転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第一章

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「もー、本当に信じられない。」
「……。」

 バリバリとクッキーを食べるテレーゼお義姉さまに私は苦笑する。

「どうしてあいつはいつもああなんだろう。」
「申し訳ございません。」
「あー、イーちゃんは悪くないんだよ、悪いのはあいつだから。」
「でも、兄ですので。」

 私がそう言うとテレーゼお義姉さまは不本意というような顔をする。

「それを言うなら、あいつ今はあたしの旦那だよ。」
「……。」
「うー、別にさ、結婚を夢見たわけじゃないし~。」

 ぐるぐると砂糖の入った紅茶を掻きまわし始めるテレーゼお義姉さまは唇を尖らせた。

「むしろあいつが貰ってくれなかったら、永遠に結婚できなかっただろうし、母さんが泣いて喜んだのには感謝だけど……でも、それ以上にマイナスが……いや、何の見返りもなくモルモットになってくれるのはメリット?
 でもでも、それ以上にあれ、とか、これ、とか、あー、もう、本当に何なのよ。」
「何か……申し訳ないわ。」
「……まあ、イーちゃんみたいな美人さんな妹が出来たのは僥倖だよー。」
「……。」

 テレーゼお義姉さまの言葉に私は苦笑をする。

「はー、あっ、ごめん、イーちゃんの話を聞きに来たのに、あいつの愚痴になっちゃったよね。」
「いえ、テレーゼお義姉さまの事を聞けてうれしいですよ。」
「……。」

 フルフルと震え出すテレーゼお義姉さまに私は首を傾げているとーー。

「イーちゃんマジ女神っ!」
「へぇっ!」

 ガバリと抱き付かれ、私は思わず硬直してしまいます。

「あの…。」
「はぁ…、本当に良い匂いだし、性格も良いし。」
「あの…。」
「何というか、もし、あたしがイーちゃんのお父さんだったら嫁に出さないっ!何て言いたくなるほどだよ。」
「あ、ありがとうございます?」
「はぁ……、イーちゃんはさ、大丈夫なの?」
「何がですか?」
「あの王子様と結婚する事だよ。」
「……。」
「あの人自身の性格はそんなに悪くないと思うよ、むしろ、家の旦那の方がやばいし。」
「えっと…。」
「だけどさ。」

 スッと見つめられるそのサファイアにも似た青は心配だと語っている。

「その取り巻く環境は拙くない?」
「……。」

 テレーゼお義姉さまの言葉に私は目を伏せ、そして、カップを見つめる。

「確かにあの方の取り巻く環境はよろしくはありませんね。」
「でしょ?」
「…テレーゼお義姉さま、この私の家ですからいいのですが、外では言わない方がいいですよ?」
「分かっているって、あたしだって命は惜しいからね。」
「……。」

 まあ、うかつな兄よりもこの姉ならば大丈夫だと思うけど、それでも、心配なものは心配だった。

「で、イーちゃんは大丈夫なの?」
「私はあの方が平民でも王族でも変わりません。」
「……。」
「あの方はあの方、身分が何であれ、私は共に生きると決めております。」
「そっか。」
「たとえどんな事が起こっても、親不孝者と罵られても、私はあの方の傍に居ます。」
「うん。」
「私がこの世界の悪だと言われ、殺されそうになってもあの方が私の傍に居ようと思ってくれているように、あの方か世界かと問われればあの方を取るのは自然の事でしょうね。」
「……。」

 非現実的な言葉のはずなのに嫌に重い言葉にテレーゼお義姉さまどこか戸惑っている。
 でも、事実だ。

 人に悪だと判断され拒絶されても。

 人ならざる者と石を投げられても。

 同族同士で争う事になっても。

 自分を見失って生を投げ出そうとしても。

 彼だけは私という人を諦めなかった。

 結局死しか選べなくても。

 彼は決してあきらめはしなかった。

 挑み、敗れて、私たちは散って逝った。

 だから、私も諦めない事を覚えた。

 手を差し伸べられているのだ、それを振り払う事は彼を侮辱する事になると知った。

 今度の生ではどんな立場になるのか分からないけれども、そもそもは変わらない。

 私は彼と共に生きる。

 そして、役割を果たす。

 それだけだった。

「イーちゃん。」
「何ですか、テレーゼお義姉さま?」
「いいえ、何でもないわ。」
「そうですか?」
「うん、イーちゃんがこの事を望んでいるなら第三者であるあたしたちが口出しする権利もないし、そろそろ帰るね。」
「えっ?」

 唐突なテレーゼお義姉さまの言葉に私は首を傾げる。

「まだ、私は構いませんのに。」
「あたしももっと話したいけど、仕事の途中で放ってきちゃったからね。」
「まあ。」
「だから、あたしたちは帰るね。」
「でしたら、こちらを持って帰ってください。」

 私は手早くお茶菓子のクッキーを包み込む。

「ありがとう、このクッキー本当に美味しかったから、持ち帰られるなんて幸せだよ。」
「喜んでいただけてうれしいです。」

 ニコニコと笑っているテレーゼお義姉さまに私もつられるように笑った。

「それじゃ、あいつ回収していくから。」
「はい。」

 テレーゼお義姉さまは軽い足取りでお兄さまを探しに行きました。

「それにして、情報収集全く出来なかったわ。」

 当初の目的を思い出した私はそっと溜息を吐きました。
 でも、偶にはこういう日も悪くはないでしょう。
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