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第一章

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「ちょっと、あんたっ!」

 誰かが誰かを呼び止めている、それにしても、何と品のない事でしょう。

「ちょっと、何無視しているのよっ!」

 ガシリと腕を掴まれ、私は硬直する。

「えっ?」
「えっ、じゃないわよ、どういう事よ。」
「……。」

 私は彼女を見て冷めた目で見る。

「……。」
「何とか言いなさいよ、この悪役令嬢の癖に。」
「……。」

 確実に突き刺さる視線に私の腕を掴む彼女は分かっていないのか、私を睨めつけている。
 私は口元に手を当て、嘆息する。

「何よ、言いたい事があるならはっきりと言いなさいよ。」
「貴女分かっておりませんの?」
「はぁ?」
「わたくしの身分と貴女との身分の違いに。」
「ここは学校で平等だって言っているのに、何を言っているのよ。」

 まるで私の方が間違っているというように鼻で笑っている彼女に私は痛み出す頭を押さえたかった。
 確かにこの学校は平等だと掲げている。
 しかし、相応の常識や品を守らなくてもいいとは言ってはいない。
 なのに、この少女は何を穿き間違っているのか、そんな事をのたまっている。

「非常識。」

 ポツリと私の吐き出した言葉に彼女はそれを拾い上げる。

「貴女の方がよっぽど非常識じゃないっ!」
「……。」

 私はどうすればいいのかと頭を悩ませる。
 きっと彼女に貴族としてのルールを教えてもきっと納得はしてくれない、でも、説明しなければいけないだろう。

「わたくしのどこが非常識というのでしょうか?」
「わたしが呼びかけているのに何で無視するんですか、人としてあり得ないでしょう。」
「……貴女ごときの身分に何故わたくしが堪えなければなりませんの?」
「はぁ?身分出すなんてずるいですね~。」
「……。」

 私は思わず嘆息する。

「何ですか?」

 苛立ちを隠そうとしない彼女に私は意を決する。

「身分は大切ですわよ。」
「ここは学校よ。」
「ええ、確かにここは学校です、ですが、小さな社交場ですわ。」
「何ですかそれ。」
「わたくしたちはいずれ社交場にでますわよね。」
「決まっているじゃない。」

 胸を張る彼女にこのままで彼女は大丈夫なのかと、私は不安になる。

「でしたら、貴族でも爵位というものがあるのはご存知ですよね。」
「馬鹿にしないでよね。」
「……。」

 ギロリと睨む彼女に私は苦笑する。

「貴女の家の爵位は?」
「男爵よ。」
「そうですよね。それでしたら、わたくし家はご存知かしら?」
「確か、公爵でしょ。」
「……。」

 何故ここまで知っているのに、そのような態度でいられるのか不思議です、周りなんて青を通り過ぎて白色の顔色になっている人が続出しているのに。

「でしたら分かりません?」
「何がよ。」
「わたくしの家の方が爵位が上なのですよ。」
「だったら何よ、親の爵位じゃない。」
「……。」

 私は頭を恥もなく抱えたくなる。

「ええ、確かに親の爵位でもありますわよ。」
「だったら、何でわたしがあんたなんかにへりくだらなくちゃならないのよ。」

 彼女の言葉に周りがざわめき、そして、私はとうとう溜息を吐いた。

「何なのよ。」
「分かっておりませんのね。」
「だから何なのよ。」
「わたくしはいいましたよね?ここは小さな社交場だと、わたくしは公爵令嬢ですのよ、そして、貴女は男爵令嬢。」
「だからそれが何なのよ。」
「それが、わたくしたちの今の身分。」
「……。」
「その身分相応の態度というものがあります、同じ公爵家の者でしたら失礼に当たらなくとも、それ以下の者だと無礼に当たるものがあります。」

 私の目の端に彼の人の色が見えた。

「それを貴女は理解しておりませんのね。」
「意味わかんないんだけど。」
「……初等部からやり直したらいかがですか?」

 もう私は投げやりになり、そんな事を呟いた、その時、周りの者たちは同意するように何度も頷いている。

「ひ、酷い…。」

 まるで悲劇のヒロインのようにショックを受ける彼女は傍から見れば喜劇のヒロインにしか見えませんね。
 ああ、とうとうあの方が一歩踏み出したわ。
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