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北斗サイド
ひとまず嵐は去る
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あれから大した話をする事もなく、その時間は来た。
「それじゃ、北斗、今回は言っておくけど、ちゃんとあんたからもメールか何かしときなさいよ。」
お節介ごとを言う姉貴に俺は耳に胼胝ができるのではないかと思うほどの言葉にいつも通りに返事を返す。
「はいはい。」
「はい、は一回でいいの。」
いつも通りのやり取り、だけど、この場にはいつもと違う少女がいる。
彼女は俺たちのやり取りを微笑ましく思ったのか、思わずと言うように笑っていた。
「スピカ。」
咎めるように彼女の名前を呼べば、彼女はより一層笑い出す。
「ははは。」
「……。」
俺たちのやり取りを見ていた姉貴が、何を思ったのか、俺に声をかける。
「ねえ、北斗スピカちゃんのいるのはどこ?」
「ここだ。」
俺はスピカを指さすと、姉貴は迷うことなくその方向に手を差し出した。
「こんな弟だけど、よろしくね。」
「は、はい。」
まるで、そのやり取りは自分の身内を婿か嫁かに出すような、そんなやり取りに見えたのは俺の欲目だったのだろうか。
そんな俺を置いて、姉貴とスピカの手は交わる事ない握手を交わす。
きっと姉貴には関係ないのだろう、本当に握手が出来なくとも、視えなくとも、スピカが自分の気持ちを汲んでくれるのを理解していたのだろう。
「――っ!」
刹那、ぞっとするような、だけど、邪悪とは正反対の何か畏怖するようなそんな何かが俺の体を走り抜けた。
きっと姉貴も同じだったのだろう、姉貴も俺と同じように目を見開き、何故かスピカを凝視していた。
「スピカちゃん、貴女、仙名(せんな)彩実(あやみ)ちゃん?」
知らない名を呼ぶ姉貴は何を「視た」のだろうか。
そして、その名前を聞いたスピカは何を感じ、頭を押さえているのだろうか、俺には全く理解できなかった。
「スピカ?姉貴?」
俺は呆然と呼ぶことしか出来なかった。
「何でもないよ。」
明らかにやせ我慢しているスピカに俺は顔を顰める。
「何でもないって、その顔色でよく言える。」
「……。」
分かっていないスピカは自分の顔色が青白くなっている事に、透けているのに青白くなるなんて幽霊のようだった。
そして、俺は姉貴を見れば、姉貴もまた顔色を悪くしていた。
だから、俺は軽口を言う。
「姉貴も何なんだよ、そんな幽霊でも見たような顔してさ。」
「幽霊は視てないわよ。」
だったら「何」を視たんだよ、俺はそう言いたかったが、何故か、それをスピカの前で聞いてはいけないような気がした。
「冗談なんだから本気で返すなよ。」
俺は結局そう返す事しか出来なかった。
俺は誤魔化すようにため息を零す。
「ちょっと、調べたいことができたから、帰るわね、じゃあね、北斗、スピカちゃん。」
先ほど呼んだ名前はきっとスピカの正体を探る一つの手がかりとなったのだろう。
姉貴はそれを手がかりとして探してくれるのだろう。
姉貴は手を振り去っていく。俺は肩の荷が一つ降りたようなそんな心地がした。
ふと、スピカの視線を感じ、俺は誤魔化すように口を動かす。
「やっと嵐が居なくなった。」
苦し紛れの言葉にスピカは信じたのか苦笑する。
「北斗、それ言いすぎだよ。」
「そうか?」
「そうだよ。」
「まあ、どうでもいい、さっさと部屋に帰ろうぜ。」
「もう、北斗ってば。」
日常が戻ってい来る。
スピカと一緒に居られる日常が。
だけど、終焉の足音は確実に近づいていた。
俺はそれを聞きたくなくて、硬く耳をふさぎ、目を閉じ、それを見ないようにしていた。
結局そんな事は出来ないのに、俺は無駄なあがきをする。
夏休みの終わりは、同時に俺が悪あがきを強制的に辞めさせられる切り替わり地点だったのかもしれない。
「それじゃ、北斗、今回は言っておくけど、ちゃんとあんたからもメールか何かしときなさいよ。」
お節介ごとを言う姉貴に俺は耳に胼胝ができるのではないかと思うほどの言葉にいつも通りに返事を返す。
「はいはい。」
「はい、は一回でいいの。」
いつも通りのやり取り、だけど、この場にはいつもと違う少女がいる。
彼女は俺たちのやり取りを微笑ましく思ったのか、思わずと言うように笑っていた。
「スピカ。」
咎めるように彼女の名前を呼べば、彼女はより一層笑い出す。
「ははは。」
「……。」
俺たちのやり取りを見ていた姉貴が、何を思ったのか、俺に声をかける。
「ねえ、北斗スピカちゃんのいるのはどこ?」
「ここだ。」
俺はスピカを指さすと、姉貴は迷うことなくその方向に手を差し出した。
「こんな弟だけど、よろしくね。」
「は、はい。」
まるで、そのやり取りは自分の身内を婿か嫁かに出すような、そんなやり取りに見えたのは俺の欲目だったのだろうか。
そんな俺を置いて、姉貴とスピカの手は交わる事ない握手を交わす。
きっと姉貴には関係ないのだろう、本当に握手が出来なくとも、視えなくとも、スピカが自分の気持ちを汲んでくれるのを理解していたのだろう。
「――っ!」
刹那、ぞっとするような、だけど、邪悪とは正反対の何か畏怖するようなそんな何かが俺の体を走り抜けた。
きっと姉貴も同じだったのだろう、姉貴も俺と同じように目を見開き、何故かスピカを凝視していた。
「スピカちゃん、貴女、仙名(せんな)彩実(あやみ)ちゃん?」
知らない名を呼ぶ姉貴は何を「視た」のだろうか。
そして、その名前を聞いたスピカは何を感じ、頭を押さえているのだろうか、俺には全く理解できなかった。
「スピカ?姉貴?」
俺は呆然と呼ぶことしか出来なかった。
「何でもないよ。」
明らかにやせ我慢しているスピカに俺は顔を顰める。
「何でもないって、その顔色でよく言える。」
「……。」
分かっていないスピカは自分の顔色が青白くなっている事に、透けているのに青白くなるなんて幽霊のようだった。
そして、俺は姉貴を見れば、姉貴もまた顔色を悪くしていた。
だから、俺は軽口を言う。
「姉貴も何なんだよ、そんな幽霊でも見たような顔してさ。」
「幽霊は視てないわよ。」
だったら「何」を視たんだよ、俺はそう言いたかったが、何故か、それをスピカの前で聞いてはいけないような気がした。
「冗談なんだから本気で返すなよ。」
俺は結局そう返す事しか出来なかった。
俺は誤魔化すようにため息を零す。
「ちょっと、調べたいことができたから、帰るわね、じゃあね、北斗、スピカちゃん。」
先ほど呼んだ名前はきっとスピカの正体を探る一つの手がかりとなったのだろう。
姉貴はそれを手がかりとして探してくれるのだろう。
姉貴は手を振り去っていく。俺は肩の荷が一つ降りたようなそんな心地がした。
ふと、スピカの視線を感じ、俺は誤魔化すように口を動かす。
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「北斗、それ言いすぎだよ。」
「そうか?」
「そうだよ。」
「まあ、どうでもいい、さっさと部屋に帰ろうぜ。」
「もう、北斗ってば。」
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だけど、終焉の足音は確実に近づいていた。
俺はそれを聞きたくなくて、硬く耳をふさぎ、目を閉じ、それを見ないようにしていた。
結局そんな事は出来ないのに、俺は無駄なあがきをする。
夏休みの終わりは、同時に俺が悪あがきを強制的に辞めさせられる切り替わり地点だったのかもしれない。
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