【完結】ただただ、ボクらは日常に居るだけ

櫛田こころ

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第6話 日常にも変化ありなのに②

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 綺洞がいきなり、那湖を担ぐように連れてきたのは半年前。

 ぼけっと、煙草吹かしていたからか。扉を開ける爆音にむせたのはしょーがない。咳き込んでいると、入ってきた綺洞は小柄な人型の女を席に座らせていた。

 当時はリノベーションしてなかったんで、ソファもすげぇ煙草臭かったから那湖も少しむせていたけど。


「……どした?」
「陸音さん! 救世主!! ボクらの救世主が来てくれたんだよ!!」
「……落ち着け。いきなり、救世主ってなんだ?」


 間のびした話し方の古着屋店主が、興奮した勢いでやってくるのも珍しい。しかし、変な言い方をする理由くらいのわけは聞こうと……女の顔を覗き込んでも、疲れた様子でしかない。混ざってはいるが混じり過ぎて、個体名がない感じだ。それは別に珍しくないが、雑に入れてあるリクルート鞄の中身が気になってきた。おそらくだが、綺洞が騒ぐ原材料かもしれん。

 それよりもまずは、水分と栄養補給。

 雑な営業でも自分のまかない程度は作るから、食材は適当にスーパーで買い込んである。飲みもんは綺洞に任せて、俺は食うもんを適当にこさえることにした。こん時は、彼女とは別居恋愛してたから……女が好みそうな料理名は、大して覚えていなかった。とりあえず、卵サラダのサンドイッチもどきでも作ればいいかとかで、まあ……雑に作ってはみた。

 本気で、今は看板商品になった『卵サラダドック』の原型になったがな?


「うわ……雑ぅ」
「しょーがねぇだろ? 女が好きそうな食いもん作れると思ってんのか?」
「いちおー、喫茶店じゃん」
「店の向き不向き考えろ」


 俺らがそんな言い合いしてたら、なんか動く音がしたんで振り返ってみりゃぁ。本気で、美味そうに食ってる嬢ちゃんがいやがったんだよなあ?

 しかも、号泣しながら!?


「おいひー……久しぶりの、おいしーごはんぅ」
「お、おぅ。どうも……つか、久しぶり? 嬢ちゃん、料理は?」
「もぐもぐ……出来ないんですぅ。家から絶対するな!って言われているんで」
「「いやいやいや??」」


 そんな言われ方されるなんて、よっぽどのことだが?

 けど、ちょっとだけ考えれば合点がいく。純粋に血を受け継いだ存在なんて、いるわけがない。何かしらの個性的なわけがあって当然。

 それがこの嬢ちゃんにもあれば、料理失敗が普通じゃないのも頷ける。


「あー、美味しかったぁ。えっと、てんちょーさん? お金出すんで、お代わり作ってもらえませんか?」
「は? 金?」
「え? 今のメニューじゃないんですか?」
「……ただのまかない、だけどよ」
「メニュー化してください! 美味しかった! 毎日でも食べたいです!!」
「お、おぅ?」
「陸音さん。まずはこの子のために、メニュー開発からしてあげれば? この子、デザインがすっごくいいんだ! 絶対、アナタも気に入ると思うんだよぉ!!」
「ほ?」


 よくよく聞けば、イラストレーターを目指していたのに。プリントデザイナーの方が仕事は多いものの、自炊が壊滅過ぎて生命危機だったと。

 道端で、デザイン案をぶちまけたあとに……まあ、綺洞が見つけてデザインを気に入った。オリジナルの服を作るのに協力して欲しいと提案したら、嬢ちゃんは倒れてしまった。

 んで、俺の変な経営を改善するキッカケにしろと、まあ巻き込まれた。結果それは、マジで那湖が本気で『救世主』だったことになるわけで。

 三人でキレイにリノベーションした喫茶店は、今じゃ街名物の憩いの場になったわけだ。壁紙の一部に、那湖のデザインを使えばウケが良かった! そして俺は俺で……別居恋愛の彼女が戻ってきてくれたわけで万々歳。

 喫茶店をいい方向にむけてくれた恩人の行く末が、そこから眺めてても全然進展がないのは納得いかねぇんだよぉ!? 戻ってきた彼女に相談しても、見守れって言われるしよぉ……。
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