もう一度君と…

弥生 桜香

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第五章

第五章「文化祭」10

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 無事お迎えを終えた碧は自分の部屋のベッドの上に横たわる。

「何だったんだよ、あいつ。」

 小さい妹分を迎えに行って、そして、孤児施設にたどり着くまで自分たちの後を追うようにして歩く樹に何度か不満を口にしたが、彼は何を考えているのか分からないような顔で無視をし続けた。
 そして、孤児施設のドアを開け、振り返ればいつの間にか樹は消えていた。
 樹が何の為にいたのか碧は分からない。
 ただ、ムカムカした気持ちが碧の心を占領する。

「本当にマジ分かんねぇ。」

 バタバタと手足を動かしたいが二段ベッドの上の為、下にルームメートがいるので、煩くする事が出来ないので、碧は顔を顰めるだけにとどめる。

「独り言、煩いんだけど。」

 イラついた声音に碧はビクリと体を揺らす。

「わ、悪い。」
「……別にいいんだけどさ。」
「……。」

 碧は起き上がり、ガシガシと頭を掻く。

「なぁ。」
「何さ?」
「お前だったら嫌いな奴の後って追う?」
「…………何を考えてそう言っているのかよく分からないけど、僕ならそんな事はお金を貰ってもヤダね。」
「そうなのか?」
「そうだよ、僕には何のメリットもないのに何をどうすれば嫌っている奴の後を追うのさ。」
「そうだよな……。」

 下から何故か溜息が聞こえ、次にぎしぎしと何かが軋む音がした。

「もう少しそっちによってよね、僕が座れじゃないか。」
「えっ……。」
「話を聞いてあげるよ。」
「慎(しん)。」

 ジンと心が震え、感動する碧だったが、差し出された左手に首を傾げる。

「その手は?」
「相談料、そうだね、百円で手をうってあげる。」
「はあっ!」

 金をとるのかよ、と顔に出す碧に慎は鼻で笑う。

「当たり前だよ、世の中金。」
「………なんつーか、がめついよな。」
「がめつくて、結構、稼げるうちに稼ぐ、そうじゃないと、将来の事を考えるとね。」

 碧は溜息を吐き、枕元に隠してあるへそくりから百円玉を取り出し、慎に向かって投げる。

「毎度あり。」
「……。」
「で?相談は?」
「ああ、何というか知り合いが、さ……、自分を嫌っている奴が今日帰る時に自分の後を追って来たんだとよ。」
「ふーん、知り合いが今日の帰りに、ね。」

 呆れたような顔をする慎に碧は全く気付いていない。

「うん、そんでもって、家に着いたとたん、何も言わずにいなくなったんだけど。」
「うん、送ってくれたんだね。」
「やっぱそうだよな。」
「それしかないじゃん。」
「何でだと思う?」
「………………。」

 碧の質問に慎は大きな溜息を吐く。

「初めに言っておくけど、僕は本人じゃないから分からないけど、僕がもし、その後をつける本人なら多分、碧を嫌っていないんじゃない。」
「はぁっ!嘘だろ……じゃなくて、何で俺の名前が出るんだよ。」

 完全にボロが出ているのにそれを隠そうとする碧に冷めた目で慎は彼を見る。

「ごめん、ごめん、碧の話じゃなかったんだっけ。」
「そうだよ、俺じゃなくってし・り・あ・いっ!」
「はいはい、多分その知り合いという奴を嫌ってはいないんじゃないかな。」
「何でそう思うんだよ。」
「一つ、その知り合いって絶対無防備な奴だろう。」
「いや、そんな事はーー。」
「あるに決まっているね。」

 碧の否定をバッサリと切り捨てる慎は言葉をすぐに紡ぐ。

「まあ、そんな事は置いといて、僕なら嫌いなら無視をするね、絶対、でも、反対に気になっているとか、プラスの感情なら確かに無益でも、僕なら動くね。」
「えっ、お前がただ働きをするっ!」
「……突っ込む所はそこじゃないんだけどね……。」

 イラっと来ているのか笑みを引きつらせる慎に碧はやばいと恐怖で顔を引きつらせる。

「ねぇ、君さ、僕がせっかく相談に乗ってあげているのにさ、何話の腰を折る訳?」
「わ、悪い。」
「本当に悪いと思っているの?どうせ、僕が怒っているんじゃないかと思って敵とに謝っているんじゃないかな?」
「い、いや……。」

 首をぶんぶんと横に振る碧は心の中で助けを求める、そして、心優しい神がその願いを叶えてくれた。
 コンコンと控えめなノックの音がして、そして、外から声がかかる。

「慎……、宿題で分からない所があるんだけど、今いいかな?」
「依緒(いお)か、うん、いいよ、数学?英語?」
「数学なんだけど。」
「了解、談話室で待っていてくれるかな?」
「ありがとう、慎。」

 明らかに態度が違う慎に碧は呆気に取られる。

「という訳だから、僕は行くね。」
「あ、ああ、ありがとう。」

 よそ見をせず、真っ直ぐに依緒の元に行く準備を進める慎を見守り、そして、彼が完全に出て行き扉が閉まる音と共に碧はベッドに倒れ込む。

「何だったんだ、あいつ……。」

 普段と明らかに態度が違う慎にどっと疲れた碧は天井を仰ぐ。
 施設の一部を除いた人間と藍妃は知っている事なのだが、慎と依緒は恋仲だった。残念ながら鈍感な碧はそれを知る由もなかった。
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