逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
13 / 136
第一章

漆黒の中の光

しおりを挟む
 私はセラフィナイトをあやしながら、空を見上げる。
 日が落ちる前に食事を済ませ、マギーおばさんやあの男の人、ジェダイドたちは馬車の中で眠っている。
 私は火を焚いて、夜が明けるのを待つ。

「あー、うー……。」

 空に手を伸ばし、セラフィナイトは星を掴むようなしぐさをする。

「あの星はね、旅人の道標となる星なのよ。」

 北にずっとある星。
 旅人はそれを目印にして東西南北を知る。
 私たちも「前」の時にはその星を頼りに色々な場所に向かった。
 無知過ぎた私はその旅で色々な事を知った。

 でも、無知は今でも変わらない。
 もっと知識が欲しかった。
 でも、あの場所には限られた本しかないし、情報も聖都や王都、騎士団本部くらいしか私が求める知識はないだろう。そして、情報も。

「大地が衰える時
 二人の神子が姿を現す
 破壊と癒しを司りし二人の神子
 破壊の神子は「破壊」により膿を消し
 癒しの神子は「癒し」により大地を癒す
 彼の者らは大地を蘇らせるべく
 祭壇にて力を振るわん」

 この伝承により、破壊の神子として生まれたジェダイドは「前」の時、命を狙われた。
 そして、私は生まれた。
 破壊の神子の力を持った傀儡という名の精霊を操り、自分たちの望む世界を作ろうとしたものがいた。
 この伝承がある限りジェダイドは解放される事はない。
 それに、この伝承にいるもう一人の神子はいないのだ。

「前」の時はジェダイドに対となる女性は生まれる前に死んだ。それにより、ジェダイド一人に重しが圧し掛かった。
 多分、この世界の癒しの神子も死んでいると考えていいだろう。
 最悪な状況を考えて動かなければならない。
 最悪なのは私みたいなイレギュラーがいて、もうすでに終焉へ向かっている事。
 それを知る為に私がする事は……。

 一つ、聖都に行き、上級の聖職者になり、上部の情報を得る事。

 一つ、騎士本部に行き、将軍の位を得る事。

 どちらも簡単な道ではない、それでも、私は有力なのはこの二つだと思っている。
 ただ、問題があるとするとすれば、セラフィナイトをどうするか、と、どちらの道も平民でなるには厳しい事。
 平民で聖職者になるのも騎士となるのも出来る。

 でも、問題は上の位に行くには困難……否、完全に潰される。
 上位職を得るためには実力だけじゃなく、コネが必要だった。

「あああっ!」

 突然泣き出したセラフィナイトに私は我に返る。

「セラフィナイト?ごめんね、考え事して、どうしたの?」

 あやしながら私はセラフィナイトを見る。

「う……あー。」
「えっ?」

 セラフィナイトはジッとある一点を見つめている。
 そして、私は振り返る。

「ジェダイド。」
「寝ないのか?」
「ええ。」

 ゆっくりと近づく彼は私の横に来て、セラフィナイトの頭を撫でる。

「あんまり騒ぐなよ、起きるからな。」
「あーうー。」
「偉いな。」

 ニッコリと笑うセラフィナイトにジェダイドは微笑みかける。

「何で?」
「お前こそ何で、一人で起きているんだよ。」
「見張りが必要だから……。」
「はぁ……、何で交代をしなんだ。」
「私が雇われたので。」
「……。」

 本気で呆れたような顔をするジェダイドに私はどことなく居心地が悪かった。

「馬鹿。」

 呟かれた言葉に私は何も言えなくなる。

「本当にお前は何やっているんだよ。」
「私は私の仕事を。」
「はぁ…。」

 ジェダイドは溜息を零し、そして、私に向かって手を出しだす。

「何?」
「セラをかせ。」
「貸せって…。」
「少しでも体を休ませろ。」

 私は渋っていても仕方ないと悟り、大人しくセラフィナイトを彼に預ける。
 セラフィナイトは暴れる事もなく大人しくジェダイドに抱っこされる。

「セラフィナイトもジェダイドもだいぶ慣れて来たわね。」
「はじめは酷かったけどな。」

 機嫌がよかったセラフィナイトをジェダイドが抱き上げたとたんに泣き出すという事が何度もあり、彼はそのたびに顔には出さなかったが落ち込んでいるのを知っている。
 そして、だんだんセラフィナイトはジェダイドに慣れたのか彼に抱っこされてもよほど機嫌が悪い場合じゃなければぐずる事はなくなった。

「いつも、こうなのか?」
「えっ?」
「一人で見張りをしたり、魔物を狩ったり。」

 ジェダイドの言葉に私は苦笑する。

「それはほとんどないよ。」
「本当に?」
「ええ、誰かの護衛とかは十回もなかったと思うし、魔物なんて自分から会いに行こうとは思わないわ。」
「そうか。」
「基本、私の場合は薬草を買って貰ったり、偶に狩った小動物を買って貰って稼いでいたから。」
「……。」
「そうね、年に一度くらいワイバーンを狩るくらいね。」

 ホッとしていたジェダイドに私は安心してもらう為に、それを言えば何故か彼は固まった。

「ワイバーン……だと?」
「ええ、年に一度十体くらいのワイバーンがあの街の付近に来るから先に潰しておいたの、そうじゃないと、危ないものね。」

 ドラゴンの中でも下に位置する魔物は素材としては値打ちものだが、残念ながら食用には向かないので仕方なく駆除として退治していたな、とついこの間の事なのにだいぶ前のように思ってしまった。
 それだけ、ジェダイドたちとの出会いは強烈だったのだろうな、と私は呑気に考えていてジェダイドの表情を読んでいなかった。

「危ない事十分してるじゃないかっ!」
「えっ?」

 行き成り怒鳴るジェダイドに私はキョトンとなる。

「どこが?」
「ワイバーンだと、下手すれば死ぬだろうが。」
「確かに空中にいるから厄介な敵だけど、重力を操って飛べないようにすれば、攻撃は直接攻撃とエアスラッシュに気をつければ大丈夫よ。」

 頭が痛いのか額を押さえるジェダイドに私は回復を使おうか申し出るが、彼は首を横に振った。

「大丈夫?」
「……お前は本当に規格外だな。」
「そうなの……かな?」

 生まれ育ちは特殊だと思うけど、能力的にはまだまだと思っているのだが、と私は思っていると、ジェダイドはそんな私の考えを読んだかのように溜息を零す。

「何の為にそんな無茶をするんだ。」

 貴方を生かす為、私はそう言う事が出来ない、否、思うだけで十分なので口にはしない、代わりに誤魔化すように笑う。

「………………頼むから、死に急ぐなよ。」
「役目を終えるまでは死なないよ。」
「役目?」

 うっかりと口を滑らす私はこれ以上彼に答える事はしない。
 「前」にジェダイドを失い、真っ黒な闇に突き落とされた自分、そして、過去に戻ったと知り、彼を生かすという僅かな光を見つけた。
 だから、私の役目は彼を生かす事、その為にこの命はギリギリまでは使わない、時間は刻々とあの日に近づく。
 足らない時間の中で私はどこまで準備ができるのだろうか。


 私は気づいていない二対の瞳が私を心配そうに見ている事に、私は再び訪れるあの日までその二対の瞳に気づく事はなかった。

 もし、気づいていたら……、失わなかったのだろうか、この未来(さき)に訪れる別れに…。変えられたのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

処理中です...