【完結】『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに

櫛田こころ

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第28話 魔は終わらない

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 西と南……それぞれの悪魔の卵を壊された魔族らは滅ぼされたり、捕まったりしてしまった。別段、あれくらいの中間程度の力量しかない者らに、『魔王様』の苗床なる贄姫を数度も逃がしたのなら……それまでのこと。

 しかししかし、問題は厄介だ。


「魔王様が……お戻りにならないのか」
「そうらしいよねぇ? 北の」
「玉座はご用意できているのに……か」
「君臨する場所はご用意しているのに、もったいない」


 北の私と東の上層の者らとの語らいにはなったが、数百年前に人間らの手により魔王様は討伐……が物語とかに記されているが。それはその当時の『肉体』が滅ぼされたまで。多くの人間や魔族の女どもにご自身の『胤』を植え付け……あの贄姫のような苗床にしてきて、滅んだラジールのような礎をいくつもつくってきたのだが。

『胤』と豊富な毒の魔素を掛け合わせ、贄に仕立てた女から循環することで流れ出る魔力を吸わせてきた。それが、却って仇になるとは。やはり、苗床が人間だったのがいけなかったかもしれない。

 式手紙の報告で知った内容だが、贄姫の表層意識に出たときに……母をあの娘がいいと欲したとおっしゃったそうだ。つまりは、『人間』でいることを選ばれたのだ。


「何故……だ? 魔力脈の瘤とは相性が良い娘を、そこまで気に入ったのか?」
「居心地の良い女、なのかね? あ、まだお嬢ちゃんくらい?」
「年齢などどうでもいい。しかし、意識も癒着しているとなると……ほかの『胤』はもうそこにないはずだ」
「瘤の中身も、最近のはすっからかんだしねぇ? 時期的に、魔王様が死滅させた可能性高いし」
「くっ……!!」


 悪魔の卵は、あの方が食事でも菓子程度に口に入れる『種』だったのだが。最近、中身を確認しても卵の姿がないものまで出てきてしまっている。おそらく、魔王様が贄姫から魔力を供給するのが心地いいので『いらない』とでもしたのだろうか。復活したてのときに、口にする魔力よりも極上?

 だったら、その贄姫ごとこちらが奪えばいい。

 『箱庭』は南が奪還失敗したというが、壊されても替えは利くので大丈夫だ。飾りの箱、ただの『箱庭』。今の贄姫の魔力がきちんと魔王様の食事になりさえすれば……あとは我らの毒の魔素で十分に癒せば良い。


(善など要らん。魔こそがすべて! 俺はあの方にそうお教えいただいたのだ!!)


 幸せなどがあってどうする。

 光が闇を覆しても意味がない。

 日の光でも影が差すのだ。その影が大きければ大きいほど……我らの魔王様が君臨する時期が近いと思え。


「……変な企みしてんの? ま、そこが面白いんだけど」
「面白い? 崇高な策とでも思え」
「はいはい。とりあえず、贄姫ちゃんはこっちが奪還すればいいんでしょ? 南のあいつの魔力が消えたのは……ルリルアね? 意外と近いわね? あたしが出向こうかしら?」


 東の上は唯一の女幹部だが、機転の良さでこの地位にまで昇りつめた実力者だ。魔族としても二百年くらいは生存しているし、配偶者にもと望む男らはいるが……誰の横にも立とうとしない。おそらく、だが魔王様の妃か側室を狙っている可能性は高い。見目はいいので、そこについて俺はどちらでもいいのだが。

 鋭い視線を見れば、その考えは当たっていたかもしれない。どう見ても、嫉妬に少し濡れた女の目をしていたからな。


「わざわざ上級のお前がか」
「あら、あんたこそ行きたくてたまらない感じじゃない? せっかくだし、帝国がうちのひとつ潰したんでしょ? ……軽くお仕置きはどーぉ?」
「仕置きか? 砂を被るくらいでも、あいつらは死ぬかもしれないのに」
「確かめるいい機会じゃない? 炎帝とか破邪とかなんて、最近の子たちのおもちゃでしょう? そんなの、百年程度の魔族じゃ相手にならないのはとーぜんだもの」
「軽く炙る程度の魔力は……俺らの敵でもない」


 おもちゃ、と侮っていかんのはあるが。破邪もだが炎帝は『魔』ではなく『聖』に属する劫火とも言われている。上層の俺たちでも、最低やけどくらいは覚悟せねばならんのをこいつはわかってて言っているのか。もしくは、嘗めた知識でいるだけなのか。

 とは言え、俺も聞きかじった知識しか知らん。南と西の連中ことごとく壊されているのもそいつらのせい……くらいの報告しかない。人間程度がそれを可能にしているのは、魔力脈で適性のある人間を選別していると聞く、が。


(……まさか。逆に魔力脈が対抗してきている?)


 魔王様を陥落させた贄姫を据え置き、『胤』らを捨てさせるまで至った……極上の魔力。

 譲渡するところに、『箱庭』と『瘤』を置き。そこに我らの配下ともなるはずの『悪魔の卵』を態と育て上げたとなれば。


(最悪だ!!)


 俺は東のがゆっくり歩いていた横を突っ切り、空へと駆けあがった。当然、東のもすぐ横に飛んできたが。


「ちょっと、どうしたのよ?」
「最悪なことを我々はあの方へ施していたかもしれんのだ」
「は?」
「魔力脈の瘤が消失し始めたということは……我々の毒を浄化すべく、魔力脈自身も動いているかもしれん。であれば、感化されてしまった魔王様が堕落してしまうのも無理ない」
「え? なに? あたしら、仕組まれて最後には死ぬとか生まれ直すとかさせられんの!?」
「……その可能性も、出てきたな」
「やだやだやだやだ!! せーっかく、この美貌で生まれたし? 魔王様の側室にもなりたかったんだから!! ぜぇったい、贄姫ちゃん奪って逆に操作しちゃる!!」
「……まだ、それがマシか」


 結局は側室狙いがわかっても、それが叶うかどうかも現状はわからん。真の敵は本当に魔力脈でいいのかわからんが、山脈や水脈以上に大陸を占めているそれに……俺たち程度の魔族で対抗できるか、正直言って怪しい。

 あの『箱庭』を移動か破壊かを選択しても……贄姫を先に奪還した方が得策だと信じ、俺と東のはひたすらルリルアの方面に向かった。
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