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第三章
第三章「焦りと出会い」5
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悔しかった。
楽しそうなアキラの表情を思い出し、涙が出そうになる。
がむしゃらに走っていた涼也だったが、すぐに、追いかけて来たアキラに捕まる。
「離せよっ!」
「嫌だっ!」
「何だよ、お前はっ!」
「頼むから話を聞いてくれっ!」
傍から見たら痴話喧嘩にしか見えないやり取りだが、幸いにも人の姿はなかった。
「聞くような話なんてないっ!」
「あるだろうがっ!」
「ないっ!」
「あるっ!」
段々苛立つアキラは勢いよく涼也の腕を引いて、その身を抱きしめる。
「悪かった。」
「……。」
心からの謝罪に涼也の抵抗は弱まる。
「本当にすまなかった。」
「……。」
「お前のする事、気遣い、どれも、嬉しくって、何かを返したい…そう思ったんだが、逆にお前を怒らせてしまった。」
「……。」
「悪かった、そんなつもりじゃなかったんだ。」
「……。」
「あと少しだけでいいから、俺に付き合ってくれないか……頼む。」
「……。」
涼也は僅かに震える手に気づき、力を抜く。
「……った。」
「えっ?」
「分かった、って言ったんだよ。」
「リョウ。」
「こっちこそ悪かった、癇癪を起して。」
精神年齢は絶対にアキラよりも高いのに、と心中で呟いた涼也は苦笑する。
「何というか、金目当てで近くにいたんだろう、と言われたようで腹が立って。」
「……。」
涼也の言葉にアキラはハッとなり、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「アキラ?」
「いや……。」
どこか落ち込んでいるようなアキラに涼也は覗き込むようにして彼を見上げる。
「何か俺変な事を言ったか?」
「お前は何もしてないし、言ってない。」
苦笑を浮かべるアキラに涼也は怪訝な顔をする。
「なら、何だよ。」
「……なんつーかな、自分自身に嫌気がさしただけだ。」
アキラは涼也から目を逸らし、自嘲する。
「自分の親のコネを狙う連中、俺の資産を狙う連中、そんな奴らを嫌っていたのに、いつの間にか俺自身がそれを当たり前に思っていたなんてな。」
嘲笑うような声音に涼也は何となく苛立った。
そして、涼也は自分の心のまま動く。
「アキラ。」
名前を呼ぶが彼は自分の方を見てくれない。
「アキラ。」
もう一度読んでもその眼に自分を映してくれない彼にとうとう涼也は自分から行動する。
アキラの頬を掴むと涼也はグイッと音がするくらいの勢いで自分の顔に向ける。
大きく見開かれた瞳に自分の顔が映りこみ、涼也は満足そうに笑った。
「何つー顔だよ。」
「リョウ…。」
「お前な、落ち込むのはいいけど、ここには俺がいるんだぞ。」
涼也が何を言いたいのか分からないのかアキラは数回瞬く。
「お前が落ち込んだままだと俺は楽しめない、さっき、癇癪を起した俺も人の事を言えないけど、それでも、折角の縁だし楽しもうぜ?」
「……。」
黙り込むアキラに涼也は溜息を零し、彼に頭突きをかます。
「――っ!」
痛みなのか、衝撃なのか分からないが目の端に涙を僅かに浮かばせるアキラに涼也はスカッとしたのかカラカラと笑った。
「これで、相子、いいな。」
「……。」
涼也の勢いに負けたのかアキラは溜息を零した。
「お前って奴は。」
悪態を吐くアキラだったが、それでも、先ほどのような暗いものは背負っていなかった。
「さーて、折角のたこ焼き冷めちまったが食べようぜ。」
「そうだな。」
近くのベンチを探して、男二人たこ焼きを食べる姿はどこか滑稽だったが、それでも、二人は他人の目を気にする事無くそれを完食する。
楽しそうなアキラの表情を思い出し、涙が出そうになる。
がむしゃらに走っていた涼也だったが、すぐに、追いかけて来たアキラに捕まる。
「離せよっ!」
「嫌だっ!」
「何だよ、お前はっ!」
「頼むから話を聞いてくれっ!」
傍から見たら痴話喧嘩にしか見えないやり取りだが、幸いにも人の姿はなかった。
「聞くような話なんてないっ!」
「あるだろうがっ!」
「ないっ!」
「あるっ!」
段々苛立つアキラは勢いよく涼也の腕を引いて、その身を抱きしめる。
「悪かった。」
「……。」
心からの謝罪に涼也の抵抗は弱まる。
「本当にすまなかった。」
「……。」
「お前のする事、気遣い、どれも、嬉しくって、何かを返したい…そう思ったんだが、逆にお前を怒らせてしまった。」
「……。」
「悪かった、そんなつもりじゃなかったんだ。」
「……。」
「あと少しだけでいいから、俺に付き合ってくれないか……頼む。」
「……。」
涼也は僅かに震える手に気づき、力を抜く。
「……った。」
「えっ?」
「分かった、って言ったんだよ。」
「リョウ。」
「こっちこそ悪かった、癇癪を起して。」
精神年齢は絶対にアキラよりも高いのに、と心中で呟いた涼也は苦笑する。
「何というか、金目当てで近くにいたんだろう、と言われたようで腹が立って。」
「……。」
涼也の言葉にアキラはハッとなり、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「アキラ?」
「いや……。」
どこか落ち込んでいるようなアキラに涼也は覗き込むようにして彼を見上げる。
「何か俺変な事を言ったか?」
「お前は何もしてないし、言ってない。」
苦笑を浮かべるアキラに涼也は怪訝な顔をする。
「なら、何だよ。」
「……なんつーかな、自分自身に嫌気がさしただけだ。」
アキラは涼也から目を逸らし、自嘲する。
「自分の親のコネを狙う連中、俺の資産を狙う連中、そんな奴らを嫌っていたのに、いつの間にか俺自身がそれを当たり前に思っていたなんてな。」
嘲笑うような声音に涼也は何となく苛立った。
そして、涼也は自分の心のまま動く。
「アキラ。」
名前を呼ぶが彼は自分の方を見てくれない。
「アキラ。」
もう一度読んでもその眼に自分を映してくれない彼にとうとう涼也は自分から行動する。
アキラの頬を掴むと涼也はグイッと音がするくらいの勢いで自分の顔に向ける。
大きく見開かれた瞳に自分の顔が映りこみ、涼也は満足そうに笑った。
「何つー顔だよ。」
「リョウ…。」
「お前な、落ち込むのはいいけど、ここには俺がいるんだぞ。」
涼也が何を言いたいのか分からないのかアキラは数回瞬く。
「お前が落ち込んだままだと俺は楽しめない、さっき、癇癪を起した俺も人の事を言えないけど、それでも、折角の縁だし楽しもうぜ?」
「……。」
黙り込むアキラに涼也は溜息を零し、彼に頭突きをかます。
「――っ!」
痛みなのか、衝撃なのか分からないが目の端に涙を僅かに浮かばせるアキラに涼也はスカッとしたのかカラカラと笑った。
「これで、相子、いいな。」
「……。」
涼也の勢いに負けたのかアキラは溜息を零した。
「お前って奴は。」
悪態を吐くアキラだったが、それでも、先ほどのような暗いものは背負っていなかった。
「さーて、折角のたこ焼き冷めちまったが食べようぜ。」
「そうだな。」
近くのベンチを探して、男二人たこ焼きを食べる姿はどこか滑稽だったが、それでも、二人は他人の目を気にする事無くそれを完食する。
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