アナスタシス・フルム

文字の大きさ
70 / 98
第5章 異常気象の正体

受け止める

しおりを挟む
一番目の山までやってきた。近づけば近づくほど、マグマが川の如く流れをつくり山の周りをゆっくり回っているように思えてくる。それにしてもそこから来る熱は、計り知れない。ただ、誰一人としてこの山を選んだことに文句を言うことはなかった。まあ、俺たちは熱さに耐え切れず、フロワストーンを着用させているのだが


「これってあそこ通らなきゃいけないのよね」

「あそこしか道がないからな」


俺とディタの視線の先には不規則に配置されている飛び石がある。その下はもちろんマグマが流れており、落ちてくるのを今か今かと何かが待ち構えているのか、呼吸でもしているように規則的にブツブツと音をたて、こちらの様子を窺っているようだ


「水でもかけてみたら固まるかしら。“ウォーター”」


ディタの思惑虚しく水はあっという間に蒸発し、熱気へと変わりこちらに襲い掛かってきた


「あっつ」

「ご、ごめんなさい」

「別にいいよ。それより魔法じゃどうにもならなそうだな。ディタの氷魔法でも無理そうだな。氷を張ることは出来るとは思うけど、長く持ちそうもないし、それに滑って逆に危ない気がする」

「そうね。やっぱりあそこを通った方がいいのよね」


そうは言うもののディタは一歩足が出ないみたいだ。かくいう俺もだ。飛び石はマグマの流れに流されない強さとそのマグマに溶けない強さがあるので、下手なことをしなければ落ちることはないだろう。ただ、そう思ってはいてもなかなか一歩が出ない


「お~い。みんな遅いよ~、早くこっち来てよ~」


向こう岸から見知った声が聞こえてくる。顔を上げるとすでにレクスが向こう岸に辿り着いていた。おそらく飛んであそこまでいったのだろう


「ははっ・・・待ってろ、今すぐいくから」


レクスに催促され先を急ぐ。ただ、そこに焦りはなく、なぜか怖さも少し消え去っていた。そして一つ飛び石を渡ることができた


「ちょ、ロガ。そんなに焦らなくても・・・」

「大丈夫だよ。ほら、ディタも思いっきり飛んで来い。行き過ぎないように俺が受け止めるから」

「わ、わかったわ」


そういうとディタは後ろにジリジリと下がっていく。助走は必要だな、うん・・・でも下がり過ぎな気がしないでもない。確かに“思いっきり”とは言ったが。そしてディタ的には十分な距離を取ったのか、後ろに下がるのを止めこちらに全速力で向かってくる


「うわわわわわ‼」

「お、おい。何で目を閉じて飛んでくるんだよ・・・っと。良かった、受け止められた。おい大丈夫かディタ」

「・・・ええ」


抱きとめたディタの体は小刻みに揺れている。全速力で走ったこともあると思うが、それだけじゃない気がする


「大丈夫。次も必ず俺が受け止めるから。ほら、あと三つだけだ」

「うん」


こんなしおらしいディタの姿、何だか気が狂う。無意識にこめかみをポリポリとかいてしまう


「・・・あの、そろそろ次に行かないか。レクスのやつが待ってるし」

「そ、そうね」


ディタが何かに気付いたのかバッと俺から離れ後ずさりした。一瞬押されるのではないかとヒヤヒヤしたがそんなことはなかった。その先はサクサクとは言わないが、それでもゆっくりと確実に進むことができた


「よし、これで二人とも着いたぞ・・・レクス、なんだよその目」


レクスは目を半目にし、口元はどちらも口角が上がっているのに、口は空いていなかった。癪に障るというかなんというか。まあ、別に遅かったことに対してではないのはわかるのだが、なんとなく嫌な気がした


「ぐふふ、別に・・・いてっ、何か当たったような」


今のは俺じゃない。ディタはレクスとは反対を向いている。それにレクスに攻撃できるような態勢じゃない。おそらくレクスの後ろにいるエミンが攻撃したのだろう。ただ、どう攻撃したのかはわからない。そう思っていると第二撃がレクスを襲う


「いたたたたたた」


今度は確実にエミンが何をしているのか見ることができた。エミンは持っていたリンゴを食べ、そして驚くことに鼻から種を飛ばしたのだ。そんなことができるなんて知らなかった。種を飛ばした後エミンは直ぐ様近くの岩陰に身を隠していた


「だ、誰だよ~。ボクを攻撃してるのは~。ロガ助けて~・・・っていたたたたたた」


レクスが助けを求めこちらに来ようとすると、またもやエミンが岩陰から出てきてレクスに向かって種を飛ばしている


「・・・ありがとう、もう大丈夫」


今度はバッと離れることはなくゆっくりと俺から離れた。そして、エミンの方に向かっていく。一瞬見えたディタの顔は仄かに赤らんでいたように見えた


「ほらエミン。そんなところに隠れてないで行くわよ」

「いいとこやったのに」

「いたたたたたたた・・・ってあれ。やっと収まった?ロガ~なんで助けてくれなかったんだよ~」


レクスが泣き目になりながら、一目散こちらにやってくる


「ごめんごめん。なんかおも・・・じゃなかった。手が離せなかったからな」
「ううう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...