転生夫婦～乙女ゲーム編～

第一章

13

　お昼になり、私はバスケットを持って裏庭に出る。

「空気が美味しい。」
「そうだな。」
「ふふふ、お弁当で本当によかったの？」
「ああ、お前の手料理は久しぶりだからな。」
「ええ、私も今の暮らしで初めて作ったわ。」
「そうなのか？」
「ええ、これでも、私はお嬢様だから。」

　私はスカートを掴み軽くお辞儀をする。

「俺の姫君。」

　彼はジョークなのか私に手を伸ばす。

「この場合は王子様と返すのが本来の身分ですけど、私たちならこうよね私の『騎士』。」

　私の答えが間違っていないのか、彼は蕩けるよな笑みを浮かべる。

「ああ、俺はお前を守る剣であるからな。」
「ふふふ、それならば、私は貴方を害する全てを貫く弓矢ね。」
「違うだろう？」

　彼は私のもう一つのアレを言っている。

「貴方の傷を癒す水瓶ね。」
「…今回の形は水瓶なのか？」
「分からないわ。」

　首を傾げる彼に私は正直に答える。

「……お前な。」

　呆れたような顔をする彼に私は舌を出す。

「だけど、多分、水瓶だと思うわ。」
「そうなのか？」
「ええ、私は今までの『光（リヒト）』の中で一番使いやすかったのは弓矢で、『生命（レーベン）』の中では水瓶だったから。」
「そう言うものなのか？」
「ふふふ、貴方はずっと剣でしたものね。」
「他の奴もずっと同じものだったぞ。」
「ええ、変わり者は私くらいでしょうね。」
「……。」
「もう、否定してくださいよ。」
「悪いな。」

　意地悪そうに笑う彼に私は頬を膨らませる。

「貴方は時々意地悪です。」
「しょうがないだろう、お前が可愛すぎるのが悪い。」
「……。」

　私を口説く彼に私の顔はきっと真っ赤になっています。

「もう、早く食べないとお昼時間が終わってしまいます。」
「そうだな。」

　彼はそう言うと風で靡く私の髪を一房浚いあげる。

「お前を食べようとしよう。」
「――っ！わたくしではなく、わたくしのお弁当とおっしゃってくださいな。」
「…………おい、ここで、演技はいらないだろう。」
「存じません、さあ、殿下早くご賞味ください。」

　私は彼の言葉を理解できず、早々に準備を整える。

「……ああ、なるほど、混乱しているんだな……本当に可愛いなイザベラは。」

　私の言動を見てひとり頷く彼に私は気づく事無くお弁当を広げるのだった。