ヒレイスト物語

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第五章 旅立ち

何も入ってこない

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「お二方、敵もいるこの最中に何をやっているのですか?・・・ビスは鼻の下を伸ばして」


俺の目の前にその殺気の正体が姿を現した。というか決して俺は鼻の下など伸ばしていないはずだ。確かに体に何か柔らかいものがあたっている気がするが断じてそのようなことはないはず・・・たぶん。最低限意図してこうなったわけではないことを示すために両手をかかげた


「ち、違う。お前が考えているようなことは断じてない、信じてくれ・・・おい、パヴィ離れろ」


なぜ俺がメイユに弁解しなければいけないのかわからないが、今はこういうしかあるまい。それにしても、パヴィが一向に離れてくれない。絶対に気付いているはずなのに“それでですね、あの”と一生懸命説明してくれようとしているのだが、この状況で何も頭に入ってこない

確かにあの時教えてくれとは言ったが今ではないし、それにこの態勢じゃなくてもいいだろうに。メイユが無言で拳を構えこちらにジリジリと近づいてくる。死が近づいてくる恐怖、それは今までのなかで一番大きかったかもしれない。俺は無理矢理パヴィを払いのける


「わ、わかった。でも、今は時間がない。後でちゃんと話を聞くから、な」


「ううう、わかりましたぁ・・・また邪魔が入ったですぅ」


なんとか危機を乗り越えたかと思ったが、まだメイユはジリジリと近づいてくる。あと一歩で俺に拳が飛んできそうな距離に近づいたその時、パヴィが急にしゃがみこんだ


「ああ‼ここにもありましたぁ」


メイユの振りかぶられた拳は空を切った。ブオンッという音とともにこちらに拳に押された空気が凄まじい勢いで押し寄せてくる


「ちっ」


というか、俺ではなくパヴィを狙っていたような。それで、パヴィはメイユの方を見ずにそれを避けたような。いや、気のせいだな、パヴィの声にメイユが驚いて手前で拳を振りかぶっただけだろう。そう思うことにしよう、うん


「おい、お前ら、何遊んでんだよ。さっさと来い、日が暮れちまうじゃねぇか」


ここに来てやっとアシオンがまともなことを言ってくる。いつもなら茶化してやるところだが今このタイミングではこの場を離れられるチャンスをつくってくれた救世主にそんなことはできない


「済まない、今行く」


「なんか素直すぎて気持ち悪いな」


「そんなこと言うなよ、アシオン」


「その目をやめろ、こっちに来るな」


来いと言っておいて来るなとはひどいものだ。せっかく感謝の気持ちを視線に込めたのに


「待ちなさい」


「待ってくださいよぉ」



結果的に今まであった距離が少し縮まったように感じる。まあ、一時的なものかもしれないが。あのことなど頭のなかからすっかり抜けていた
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