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第五章
第五章「文化祭」39
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「これより二年――。」
幕が上がり、ナレーションの声が聞こえ始める。
涼也は偽の銃に体を預け、目を閉じる。
「うわ…すげー、人。」
「大丈夫か?」
涼也は目を閉じてしまっていた為に自然と視覚以外の感覚が鋭くなり耳に主役二人の小声が聞こえた。
「大丈夫に決まっているだろう。」
明らかにやせ我慢のように聞こえ、涼也と樹は同時に溜息を零す。
「何処が大丈夫だ。」
「だってさ…。」
「大丈夫だ、お前がへまをしても誰かがカバーしてくれる。」
「……。」
「傍に居ればカバーしてやるからお前はいつも通りで演れ。」
樹の言葉に碧はパチパチと目を閉じたり開いたりする。
「明日は雨か?」
「どういう意味だ。」
「いや、お前が優しいつーか。」
「……。」
「碧、あんた、出番よ。」
二人の空気が分からなかったのか、一人の女子がこっそりと碧に出番を知らせる。
「あっ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
「樹、サンキュウな。」
碧は手を振って舞台へと足を踏み出した。
歌うように、踊るように舞台に姿を見せた碧の登場に観客が湧く。
「うわ、可愛い。」
「美女。」
「だれだれ。」
「えー、嘘、あれ鳴海だって。」
「うそ、マジで。」
観客の声がここまで聞こえ、待機していたクラスメート全員が苦笑する。
「あいつ、黙っていれば可愛い顔立ちしているからな。」
「小学校の時、それでやっかみがあったしな。」
「ああ、あったな。」
「えー、そうなの?」
「あー、そういえば、あんたは合流組だっけ?」
雑談が続きそうな雰囲気に樹が咳ばらいをし、その冷ややかな視線を全員に向けて黙らせる。
「わ、悪い。」
「ごめん。」
「……。」
罰が悪そうに謝るクラスメートを無視して樹はそのまま舞台を見る。
そして、彼の出番を知らせるボーイソプラノ歌声が彼らの耳に届く。
「あれ、何だったんだ。」
「さあ?」
涼也は遠い記憶の欠片を思い出し、ふっと笑う。
「ああ、そっか、あいつがちょっかい出すのは…そういう事だったのか。」
ようやく繋がり、涼也は無器用な樹に思わず笑ってしまった。
そして、出番が終わった樹と目が合い、涼也が笑えば、樹は怪訝な顔をしていた。
「素直じゃないな。」
「あ?」
涼也はその言葉を残し、自分の出番の準備の為に一歩踏み出した。
劇は白雪姫と王子との出会いが終わり、王妃が現れた瞬間だった。
がたいのいい王妃が現れた事で、観客は一瞬呆気に取られたようだが、すぐに笑いが広がる。
「さあ、鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだ~れ?」
「白雪姫です。」
「んあ?」
どすの利いた低い声に鏡役の男子が震えているのが舞台裏から見えた。
「し、白雪姫でございます。」
「あ~ら、年かしら?何て言ったのかしら?」
ああ?何言い間違いしてやがるんだ、というような迫力を見せる王妃に舞台裏の全員が鏡役の小柄な男子を哀れに思う。
「し、白雪姫で、ご、ございますっ!」
悲鳴のように叫ぶ鏡の精に王妃は口角を上げ。
「ああん、てめぇ、何言ってやがる、美しいのはこのわたくしに決まっているじゃない、訂正しなさい。」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
完全に怯え切っている彼を助け出そうと涼也は一歩踏み出そうとするが、意外に彼は責任感が強かったのか、セリフを言い切る。
「太陽の光を紡いだような美しい髪を持ち、白雪のように真っ白な穢れのない肌をしているあの白雪姫が世界で一番お美しいのです、そして、恋を知ったそのお心はさらに彼女の美しさを磨き上げております。」
「何だとこらぁぁぁぁっ!」
「……あっ、落ちた。」
王妃役の迫力に負けた男子生徒は気絶していた。
しかも、観客には分からないように倒れる事無く座って気絶しているのは確実に責任感の表れだっただろう。
「誰か、誰か居らぬか。」
「はい。」
涼也は出番通りに姿を現し、その時、鏡の精役の男子生徒にはねぎらいの視線を遣る。
「そなたか。」
「はい。」
「ちょうどいい、そなたの腕前ならば白雪など一発でやれるであろう。」
「――っ!」
驚く演技をする涼也に王妃役の男子は器用に眉を上げる。
「何かあったか?」
「いえ、何でもありません。」
「それならば、よかろう、さっさと行け。」
「はっ。」
涼也は立ち去ると幕を担当する裏方の生徒に近寄る。
「あいつ、気絶しているいったん回収するから、幕を閉じろ。」
「了解。」
こうして、小さなアクシデントがありつつも劇は進んでいく。
幕が上がり、ナレーションの声が聞こえ始める。
涼也は偽の銃に体を預け、目を閉じる。
「うわ…すげー、人。」
「大丈夫か?」
涼也は目を閉じてしまっていた為に自然と視覚以外の感覚が鋭くなり耳に主役二人の小声が聞こえた。
「大丈夫に決まっているだろう。」
明らかにやせ我慢のように聞こえ、涼也と樹は同時に溜息を零す。
「何処が大丈夫だ。」
「だってさ…。」
「大丈夫だ、お前がへまをしても誰かがカバーしてくれる。」
「……。」
「傍に居ればカバーしてやるからお前はいつも通りで演れ。」
樹の言葉に碧はパチパチと目を閉じたり開いたりする。
「明日は雨か?」
「どういう意味だ。」
「いや、お前が優しいつーか。」
「……。」
「碧、あんた、出番よ。」
二人の空気が分からなかったのか、一人の女子がこっそりと碧に出番を知らせる。
「あっ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
「樹、サンキュウな。」
碧は手を振って舞台へと足を踏み出した。
歌うように、踊るように舞台に姿を見せた碧の登場に観客が湧く。
「うわ、可愛い。」
「美女。」
「だれだれ。」
「えー、嘘、あれ鳴海だって。」
「うそ、マジで。」
観客の声がここまで聞こえ、待機していたクラスメート全員が苦笑する。
「あいつ、黙っていれば可愛い顔立ちしているからな。」
「小学校の時、それでやっかみがあったしな。」
「ああ、あったな。」
「えー、そうなの?」
「あー、そういえば、あんたは合流組だっけ?」
雑談が続きそうな雰囲気に樹が咳ばらいをし、その冷ややかな視線を全員に向けて黙らせる。
「わ、悪い。」
「ごめん。」
「……。」
罰が悪そうに謝るクラスメートを無視して樹はそのまま舞台を見る。
そして、彼の出番を知らせるボーイソプラノ歌声が彼らの耳に届く。
「あれ、何だったんだ。」
「さあ?」
涼也は遠い記憶の欠片を思い出し、ふっと笑う。
「ああ、そっか、あいつがちょっかい出すのは…そういう事だったのか。」
ようやく繋がり、涼也は無器用な樹に思わず笑ってしまった。
そして、出番が終わった樹と目が合い、涼也が笑えば、樹は怪訝な顔をしていた。
「素直じゃないな。」
「あ?」
涼也はその言葉を残し、自分の出番の準備の為に一歩踏み出した。
劇は白雪姫と王子との出会いが終わり、王妃が現れた瞬間だった。
がたいのいい王妃が現れた事で、観客は一瞬呆気に取られたようだが、すぐに笑いが広がる。
「さあ、鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだ~れ?」
「白雪姫です。」
「んあ?」
どすの利いた低い声に鏡役の男子が震えているのが舞台裏から見えた。
「し、白雪姫でございます。」
「あ~ら、年かしら?何て言ったのかしら?」
ああ?何言い間違いしてやがるんだ、というような迫力を見せる王妃に舞台裏の全員が鏡役の小柄な男子を哀れに思う。
「し、白雪姫で、ご、ございますっ!」
悲鳴のように叫ぶ鏡の精に王妃は口角を上げ。
「ああん、てめぇ、何言ってやがる、美しいのはこのわたくしに決まっているじゃない、訂正しなさい。」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
完全に怯え切っている彼を助け出そうと涼也は一歩踏み出そうとするが、意外に彼は責任感が強かったのか、セリフを言い切る。
「太陽の光を紡いだような美しい髪を持ち、白雪のように真っ白な穢れのない肌をしているあの白雪姫が世界で一番お美しいのです、そして、恋を知ったそのお心はさらに彼女の美しさを磨き上げております。」
「何だとこらぁぁぁぁっ!」
「……あっ、落ちた。」
王妃役の迫力に負けた男子生徒は気絶していた。
しかも、観客には分からないように倒れる事無く座って気絶しているのは確実に責任感の表れだっただろう。
「誰か、誰か居らぬか。」
「はい。」
涼也は出番通りに姿を現し、その時、鏡の精役の男子生徒にはねぎらいの視線を遣る。
「そなたか。」
「はい。」
「ちょうどいい、そなたの腕前ならば白雪など一発でやれるであろう。」
「――っ!」
驚く演技をする涼也に王妃役の男子は器用に眉を上げる。
「何かあったか?」
「いえ、何でもありません。」
「それならば、よかろう、さっさと行け。」
「はっ。」
涼也は立ち去ると幕を担当する裏方の生徒に近寄る。
「あいつ、気絶しているいったん回収するから、幕を閉じろ。」
「了解。」
こうして、小さなアクシデントがありつつも劇は進んでいく。
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