転生夫婦～乙女ゲーム編～

第一章

14

「そう言えば、ミナに調べていただいたのですか。」
「……ミナ？」

　聞き覚えの名前に彼は険しい顔になる。

「ミナは私の侍女です。」
「……報告にはない名だ。」
「……。」

　いつの間にそのような事を調べたのか気になりますけど、ここは素直に言わないと彼はきっと恐ろしい事をするでしょう。

「ミナという名は聞き覚えあるでしょう？」
「……。」

　そこでようやく彼はハッとなった。
　そう、ミナという名は彼もよく知っているはずだ。

「始まりのお前の名か。」
「ええ。」
「……何でその名をつけたんだ？」

　それ程までに大切な子なのかと、彼は睨んでくる。

「それは私の分身だからよ。」
「分身？」
「ええ、私の能力は水と光。」
「ああ。」
「水の中に私の遺伝子である髪を一本入れ、そして、光で器を作り、はい出来上がり。」

　三分クッキングみたいな感じで言えば、彼は呆れたような顔をしている。

「お前な…。」
「だって、そうなんですもの……。」
「はぁ…。」

　ポンポンと私の頭を撫で、彼は目を細める。

「無理はしてないか？」
「全く。」

　即答する私に彼は吹き出す。

「何で、笑うの？」
「いや、かなり魔力を食いそうなのに、平気そうだし、さらに言えばまだまだできますって感じだから、思わずな。」
「多分、もう一人くらいは出来るかしらね。」
「……。」

　私は自分の掌を見ながら自分の中の魔力の減り具合を考える。
　多分、ミナを維持させるだけで私の力の十分の一くらいだから、多分五分の一くらい減った所で、古代魔法だったら百発くらい打てるだろう。

「なあ。」

　真剣そうな彼の声音に反応して見れば、やはり、表情も真剣そのものだった。

「俺の分も作れるか？」
「ええ、貴方の遺伝子情報をくれれば出来るわ。」
「……。」
「いつしようか？やっぱり、人気のない場所……かしらって…えっ！」

　何故か彼が頭を抱えて顔を真っ赤にしている。

「ど、どうしたの？」

　オロオロしだす私に彼は口元に手を持っていき、そして、溜息を吐き出す。

「お前がそんなつもりで言っていないのは分かっているが…頼む、この体は若いんだし、発言には気を付けてくれ。」
「えっ？」
「お前が今すぐに子どもを作ってもいいのなら気を付けなくてもいいが。」
「えっ？……あっ……。」

　最初は分からなかったけど、よくよく考えれば遺伝子情報と人気のない所って……うん、もう少しいい方を変えればよかったかな。

「ごめんなさい。」
「いや、煩悩過ぎる俺の頭がおかしいからな。」
「いえ…。」

　私はもごもごと口を動かしながら否定する。

「……悪い、俺が変な空気にしてしまって。」
「いえ。」
「お前のそれはどのくらいの時間で出来るんだ？」
「一時間くらいあれば出来上がるわ。」
「一時間か……。」
「あっ、髪の毛一本貰えば家に帰っても出来るし。」
「だが、行き成り人が増えれば怪しまれるだろう。」
「……確かに。」

　女性ならばきっと大丈夫だろうが、男性が一人増えれば心配性な姉が乗り込んでくるだろう。

「どうしよう。」
「……正式にうち（城）に来れるように手配するからその時でどうだ？」
「えっ、難しくない？」
「自分の妻を呼び寄せるんだ、何とでもなるだろう。」
「……。」

　彼の言葉に私は恥ずかしく思いながらも嬉しくなる。

「その時はミナも連れていくわ。」
「ああ、俺の分身もきっとお前の分身を好きになるだろうからな。」
「……。」

　彼の直球な言葉に私ははにかむ。

「楽しみだな。」
「ええ。」

　私たちはしばらく互いに体を預けて、互いの温度を確かめながら今の幸せをかみしめていた。