逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
43 / 136
第一章

薄紅の瞳の少女

しおりを挟む
 日が昇ってしばらく歩いていると、私の耳に小さな悲鳴が届く。

「――っ!」

 私は思わず声のする方を見て無意識に力を使う。
 私の視界には物凄い速さで、森を駆け抜ける風の『眼』の視界を見ていた。
 グングンと気配を察すれば、こちらに向かって走る紺色の髪の少女がいた。

「……。」

 まだ少し遠い。

 でも、彼女を追う狼の姿を見て、私はサッと視界を閉ざした。

「マラカイト。」

 急に足を止め、ジッと木々の向こうを見ていた私に対してジェダイドは不安そうな顔でこちらを見ていた。

「大丈夫…。」

 どうする。

 このまま少女を見捨てるか。

 万が一、彼女を逃した狼がこちらにやって来ないか?

 一瞬にして私の中で計算が行われ、そして、ジッとジェダイドを見た。

「ここで大人しくしていて。」
「えっ?」
「疾風よ、駆けろっ!」

 風が私に味方する。

 地面を蹴ればあっという間にジェダイドから距離を取り、逃げ惑う少女に一歩以上近づく。

「マラカイトっ!」

 後ろでジェダイドが叫ぶが私は気にせずにそのまま進む。

 どのくらい走っただろうか、逃げる少女の姿を捕えた。

「いた。」

 少女は汗だくになりながら狼から逃れようと足を必死で動かしているが、恐怖からか足が縺れ転ぶ。

「きゃっ!」

 両手をついて顔を何とか庇った少女だったが、狼はまるで好機と言うように彼女に襲い掛かった。

「風よ、一迅の刃となりて、駆けよっ!」

 私の言霊によって風が刃となって少女を襲っていた狼に命中する。
 ぎゃんっ!と呻く狼に少女は恐怖に濡れた目をこちらに向ける。

「だ…れ?」
「大人しくしてて。」

 私は地面を蹴り、少女と狼との間に割って入る。
 唸る狼に対し、私は冷めた目でそれらを見る。

「……。」

 睨み合いが数秒続くが、先に目をそらしたのは狼の方だった。

「えっ?」
「……。」 

 狼は私たちから目を逸らし、体を反転させ元来た方へ戻っていく。

「……。」
「……。」

 気配で戻ってこない事を探ると、少し余分に入っていた肩の力を抜いた。

「大丈夫?」
「あっ、あ、はいっ!」

 少女は涙をボロボロと零しながら頷いた。

「大丈夫?」
「大丈夫です、助けてくださいましてありがとうございます。」

 土下座をするように頭を下げる彼女に私は若干困惑する。

「あ、あの頭を上げて。」
「本当にありがとうございました、あのままならきっと食い殺されていました。」
「……。」

 彼女の言葉に私は内心で同意する。
 きっとあのまま行けば彼女は無事では済まなかっただろう。

「一人ではないよね。」
「はい、父と一緒に来たんですけど、迷子になって……。」

 シュンと肩を落としている少女に私は取り敢えず周囲に人の気配がないか探るが、残念ながらこの周囲にはいなかった。

「貴女どこから?」
「エメーリエです。」
「……私たちの目的地もそこだし一緒に行く?」
「で、でも…。」
「貴女の気持ちもわかるけど、むやみやたらと歩き続けてもさっきの狼やこの森の動物とかの餌になってしまうわよ。」
「う……。」

 少女も理解はしているのだろうから、呻きながらも、私の言葉を否定しない。

「ご、ご迷惑じゃなければ、申し訳ありませんけど、よろしくお願いいたします。」
「私が提案した事だし、そんなに頭を下げないで。」
「で、でも、命の恩人で。」
「たまたま狼が引いた訳だし、私は何もしてないわ。」
「……。」

 ジッと彼女は私を見つめる。

 よく見れば彼女の瞳は薄紅の瞳をしていた。

 どこかで見たような気がするが、思い出せなかった。

「……知られたくないんですね。」
「……。」

 無言の私に彼女はニッコリと笑う。

「分かりました。わたし、コーラルって言います。」
「私はマラカイト。」
「マラカイトさんですね、よろしくお願いします、わたしをエメーリエまで送ってください。」
「分かったわ、あっ、言い忘れていたけど、私には連れがいるから、ごめんなさいね。」
「いえ、いえ、こちらこそお邪魔だったんじゃないですか?」
「偶然だから仕方ないわよ。」
「…ありがとうございます。」
「ところで。」
「はい?」
「いつまで、地面に座っているの?」

 彼女、コーラルは先ほどからずっと地面に座り込んだままだった。

「あっ。」
「汚いわよ。」

 手を伸ばし、彼女に触れた瞬間、私の脳裏に一つの光景が浮かんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

処理中です...