逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
24 / 136
第一章

闇の声

しおりを挟む
 私は闇夜を走っていると不意に下の方にある実が目に入る。

 あれは確か実を粉末にすれば命は落とす事はないが、強力な痺れ薬となり、最低六時間はまともに動けないものだった。
 確か「前」の時は龍には効かなかったが、対人だったらかなりの効果があった。
 私はトンと屋根を蹴り、その実を五つほどもらう。
 本当はすり鉢とかで細かく粉末にしたいところだが、残念ながらそんな事をする余裕は今の私にはなかった。

 リン

 私の耳に小さな鈴のような音が入る。

「何?」

 リン リン リン

 それはまるで焦っているかのような音をたて、私は目を閉じ今の敵の動きを確認する。
 この先にいる敵は特に誰とも遭遇せず、そのまま空き家などを物色している。
 ここよりも離れている少し前に合流した敵はまるで警戒しているのか、その場を陣取って武器を構えている。
 自衛団とぶつかっている敵はあと少しで自衛団の勝ちが決まっている。
 そうそこまでは問題がない、問題は人質の少女がいる所だった。
 賊は泣き喚く少女にナイフを僅かに食い込ませている。

「――っ!」

 悠長に倒している暇なんてなかった。
 私は水の精霊によって水鏡を作ってもらう。
 三枚の鏡にそれぞれの賊の姿が浮かぶ。

「風よっ!」

 二つの実を空中に投げる。
 風は私の意を汲み取り、その実を粉々に砕く。
 そして、それを敵がいる方に風を操る。
 敵味方関係なく痺れる事になるが、構っている余裕なんてなかった。
 走り出す私は少女のいる鏡を見ながら精霊に指示を飛ばす。

「火よ、燃え上がれっ!」

 賊が持っていた松明が異常に燃え上がり、男たちが狼狽え、少女からの意識が離れる。

「草木よ、敵意ある者を捕えよっ!」

 私の体が氷のように冷たくなり、息が異常に上がる。

 耳鳴りもする、口が変に乾く。

 目の前が歪む。

 駄目だっ!

 意識を保つために、私は自分の腕にナイフを刺す。

「――っ!」

 痛みによって無理やり覚醒さ、歯を食いしばる。
 これ以上力を使えば確実に落ちる。
 私は痺れ薬がそれぞれの賊に届き、彼らが戦意喪失した事を確認する。
 そして、自衛団の方もあらかた片付いている。
 水鏡が三枚同時にわれる。

「く……。」

 頭が痛い。

 吐き気もする。

 でも、私は諦める事はしたくなかった。

 深呼吸で呼吸を整え、止まりそうになる足を叱咤する。

――何故、そこまでして戦うの?

 何処からか声が聞こえた気がした。

――この村の人は君を疎んでいるのに

 その声は「前」の時も聞こえていた、でも、その時は何かを言っていると思っただけで、こんなにも鮮明に聞こえた事はなかった。

――君はその力で壊せばいいんだよ

「……。」

――だって、この世界の全員が君を殺したいと思っているんだよ

「……さい……。」

――ねぇ、救う価値なんてあると、本当に思う?

「煩いっ!」

 私は力を振り絞り、聖なる光を出す。

――残念…君はそう簡単に落ちたりはしないんだね………「前」のあの子どもは簡単に落ちそうになったのに

「えっ?」

 予想外の言葉に私の足が止まる。

――でも…、あの子どもも落ちなかった……本当に君は「前」も今も忌々しいね

「………あの子どもって…ジェダイドの事っ!」

――ああ、今はそんな名前だったかな、まあ、君には関係ない事だよ

「ジェダイドに何かするのなら、私はあなたを殺すっ!」

 殺気立つ私に声はクツクツと笑う。

――そう殺気立たなくてもいいよ、今のあの子どもは「前」と違いそう簡単に落ちないね、君の所為で

「彼は強い。」

――弱いよ、あの子どもは

「強いっ!私なんかよりずっとっ!」

――ああ、本当に残念だ、君が弱ってようやく声が届けられたのに、本当に残念だ、こちらはいつでも君たちを迎え入れるよ

「誰がっ!」

――世界に絶望した時、君たちは絶対にこちら側にやってくる

「彼がいる限り、私は絶望なんてしないっ!」

 そうジェダイドが生きる世界を私の手で壊したりなんて絶対にしない。

――待っているよ、ずっと、ずっと…

 ようやく闇の気配が消えさり、シンと静まり返る。

「あれは……何なの……?」

 残念ながら私の問いに答える者は誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

処理中です...