もう一度君と…

弥生 桜香

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第六章

第六章「体育祭」8

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 ようやく一人になった涼也は校舎の壁に凭れ掛かる。

「はー、マジ疲れた。」

 確実に体育祭での疲れではなく精神的に涼也は参っていた。
 空を見上げ、何となく前にもこんな事があった気がした。
 「前」の社会人になって今以上に精神的に参っていた時にこうして一人になって空を見上げていた。
 その時の自分はどうしたんだっけ、と涼也は思い出そうとする。

 確かあの時は失敗をしてしまい。
 先輩に尻拭いをしてしまった。
 何とかはなったが、それでも、大なり小なり相手の信用を失ってしまったし、自分もどうしてあんな失敗をしてしまったのだとすごく落ち込んだ。
 でも、今思えばあの時失敗していてよかったと思う。
 あの時の失敗があったから同じ失敗をしないようにと気を付ける事が出来た。
 それに、同じような失敗をした後輩のフォローに入る事が出来た。
 でも、当時の自分は不幸のどん底のように落ち込んでしまっていた。

『大丈夫か?』

 そう言ってくれたのはあの先輩だった。
 彼は缶コーヒーを差し出し、涼也を見てくれた。

『……まあ、そんなに落ち込むな。』

 気休めでしかないと分かっていながらも彼は自分に言葉をかけてくれた。

『……。』

 そして、黙って涼也の傍に居てくれた。
 その空気が居心地悪く、涼也は戻ってくれと言ったけれども、先輩は何と言ったのかは忘れてしまったが、何かを言って断った。
 涼也は自分の不甲斐なさから涙が溢れ出す。
 鼻を鳴らし、涙を堪えようとする涼也にポンポンとあやすように先輩は涼也の頭を叩いでくれた。
 どのくらいの時間そうしてくれたのかは涼也にも先輩も分からないし、忘れてしまったが。

 何秒。

 何分。

 十何分。

 何十分。

 どんなに時間がかかっても、多分その先輩は涼也が落ち着くまで傍に居てくれた。
 そして、涼也はズビズビと鼻を鳴らすながら涙を拭った。

『落ち着いたか?』

 優しい声に涼也は、はい、と答える。

『そんじゃ、飯食いに行くぞ。』

 えっ、と驚く涼也に先輩はニッと笑う。

『人はどんな状況でも腹が減るし、腹が減ったら、気分が滅入るし、効率も悪くなるからな。』

 涼也はどうしようかと迷っていると、無理やり先輩は彼の手を引く。

『お前は黙ってついて来い。』

 問答無用、というように先輩は涼也を自分の行きつけの店に連れていく。
 そして、自分の失敗談や、涼也の不安、疑問、等いろいろ聞きだしアドバイスまでくれた。
 それから、涼也はどうしようもない事が起こると自然と空を見上げる事が多くなる。
 そんな時、かなりの頻度で先輩が気づいてくれた。
 その度、相談に乗ってくれたり、黙って傍に居てくれて涼也の答えを待ってくれた。
 涼也はそっと目を閉じる。

 残念ながら今の涼也は彼の顔を思い出す事ができなかった。

「……。」

 涼也は自分の頬を叩く。

「よしっ!」

 気合を入れて涼也は再び空を見る。
 だけど、いつものようにただ見るのではなくまるで挑むかのように、睨むようにして見ていた。
 湿った空気は自分には合わない。
 今はこの状況を全力で挑む、そう涼也は決めていた。
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