【完結】『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに

櫛田こころ

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第26話 怖い綺麗

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 外が騒がしいのに、シスファ様とナーディア様が向かわれたあと。ジェイク様といっしょにいるだけになったが……なにか『怖い』気持ちになってきていた。

 騒ぎ声から多分、さっきは捕まえた『魔族』が暴れ出したのかもしれない。ぐるぐる巻きにしたのに、もしかして……と思うところは、私の魔力をたっぷり飲んだせいかなって。


「……ジェイク様。あの魔族、ですが」
「レティの魔力を飲んでいたからね。……死なせてもいいが、重要証拠人としては持ち帰らなくてはいけないから縛ってたが。ダメか」
「……シスファ様たちは大丈夫でしょうか?」
「……わからない。としか」


 食べた魔力の素が私だと行っても意味がない。けど、止めなきゃと意気込んでいたら……『彼』がまた起き上がる感触が身体に走っていく。

 私が『俺』に。

『俺』であれば、エルディーヌは休んでな?

 二対の感覚には慣れないけれど、ジェイク様にも入れ替わったことがわかったのか驚いた表情になっていた。


「やっぱ、あんたにはわかるか?」
「……レティが同意したのかい?」
「後悔したくない結果を残したい。エルディーヌにはその思いが強いんだ」
「……そうか」


 だから、シスファ様たちがあの魔族との戦いで大変だというところには間に合った。

 けれど、『俺』と同時に背後の気配を感じ取れたので即座に魔力で腕を強化してから衝撃を受け止めた。

 綺麗だけど、醜い表情。

 おしゃれな衣装だけど、一部やぶけている。

 そんな、私くらいの少年が宙を浮いてこちらに攻撃してきてたのだ。


「げ! もう覚醒しかけてんの?? さいっあく!!」
「『俺』の勝手だ。エルディーヌには直接触らせない」
「贄姫を擁護? そんな魔王、聞いたことない!!」
「あ! 『俺』からちゃんということだったのに!!」
「知るか!!」


 打ち合いを始めながら会話しているけど……『俺』が『魔王』? 悪魔の卵たちの王様?

 だけど、傷つける人どころか優しい。魔族の王様にしても変な気がする。そんな人が『私』を母親に望む?? なんでそんなことになっているんだろうか??


(あとで教える。少し魔力借りるから、意識保ってろ)


 魔王から注意されたので、出来るだけ考えないようにしていたら……彼が私の腕に魔力を集め、宙にいくつか黒い焔を出す。そこを全部線のようなので繋げば、少年の表情がさらに醜くなっているのが見えた。


「黒星!? そんな段階まで解放されてるのに!! なんで、貴方様は復活を望まないんだ!!?」
「望む? 俺は次の生を望みはしたが……あんなとこ、疲れたんだよ。居るだけの生き方だなんて」


 居るだけの生き方。

 そこにあれば、いいいだけ。

『箱庭』で私がしてきたことと同じだ。だから、魔王は私の中に宿っていても……私を乗っ取りはしない? 逆に、心地いいと感じたから『母親』に望んだ??

 父親は私が選ぶ方がいいと、特に指定しないのはそのため??


(……うれ、しい)


 何故だろう。魔王とは意見が合うのかもしれない。

 卑しいとか、愚かとかそんな感情はもう慣れっこだから。必要とされる人たちとの温かな生活の方がいいと思うのも、そっちには愚かだと見られようが。


(いいもんだろ。自分で自分を決めるの)
(ええ。まだ少しだけど……いいよ、お母さんになってあげれるだけでいいなら)
(言質取った! 相手近いんだから、ちゃんと言えよ?)
(え?)


 意識同士の会話が終わると同時に、黒い光が少年に向かって飛んで行った。逃げようにも、なんかもたついていたのだけど……これで終わりかと思ったら、焔の中から気味の悪い姿が飛び出してきたわ。


「あ~ぁ。完全に焼く前に本性出しちゃってー」


 魔王がそういうと、少年だった魔族はにやっと口を緩めて笑うように見せてきた。気持ち悪いけど、魔族っていうから怖いものなのは仕方ないのかな?



『……あぶなかったけど。なんとか種と卵は』


 声も変にしゃがれている? あの綺麗そうに見えた少年はつくりものだったのだろうか。魔王は私の身体を使って、べーっと舌を出していたが。


「なに? 自分の種はなんとか守れるくらい強い?? 自慢はいいけど……追いかけてんぜ?」
『な゛!?』


 まだ消えていなかった焔は魔族を追い、足元から順に絡みついて……地面に引きずり込んでいく。その焼かれていく様子が『私』にも見えるのかで前がマントのような布で見えなくなった。


「慣れさせた方がいいのに」
「レティの教育的によろしくないじゃないか」
「甘いなあ?」
「甘々で結構」


 ジェイク様だった。せっかくのマントが汚れても焼けててもいいのかと心配になったが、まだ魔王は『私』に戻してくれない。もしかして、あの魔族は死んでもいいのかと思っているのだろうか。自分で獣を捌いたりして命を奪ったこともあるのに、この人は本当お優しい。


(甘くて、あったかい)


 無理だとわかっていて、ここ最近は特に目を逸らしていたかもしれない。

 けれど、実際は。『箱庭』から連れ出してくださったあの出会い以降……始まっていたのだろう。

 おちゃらけながらも、私を慈しんでくれるのは本物か偽物か……確かめるのは少し怖いが。とっさに動いてくれる今の気遣いも、私にはうれしいことと同じ。

 だから、いいんだ。素直になっても。

 まだ立ち向かうことは多くても、魔王の母親になるとしても。私は私の望む相手を選びたい。


(ジェイク様の、隣が一番いい……)


 庇護されたことで、芽生えたそれかもしなくても。綻んだ恋の蕾みたいな花はちゃんと開こうとしていた。そのあたりで、魔王は小さく笑って、『私』と変わってくれた。


「……まだ、終わってませんか?」
「レティ。……『彼』とは」
「魔王ですよね? ちゃんと話し合っていますので、お気遣いなく」
「……そ。けど、俺としては見せたくないからこのまま我慢してて」
「はい」


 悪魔の卵を焼くより酷いのは仕方ないかもしない。魔族は人のような形をしていて、影を残して焼き尽くされてしまったのは……馬車に戻ってから、シスファ様にお話ししてもらえた。

 そして、最初に暴走した魔族はなんとか生きているが猿轡をかませて、先に帝国へさっさと運んだのだそうだ。魔族同士のなにかがあってはいけないとの処置らしい。


「『箱庭』は今工作部隊が魔力脈のひとつ、ワイバス山脈の際で発見したところだそうです。先ほどの魔族はそこから移動してきたようですが、まだ油断は出来ません」
「……『箱庭』壊せないんでしょうか?」
「「「え」」」


 馬車の移動が始まってから、私が口にした言葉は物凄く意外性のあるものだったらしく……しまいには、ジェイク様とナーディア様に爆笑されてしまった。
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