【完結】『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに

櫛田こころ

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第11話 施しではない愛とは

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「起きた? もう痛くない?」
「……は、ぃ」


 だるさはあるが、あの千切れると思った痛みはたしかになかった。すると、ジェイク様は外にいるらしいシスファ様とナーディア様を呼んでくださった。着替え、をするのに流石にこの状況ではジェイク様がするわけにはいかないだろうから。


「頼んだよ。ほかの連絡とかもしてくるから、急がないくていい」
「はいよ」
「姫、ゆっくりでいいです。残りのリンゴ水ですが」


 ゆっくり傾けていただいたリンゴ水が、体中に染み渡るようで気持ちがよかった。あの痛みは本当になかったんじゃないかと思いかけたが、お腹の奥の奥が何か重い感覚がした。


「あの……痛みはないんですが、奥が重くて」
「え? 呪詛は……まだ小さくもなっていないですが、今は微動だにしていないのに?」
「え? レティ? ちょっとあたしたちに診せてもらえるかい? 簡単な治療くらいなら、あたしとシスファで出来るからさ」
「あ、はい」


 ワンピースくらいの着替えの準備は整えてもらっているので、汗を拭くのと同じようにと服を全部脱いだのだが……股の間から、なにかにゅるっとしたものが逃げた気がした?

 呪詛の痣にしてはちゃんとした感覚だったので、おふたりにも見てもらうと……下着が、真っ赤に染まっていた。


「あ、これ……」
「……色からして、呪詛は……少し、関係ありますが。おそらく」
「……なんですか、これ?」
「レティ? 情操教育は学び直してるんだっけ? 女の体についてとか」
「いいえ、そこはまだ」
「ああ、それなら。……これは、月経と言います。女の体は、定期的に子を産むための循環が必要なのですが。血の膿が溜まるのを排出する時期があるので……謂わば、『子ども卒業』ということですね。この年までなかったのも、呪詛が止めていたからでしょう」
「あーね。月のものね。女が一番面倒……匂い充満するから、団長にはもうあたしの馬で帰ってもらう?」
「そうしましょう。このエチケットはしっかり守らなくては」
「なんか呼んだ~?」
「「来ないで(ください)!!」」
「え、なに!?」


 うまく理解できていないが、『子ども卒業』ということは……成人の年齢でなくとも、『大人の女性』に近づけたということなのか。少し、だけ嬉しくなったのはわからないが……気分が少し上がっているような? それと、まだ血のようなものが流れているので、正直言って気持ちが悪かった。


「あの。まだ流れているの……ですが」
「あ、ごっめん!! うっわ、初潮ってこんなだっけ?? なんか汚していいタオルない?!」
「最悪は適当な白い布でも!! 私も自分のはあまり覚えてないので……これは」
「……動かない、ほうがいいでしょうか?」
「申し訳ないですが、姫! そのままでいてください。馬車の中で汚すのは……さすがに」
「上! 上あっためないと!! お腹普通に冷えちゃうよね!?」
「そ、そうですね!! ナーディア、荷物の中に毛布はあったはず! この際使い捨てにしましょう!!」
「がってん!」


 シスファ様が冷静になれないくらい、この血の下り物とやらは大変なものらしいが『女』であれば普通のものだと教えてもらった。私は下手に着替えをせずに、観光も一旦取りやめでお城に戻ることになったが。部屋に着くなり、事情を伝えていた侍女たちが『お待ちしてました』と出迎えてくれた。


「姫様、お風呂に行かれる前にここでしっかり汗を拭きましょう」
「血の感覚はまだありますか?」
「……あ、うん。血は……ない?」


 侍女のふたりには敬語はなしの練習をしているが、ときどき出てしまうのでなんとか直した。正直に質問に答えると二人はお湯で湿らせたタオルで体を綺麗にしてくれた。呪詛の痣のことは聞いているが、今は気にしていないのかテキパキと動いてくれている。


「さっぱりされましたか? 今度はお風呂に向かいましょう」
「ぬるめのお湯ですが、今回は汚しても問題ないと妃殿下からも許可はいただいたので」
「そ、そうなんだ……」
「月のものをご存じなかったと伺いましたが……この年齢まで、一度も?」
「私たちでも十歳前後であったんですが」
「……全然、なかった」
「「では、綺麗にしましょう」」


 そのとの、綿入りの下着のことも教えてくれたので……ふたりには感謝しかない。むしろ、女同士なのでデリケートなことはきちんと教えてくれてありがたかった。

 ただ、少し残念だったのは。本来の目的である『浄化』が任務途中であることと、観光が出来なかったことだ。私の不調でこんな事態になってしまったのが、騎士団の皆様……特に、ジェイク様に申し訳なかった。だって、お仕事の一環ではあっても、楽しみにしていたはずなのに。

 ご飯は今回、食堂には行かずに部屋で食べることになったんだけど。持ってきたのは、侍女ではなくてジェイク様だったのに、驚いた。普通にお盆を持って運んできたのだから。


「……事情は軽く聞いたよ」
「あ、はい……」


 デリケートなことだが、男性が知らないわけではないらしい。少し恥ずかしいが、任務を中断した理由としては団長のジェイク様には知ってもらわなくちゃなので、そこは恥ずかしくても頷いた。


「いや、なんか甘い香りがしたから……が、『アレ』だとは思わなくてね。俺が居続けたら、レティを襲いかねなかったよ」
「え、襲う?」
「……君は俺を信用してくれているようだけど。俺は『男』だよ? ただの優しいお兄さんじゃないって」
「……え?」


 髪を梳くとか、抱きしめてくださることは今まであったけれど。かがんで、前髪に口づける……だなんて、今まで全然なかったから変な声を出してしまった。そのあと、一瞬だけ真剣な顔をされたが。すぐに、いつものようにへらっと目じりを緩めた笑顔になったので幻を見たかと思ってしまう。


「お腹空いたでしょ? 話し相手が欲しいならいるけど」
「……あ。お願い、します」
「食堂に行くの慣れちゃったから、恋しい?」
「……少し」


 それはジェイク様がいるから、とかは今は言い難かった。
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