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幽霊少女サイド

初雪と共に…

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 文化祭の後はあっという間に日にちが飛ぶように過ぎ去り、もう師走、十二月の終わり際のクリスマスイブ。

 今日は二学期の終業式で、北斗は生徒会役員として慌ただしい日を過ごしていたけれども、お昼に私をあの春の日に出会った、花壇に呼び出した。

「北斗、どうしたの?」

 私は北斗が何か張りつめている事には気づいていたけれども、それが何でなのか理解していなかった。

 理解していたら、きっと私は逃げていただろう。

「スピカ、終わりにしよう。」
「えっ?」

 何を言われたのか分からなかった。

「こんないびつな関係なんて止めようと言っている。」
「何で?私、何か北斗の気に障る事をした?」

 私は北斗の服に掴もうと手を伸ばす、いつも、彼は自分の周りに力を流してくれて掴めるのに、この手は北斗を通り抜ける。

 私は北斗に拒絶されたのだ。

「北斗、北斗?」

 いやだ、何で。

 私は拒絶されたの?

 だって、昨日までは普通だったよね?

 一緒に居たいって言ってくれたよね。

 側に居ろって言ったのはそっちだよね?

 何で、何で。

 涙があふれ出る、その所為で北斗の顔が見えない。

 言葉を出したのに、嗚咽しか出ない。

 お願い、何か言って。

 教えて。

「初めから可笑しかったんだ。」

 出会いを否定された。

「俺たちは間違った関係を続けているんだ。」

 ああ、貴方はなんて酷い人。

 貴方がいなければ、私の魂は春の幾日かで三途の川を渡っていたのに、今更、そんな事を言うのね。

 今の私は息を吹き返す事しか、道がないのに、生きて、死ねばいいのだろうか。

「スピカ、リセットしよう。」
「…………………か……との…ば…。」

 馬鹿、北斗のバカ。

 リセットだなんて、出来るはずがない。

 この思いはきっと記憶に残っていなくても、心には残っている。

 酷い人、私に傷だけを残して、私に生きろというのか。

 両思いだと思っていた。

 貴方が思うほど私は鈍感じゃないのに。

 貴方のその目が。

 貴方のその言葉が。

 いつも私に向いていた事に気づいていたよ。それでも、不安はあった、だって、貴方はちゃんと言葉にしてくれないんだもの。

 好きと言うたった二文字の言葉。

 なのに、貴方は愛の言葉ではなく、さよならを告げるのね。

「スピカ?」

 なら、お望み通り、消えてあげる。

 だけど、ごめんね、私は黙ってうなずくような、いい女じゃないの。

 最後に、貴方を深く傷つけてやるわ。

 初雪を見て思い出せばいいわ、そして、遠くで笑ってやる。

 私は涙を拭い、そして、笑ってやる。

「北斗、私は貴方が好き。
 大好き、たとえこの身が消えてもずっとそばにいてもいいほど、貴方が好き。
 だけど、北斗は私の事なんて何とも思っていなかったんだよね。
 きっと、別の人が好きなんだよね。」

 何を言っているんだと、目を見開く北斗。

 そうだよね、北斗はそんな人じゃない事くらい知っているよ、だけど、その顔を見たかった。

「北斗の周りには綺麗な人がいっぱいいたもん、しょうがないよね。
 ごめんね、私が側にいた所為で。」
「スピ――。」

 私の体が光の粒となり、天に上る。

 北斗は金魚のように口をパクパクさせる。

 何よ、望み通りにしてやっているのに、その顔は。

 じゃあ、とどめを刺すね。

「私以外の人と幸せになってね。」

 満面の笑みを浮かべてやった。

 そんなことできないよね、だって、貴方は私の事が好きだったんだから。

 そんな事が出来るほど器用じゃない事くらい知っている。

 せいぜい後悔してよ。

 好きな女に消えろって言ったんだから。

 勝手に私が身を引いたと思って、後悔してよね。

 私は薄れゆく意識の中、ただただ、北斗の記憶に残るようにと祈り(呪い)ながら引っ張られる先に向かって行く。

 この時私は自己満足で気づいていなかった。

 北斗はこのいびつな関係を終わらすとはいっても、消えろとは言っていなかった。

 その事に、私は全く気付かなかった。
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