。A級の依頼は俺かギルドマスターしか処理できねぇんだ」

引き出しから分厚い依頼書の束を取り出して捲っていく。ぺらりぺらりと動く指先は太く、古傷だらけだ。

「せっかくお話しするなら可愛い男の子が良かったなぁ。上手いこといけばお婿さん候補に入れられたかも」
「…まだそんな事言ってんのか。大体、お前みたいな年増に若い男が付いていく訳ねぇだろ。そろそろ手頃な所で妥協しとけ」
「手頃な所…」

カウンターに頬杖をつき、淡々と仕事をこなすデュークの顔を見つめる。くすんだ茶色の短髪、上がり気味の太い眉、きつく結ばれた唇。そして何よりも大きく雄々しい体。うん、どこを見てもタイプじゃない。

「華奢で優しくて大人しい、背の低い少年、どこかに落ちてないかなぁ」

嘆息する私を横目に、デュークは依頼書の完了欄に強く判子を押し当てた。どん、とカウンターが揺れる。

「ほらよ、報酬だ。とっとと持ってどっか行け」

幾枚かの金貨が詰まった袋を受け取り、中身を確認する。依頼書通りの報酬額だ。

「ありがと。それじゃ、仕事頑張ってね」

懐に袋を仕舞い、背の大剣を背負い直した。今夜は酒場で飲み明かそう。何もかもを酒で忘れるんだ。
固く心に決め、軽い足取りでギルドを出た。



「お兄さーん、蒸留酒とソーセージちょうだい」

目の前を通りかかった店員に注文をし、テーブルにある酒瓶を傾けた。酔いが回っているのか、グラスから大きく溢れて服を濡らす。何ということだ、一張羅なのに。シャツの腹元を捲り、顔を近付けた。茶色いシミがついてしまっているが、落ちるだろうか。

「…そんなとこで腹出して何やってんだ。男日照りも大概にしとけ」

後ろから聞き覚えのある声が響き、振り向いた。

「んん?デューク?昼間ぶりだねぇ。一人?」
「あぁ」
「そっか。あ、そこ空いてるよぉ」

にへらと笑って向かいの椅子を指すと、デュークは一瞬戸惑った様子を見せてから腰掛けた。

「べろべろじゃねぇか」
「そうだねぇ。今日は記憶を無くすまで飲むって決めてるんだよ」

日頃の鬱憤を忘れるんだ、と言うとデュークは苦い顔をした。強面がさらに強調されて、今朝倒したオーガを思い出す。

「…それだけ実力があっても女ってだけでA級止まりってのは、俺も納得いかねぇ。鬼女だアマゾネスだって馬鹿にする周りの奴らも殴り飛ばしてやりたいくらいだ」
「私そんな風に言われてたの?心外だけど、まぁそれは別に良いんだ。好きでやってる事だし」
「その事じゃないのか?なら…」

運ばれてきた新しい酒瓶とつまみを受け取り、デュークに勧める。ソーセージの香ばしい匂いが漂ってきて、食べずとも酒が進んでしまいそうだ。

「何でこんなに必死に婚活してるのに、相手が見つからないのさ!」

グラスを握った手に力が入り、ぴしりとヒビが入ってしまった。隙間からぽたぽたと滴が漏れる。きっとこの馬鹿力も婚活に失敗している原因なのだろう。
取り乱す私とは対照的にデュークは落ち着いて新しいグラスを頼み、酒を注いでこちらに差し出した。見た目は好みではないが、気遣いが出来る点は素晴らしい。

「そんな下らない事か」
「下らなくない!私は真剣なの!仕事を終えて、子供と旦那さんが待つあたたかい家庭に帰りたいの!」

大声を出した途端、急激に酒が回ってテーブルに突っ伏す。視界がくらくらするのが不快で目を閉じた。
遠くでデュークの声がしている、気がする。

「…ん、だいじょーぶ…へいき、へいき」

意識が深く沈む。
流石に飲み過ぎたけど、デュークが居てくれたのは幸いだった。何だかんだで優しい彼のことだから、きっと家まで送り届けてくれるだろう。
私は安心して気を失った。
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