転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

53

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 一気に敵の大将に襲い掛かるメイカ。
 剣の腕前はきっと私か知っているなかでも上位に入るのに、敵はそれをやすやすといなしているように見える。
 彼は剣技だけでは勝てないと分かっているのか、炎も操りながら攻撃を仕掛ける。
 切り結んでは離れ。
 遠距離から炎を放つ。
 どれも決定打には至らない。
 消耗戦になれば不利になるのは連戦しているメイカの方だろう。
 普通に考えれば、だけど、彼は普通じゃない。
 だって、元となっているのは彼で、それを練り上げたのは私だ。
 うぬぼれと思われるかもしれない、でも、本当の事だ。
 でも、それは彼の命を燃やす諸刃の剣だ。
 ……彼はきっと使うだろう。

「………大丈夫か?」

 私の表情が曇っていたのだろう、心配そうにあの人は声をかけてくれる。

「……ええ。」
「……そりゃそうだな。」

 私が大丈夫じゃないと理解したのか、彼は私の前に出てその背中で戦っている彼らの姿を見せないようにする。

「見えない。」
「ああ。」
「防御が間に合わなくなる。」
「俺がいるから大丈夫だ。」
「私の方が、相性がいいのに。」
「相殺するから問題ない。」
「……。」

 この人は分かっているのだ、彼がこれから行う事を、それを見た私が心を痛めるのを良しとしないのだろ。
 そして、それが始まった。
 火柱が上がる。
 その中心にいるのは彼だ。
 全てを燃やす炎、それは使うものも跡形もなく燃やすもの。
 熱気が先ほどの物と違う。
 目の前にいるこの人は涼しい顔で立っているように見える、でも、それがやせ我慢だと分かっているのは私だけだろう。
 この人でさえ想像していない熱気。
 それはきっと彼の心を反映したものかもしれない。
 彼女を失った彼。
 全てがもうどうでもいいのだろう。
 だから、完全に捨て身で攻撃が出来る。
 もし、他人なら無責任な言葉を投げかけるだろう。
 だけど、私もこの人もその心を理解できるので、止めない。
 後始末は彼らを生み出した私たちの責任だから。
 だから、好きにしていいよ。
 私が貴方の望みを叶える。
 私はスッとこの人の横に立ち、防御を強める。
 そして、ある一か所だけを弱める。
 何か言いたげな顔をするこの人の視線を受け、私はほのかに微笑む。
 私だってあの子の望みを理解している。
 私だって可能ならば死後は貴方の炎で全てを焼き尽くしてほしい、骨さえも残らず、誰にも触られる事無く。
 それはあの子の望みでもあるのだ。
 目の前の戦いはメイカの優勢だった。
 そして、メイカの剣が敵の心臓を貫く。
 口から血を吐き出す敵。
 そして、貫いた剣を抜き取り、剣を払う彼。
 勝てたはずなのに、何か嫌な予感が止まらない。
 それはこの人も同じなのか、彼の纏う空気が戦闘モードのままだ。
 これはまだ、何かある。
 私は緊張を緩めず、何かあればすぐに動けるように心がける。
 そして、この勘は外れなかった…。
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