逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

涙に濡れる薄紅

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 黒煙で先が見えずらいが、そこが戦場である事が私には理解できた。
 私は視線を動かそうと首を捻ろうとするが、私の体は私の意思通りには動いてくれない。
 不思議に思いながらも、私は自分の視界に映るものに注意する。

 普段よりも高い視界。

 まるで大人のような高さだった。
 次の瞬間、私の体は殺気を感じて後ろに大きく飛びのく。
 人が近づく気配した。

「………………っ!」
「……。」
「………。」
「………っ!」

 人が怒鳴っているとは認識できるのに、その音が聞こえない。
 そして、私は思い出した。

 そうだ、あの時、自分は耳が聞こえなかったのだ。
 力を使いすぎてその反動で、一時的に聴覚、触角を失っていたのだ、それを誤魔化しながら自分はあの人の傍に居た。

 内容が聞き取れないが、それでも、説得しているのだとは理解できた。
 でも、彼女はそれを受け入れなかった。

 前に会った時はもっとましに編まれていたみつあみがぐしゃぐしゃで彼女の心情を表しているようだった。

 彼女は騎士だった。
 特に優秀ではなかったのだろうが、それも、いつも敵対していた彼女の傍に居た一人で、衝突しては互いに傷つけ、そして、悔しそうな顔をしていたのを覚えている。

 そんな彼女に今、自分の仲間たちが説得を試みているが、彼女は決して首を縦に振らない。
 それもそうだろう、ずっと信じていたものを、ずっとそう信じ込まされていたものを今さらなかった事には出来ない。

 たとえ、それが自分の命を失う結果になっても、彼女はもう手遅れだった。

「…………っ!」

 涙に濡れる薄紅の瞳が不意に自分を見る。

『もし…、もっと早く出会っていたら……もしかしたら。』

 射抜くように見つめる瞳から語られる言葉に自分はこの時何も感じなかった。
 ただ、彼の事だけが心配だったからだ。
 今も「前」と変わらないはずなのに、なぜか胸がツキリと痛んだ。

 私が意識を飛ばしている間にいつの間にか彼女との戦闘に入っていた。
 彼女は剣を持ち、地をうまく使いながら自分たちを翻弄する。

 しかし、彼女の術を自分が相殺し、彼女の剣はジェダイドとその親友の青年と傭兵の男がうまくいなしていた。
 普段ならもう終わっているような戦闘なのに、彼女は死ぬ気なのか、いつまでも死力を使って戦った。

 だけど、その命を燃やしても、人数には勝てるわけではなく、その幕引きはあっという間だった。
 魔術師の彼女が自分たちの戦っていた間に高めていた高位の術によって敵の少女を業火の炎によって焼き殺した。

 魔術師の彼女も自分の力の威力に驚いていた。
 でも、もう火は消えない。

 敵対していた少女は燃え盛る炎の中で、自分をじっと見てた。
 そして、涙濡れる瞳は柔らかく細められーー。
 炎に舐められるようにしてその身を焦がした。

 数分後沈下した時には少女は真っ黒になり、もうそれが少女だったとは思えないものが横たわっていた。

 ああ、そうだ、私はこの薄紅の瞳を知っていたのだーー。

 過去のような未来のようなあの世界でーー。
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