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第三章
《贈り物 2》
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「おやじ、出来たって本当か?」
「ああ、カル坊か。」
「いい加減、カルムって呼べよ。」
「はん、まだ尻の青いガキは坊呼ばわりされて当然なんだ。」
「……。」
カルムが来たのは鍛冶屋だった。
「ほれ、これが坊の頼んだ奴だ。」
筋骨隆々の親父さんが机の上に置いたのは綺麗な銀細工の髪飾りだった。
百合の花をモチーフにしてところどころ小粒の魔力石が埋め込まれていたが、清楚さは全く失われておらず、セイラにはよく似合うデザインだった。
「やっとか。」
「はん、これでも急いでやったんだぞ。」
「一年は待たされた。」
「坊の注文がうるさいのが悪い。」
「……。」
カルム自身も無茶な注文を入れたのは分かっていたが、頼れるのはこの筋骨隆々の親父しかいなかったのだ。
カルムがセイラに贈り物をすると決めたのは一年ほど前。
軍資金はすぐに溜まった。
しかし、市販のものだとセイラの綺麗な黒髪に何かが欠けているような気がした。
そこで、母に相談した時、魔力石の話が出た。
自分の魔力を石に込めれば、魔道具として使えるのではないかと提案してくれたのだ。
セイラは命を狙われている。
そして、男である自分がずっとセイラを守れる保証はなかったので、そのアイデアをもとに魔力石の準備とそれを作ってくれる人を探した。
しかし、魔力石の方は何とかなったが、問題は職人の方だった。
早くにセイラに贈るものを髪飾りにしようと決めたカルムだったが、その髪飾りを作ってくれる職人が誰もいなかったのだ。
そんな時、自分の剣に刃こぼれが生じてしまったので、愚痴としてこの筋骨隆々の親父に相談したところ、彼の奥さんが細工師をしており、その手の細工を得意としていた。
そして、セイラの事を知っていた彼女はカルムの難題を叶えてくれることになった。
しかし、彼女はただの細工師であったために魔力石を普通の石と同じように使うが、魔道具としては使えなかった。
カルムはそれでもいいと言っていたが、彼女はめげなかった。
彼女は自分の旦那が魔力石を埋め込んだ武器を作っているのを知っているので、試行錯誤を繰り返してようやく、この髪飾りを完成させたのだった。
「威力は弱いが、ちゃんと、嬢ちゃんを守ってやれるよ。」
「本当にありがとうございます。」
「いいって事よ。」
「……女将さんは?」
「根を詰め込んでしまったせいで風邪をひきやがってな。」
「なっ。」
自分の所為で無茶をさせてしまったとカルムが落ち込むが、親父さんは肩を竦めるばかりだった。
「気にすんな、あいつは自分の仕事を全うしたんだよ。」
「だけど。」
「そんなに申し訳なく思うのなら、さっさと、その髪飾りを嬢ちゃんに渡してあいつに報告しに来い。」
「……。」
「それが一番の薬になるからな。」
「……。」
親父さんはそう言うと、カルムの頭をポンと撫でる。
「おれらは子には恵まれんかったが、お前さんは実の子のように可愛いと思っているんだ。」
「……。」
「そんな可愛い子が好いた女にプレゼントをしたいといったんだ、頑張るのが親心じゃねぇか。」
「……。」
「坊は分かっているだろう、おれらが何を言ったら喜ぶか。」
「ありがとう。」
「ああ、正解だ。」
「本当にありがとう、もし、何かあったら、今度は俺が手伝うからな。」
「期待せずに待っとくさ。」
カルムは髪飾りを大切に握ると、親父さんに頭を下げる。
「本当にありがとう、またちゃんとお礼に来るから。」
「いいって、ことよ、ほら、さっさと、行けや。」
「ああ。」
そう言うと、カルムは放たれた弓矢のように一直線でセイラのいるであろう自宅に向かって走り出した。
カルムが初めて彼女に何かを贈りたいと思ってからかなりの日が経ってしまったが、それでも、それに見合うようなものがようやく手に入った。
カルムはいつもよりも軽い足取りでセイラの喜ぶ顔を思い浮かべ、息を切らすまで必死で走り続けた。
「ああ、カル坊か。」
「いい加減、カルムって呼べよ。」
「はん、まだ尻の青いガキは坊呼ばわりされて当然なんだ。」
「……。」
カルムが来たのは鍛冶屋だった。
「ほれ、これが坊の頼んだ奴だ。」
筋骨隆々の親父さんが机の上に置いたのは綺麗な銀細工の髪飾りだった。
百合の花をモチーフにしてところどころ小粒の魔力石が埋め込まれていたが、清楚さは全く失われておらず、セイラにはよく似合うデザインだった。
「やっとか。」
「はん、これでも急いでやったんだぞ。」
「一年は待たされた。」
「坊の注文がうるさいのが悪い。」
「……。」
カルム自身も無茶な注文を入れたのは分かっていたが、頼れるのはこの筋骨隆々の親父しかいなかったのだ。
カルムがセイラに贈り物をすると決めたのは一年ほど前。
軍資金はすぐに溜まった。
しかし、市販のものだとセイラの綺麗な黒髪に何かが欠けているような気がした。
そこで、母に相談した時、魔力石の話が出た。
自分の魔力を石に込めれば、魔道具として使えるのではないかと提案してくれたのだ。
セイラは命を狙われている。
そして、男である自分がずっとセイラを守れる保証はなかったので、そのアイデアをもとに魔力石の準備とそれを作ってくれる人を探した。
しかし、魔力石の方は何とかなったが、問題は職人の方だった。
早くにセイラに贈るものを髪飾りにしようと決めたカルムだったが、その髪飾りを作ってくれる職人が誰もいなかったのだ。
そんな時、自分の剣に刃こぼれが生じてしまったので、愚痴としてこの筋骨隆々の親父に相談したところ、彼の奥さんが細工師をしており、その手の細工を得意としていた。
そして、セイラの事を知っていた彼女はカルムの難題を叶えてくれることになった。
しかし、彼女はただの細工師であったために魔力石を普通の石と同じように使うが、魔道具としては使えなかった。
カルムはそれでもいいと言っていたが、彼女はめげなかった。
彼女は自分の旦那が魔力石を埋め込んだ武器を作っているのを知っているので、試行錯誤を繰り返してようやく、この髪飾りを完成させたのだった。
「威力は弱いが、ちゃんと、嬢ちゃんを守ってやれるよ。」
「本当にありがとうございます。」
「いいって事よ。」
「……女将さんは?」
「根を詰め込んでしまったせいで風邪をひきやがってな。」
「なっ。」
自分の所為で無茶をさせてしまったとカルムが落ち込むが、親父さんは肩を竦めるばかりだった。
「気にすんな、あいつは自分の仕事を全うしたんだよ。」
「だけど。」
「そんなに申し訳なく思うのなら、さっさと、その髪飾りを嬢ちゃんに渡してあいつに報告しに来い。」
「……。」
「それが一番の薬になるからな。」
「……。」
親父さんはそう言うと、カルムの頭をポンと撫でる。
「おれらは子には恵まれんかったが、お前さんは実の子のように可愛いと思っているんだ。」
「……。」
「そんな可愛い子が好いた女にプレゼントをしたいといったんだ、頑張るのが親心じゃねぇか。」
「……。」
「坊は分かっているだろう、おれらが何を言ったら喜ぶか。」
「ありがとう。」
「ああ、正解だ。」
「本当にありがとう、もし、何かあったら、今度は俺が手伝うからな。」
「期待せずに待っとくさ。」
カルムは髪飾りを大切に握ると、親父さんに頭を下げる。
「本当にありがとう、またちゃんとお礼に来るから。」
「いいって、ことよ、ほら、さっさと、行けや。」
「ああ。」
そう言うと、カルムは放たれた弓矢のように一直線でセイラのいるであろう自宅に向かって走り出した。
カルムが初めて彼女に何かを贈りたいと思ってからかなりの日が経ってしまったが、それでも、それに見合うようなものがようやく手に入った。
カルムはいつもよりも軽い足取りでセイラの喜ぶ顔を思い浮かべ、息を切らすまで必死で走り続けた。
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