もう一度君と…

弥生 桜香

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第三章

第三章「焦りと出会い」3

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 あれから電車やバスを利用して二人がたどり着いた先は水族館だった。

「こんな場所で良かったのか?」
「ああ。」

 涼也何でアキラがこんな場所に来たかったのか不思議で仕方なかった。

「ガラじゃないとか思っているだろう?」

 いつの間にか背後に立たれ、涼也の頭を小突くアキラに涼也はごくごく普通に頷いた。

「思ったさ。」
「お前と居るんなら静かな場所がいい気がしてな。」
「色々ありそうだけど?」
「たとえば?」
「海?」
「今のシーズンだと多いと思うが?」
「山?」
「こんな暑い日に山登りか?」
「……。」

 何処を言おうとしても人が多い場所しかなく、ある意味穴場であるこの水族館くらいしか確かに人気の少ない場所はないだろう。

「それにしても、懐かしいな。」
「来た事あるのか?」
「小五の遠足にな。」
「お前幾つだ?」

 あまりにも懐かしそうな顔をする涼也にアキラは怪訝な顔をする。

「中二だけど?」
「三年ほど前なのに、そんな懐かしい顔をするか?」
「……。」

 涼也は僅かに顔を強張らせるが、それは彼の身内しか分からないような僅かな変化だったので、幸いにもアキラには気づかれない。

「その三年の間に色々あってな。」
「そうか。」
「そう言うアキラは三年前、何処に行ったんだよ。」
「海外だな。」
「……。」

 アキラの言葉に涼也は目が点になる。

「……お前ってもしかして俺よりかなり上?」
「失礼な、中三だ。」
「待て待て、三年前って六年だろう?それなのに、海外だと?」
「ああ。」
「修学旅行だよな?」
「いや、遠足だ。」
「何処がだよっ!」

 信じられない事を言うアキラに涼也は怒鳴る。

「リョウ、煩いぞ。」
「お前の所為だろうがっ!」

 涼也が怒鳴ると何処からか咳払いの音が聞こえ、そちらの方に顔を向けると警備員の方が咳払いをしていた。

「あ……。」
「お前の所為だぞ。」
「すみません……。」

 流石に精神的には二十を超えたいい年をした大人がこんな事をして悪目立ちをするのは情けなくなった。

「ほら、いつまでも落ち込むな、行くぞ。」

 アキラに手を引かれ涼也は久しぶりの水族館に入っていった。
 特に大きな目立つものがないこの水族館だが、それでも、そう言うのが好きな人間ならば分かるような通な生き物がいるので人はまばらにいた。
 小学生だった頃の涼也ならば退屈で仕方なかったが、今の涼也は興味深そうに水槽で泳ぐ魚たちを見ていた。

「面白いな。」
「だな。」

 ゆっくりと穏やかな空気が二人を包み込む。

「……久しぶりだよな。」

 涼也が呟いた言葉にアキラは反応する。

「何がだ?」
「……なんつーか、最近色々気が張りつめていてさ。」

 涼也は水槽を見つめながらただただ気持ちを整理する為に呟く。

「もっと、知識を、体力を、ってさ、変に自分を追い込んでいたかもしれない。」
「……。」
「こうやって、生きていくためにさ、こんな魚たちの名前や習性とか知ってもさ、

 将来何かの役に立つかって言われても何もないだろう?」

「……そうだな。」
「でも、張りつめたままでさ、頑張っても駄目だったんだな。」
「……?」

 後ろで疑問を抱いている相手に涼也は知らず知らずのうちに頬を緩める。

「気負ったままで周りを見ても全然楽しくないじゃないか、だったら、少しでも肩の力を抜いて周りを美しいと思っている方がいいじゃないか。」

 そう、昔の自分は半身を失って色あせてしまったが、会社の先輩のお蔭で辛いのは自分だけじゃない、そして、色あせた世界が再び色づいたのだ。

「勿体無いよな。」
「……。」

 涼也の言葉にアキラは考えているのか黙り込む。

「せっかくあんたが誘ってくれたのに塞いだ気持ちで見たら勿体無い。」
「……そうだな。」

 涼也の言葉に何か思うものがあったのか、アキラは納得したような声を出す。

「ありがとうな。」

 礼を言うのはこっちなのに、と涼也は心の中で思ったが、それでも、彼がそんな言葉を望んでいない気がしたので、代わりにこの言葉を述べる。

「どういたしまして。」

 そう言ったら、アキラが笑った気がしたが、ガラス越しで後ろを見ても残念ながら薄暗くて彼の顔が分からず、結局彼が笑ったのか分からなかった。
 温かな気持ちが心地よくて、涼也はこの刹那的な温もりをもう少しだけ感じていたいと思った。
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