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第15話 物貰いにはスフレチーズケーキ①
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いつもお土産にもらうケーキは家族の人数が多いから切り分けるのが普通だった。
それが、いきなり入ってしまったお店では『小さなホール』くらいのサイズを……独り占めできるんじゃという喜びが前に出てしまう。
注文していないし、料金はもうもらっているというパティシエの店長の言葉は不思議だったが、隆司は片目の痛みなんてどこかへ吹っ飛んだかのように意気込み、用意されていたデザートフォークを手に取った。
*・*・*
起きたら片目が見えにくいと思った。右目が利き目だったから、それなりにショックを受けるもの。
これが最初じゃないので、隆司は『またか』と思いながら布団から出て母親に言うことにした。
「……母さん。また、物貰い」
「また~? 今年、三回目じゃない? こすったりした?」
「ううん。なにも」
「今日は三つ子たちのお迎え……やめておいた方がいいわね。学校には行けそう? 帰りには眼科連れてくから、拾ってあげるわ」
「ん」
新島家の家族は多い。祖父母も健在し、両親と自分、あとまだ二歳の三つ子たち。保育園にはもう預けたのは父親の方かもしれない。行きは両親のどっちかが連れて行き、帰りは中学に上がった隆司もときどき迎えにいくこともある。あらかじめ頼まれているときは、専用の三つ子ベビーカーで連れて帰るのだ。これが意外と重くて、すいすい扱える両親のようには出来ない。
そんな、ちょっと変わった家族構成の隆司だが中学になってから……何回か目に物貰いができるようになってしまった。最初は擦ったかもしれないくらいに思って、医者に行って処方された塗り薬で落ち着いた気がした。
しかし、先月にもう一度。
そして、今日だ。これで三度目なので変な病気じゃないかさすがに怖くなってきた。母親も口調からして大丈夫そうに見えても、車で送ってくれるくらい心配はしてくれているのかもしれない。
とりあえず、前に使った残りのガーゼと眼帯を装着はしてみたが。前とは逆の目なので歩きにくいったらない。転げないように、ゆっくりゆっくりになるのはどうしようもなかった。
(あーあ。新作ゲームのソフトが届くのに、片目だとコマンド見えにくいしな~)
クラスメイトともいつ遊ぶかの約束もしていたのに、物貰いだと一週間は様子見しなくてはいけないので……仕方がないが、無理をしてまで遊んでも楽しくはない。ただ、三つ子の相手は出来ないので家族には少し申し訳なく思う。やんちゃ盛りな弟と妹たちだが、歳が離れている分世話は苦じゃなかった。
しかし、物貰いだと遠慮なく触ろうとするので、これは避難しないと今後の世話が出来なくなるので両親たちも認知してくれているのだ。せめてものことは、宿題を早めに済ましておくくらいだろう。
学校生活でも『どんまい』と言われるのにも慣れてきたので、激痛が走るとかの痛みはなかったが変な違和感が続く以外特に何もなく。下校途中で母親との合流場所はどこかと連絡しようとしたら……耳に届いてきたのは、軽やかな鈴みたいな音だった。
チリン……リン。
角を曲がる手前だったので、危ないと一時停止するも。見えてきたのは車ではなく、『店』だった。一軒家くらいの大きさにガラス窓の向こうにはテーブル席とガラスのショーケース。片目だと見にくいがケーキかなにかが入っているように見えた。
(菓子か……俺の小遣いじゃ、こういうの高くて一個買っても小さいんだよな?)
たまにだが、祖父母らと外の喫茶店に連れて行ってもらうので中学生でも価格の違いは少しわかる。友人らと小遣いで分け合うのも、駄菓子とかコンビニのチョコ菓子だ。あのチープな味わいも嫌いじゃないが、『本物』を知っている隆司にとって洋菓子店などのお菓子とは別物だった。
「おや、いらっしゃい」
片目が使えないので気づかなかったが、父親より年下くらいの男性パティシエが扉を開けていた。紫のネクタイに星の形の留め具が少しかっこよく見えた。ゲームのNPCとかにあるような、サブキャラにいてもおかしくないタイプ。
そんな人が現実にいるんだなと思いながらも、声をかけられたので挨拶はしておく。
「こんにちは。突っ立っててすみません」
「いや、それはいいんだよ。こちらは待っていたから」
「……待って、た? 俺、親が迎えに来るんですけど」
「その前に、ちょっとだけお時間いいかな?」
「うん?」
変な勧誘のように見えるも、内緒ごとをしようじゃないかみたいな声のかけ方に……つい、店の中に入ってしまった。中は外から見えていたのとほとんど同じ以外は、会計のカウンターの方に背の低い店員がいたこと。多分、同級生の女子くらいに背の低い女性だった。
「いらっしゃいませ」
「……どうも」
けど、大人の女性の声だったので、ちゃんと返事はした。意識を逸らすのに、ショーケースを見たが……本当に、どれも値段が普通のケーキ屋よりもすごいんじゃと思うくらいの細工菓子がたくさん並んでいた。
待っていた、というのは常套句なのかと思いかけたが、パティシエの方は席においでと手招きしてきた。
「すぐ用意するから、こっちにおいで?」
「あの。お金、ないんですけど?」
「お金じゃないんだ。ここの支払い方法はね? ……もう、もらっているから」
「はい?」
さっきより話がかみ合わないでいると、靴音が聞こえたので振り返れば……さっきの店員が、ケーキセットらしきものをトレーに乗せて運んでいたのだ。
「お待たせいたしました。目取りのスフレチーズケーキです」
「……え?」
ケーキなのはわかったが、ゲームとかのアイテム名にしてもネーミングセンスがいかがなものか。一瞬、ぽけっとしていたら、店員がかちゃかちゃ音を立てながらも隆司の前へ当たり前のようにそのセットを置いていく。飲み物はホットの紅茶だった。しかも、ティーポット付きで。
そして、メインのケーキは小さいがホールサイズのスフレチーズケーキにテンションが高くなりそう。びっくりしたが、パティシエからはどうぞとまた言われるだけ。
「『痛み』を代金で今も発生しているからね? それに見合ったサイズだから、君へのケーキだよ?」
「……じゃあ」
弟たちが離乳食を離れ、少しずつ普通のも食べるようになったから……譲るばかりのケーキだったそれが独り占めだなんて夢のようだ。
店長らしい彼が言うのなら、遠慮はいらないと添えてあったデザートフォークを手にするのだった。
それが、いきなり入ってしまったお店では『小さなホール』くらいのサイズを……独り占めできるんじゃという喜びが前に出てしまう。
注文していないし、料金はもうもらっているというパティシエの店長の言葉は不思議だったが、隆司は片目の痛みなんてどこかへ吹っ飛んだかのように意気込み、用意されていたデザートフォークを手に取った。
*・*・*
起きたら片目が見えにくいと思った。右目が利き目だったから、それなりにショックを受けるもの。
これが最初じゃないので、隆司は『またか』と思いながら布団から出て母親に言うことにした。
「……母さん。また、物貰い」
「また~? 今年、三回目じゃない? こすったりした?」
「ううん。なにも」
「今日は三つ子たちのお迎え……やめておいた方がいいわね。学校には行けそう? 帰りには眼科連れてくから、拾ってあげるわ」
「ん」
新島家の家族は多い。祖父母も健在し、両親と自分、あとまだ二歳の三つ子たち。保育園にはもう預けたのは父親の方かもしれない。行きは両親のどっちかが連れて行き、帰りは中学に上がった隆司もときどき迎えにいくこともある。あらかじめ頼まれているときは、専用の三つ子ベビーカーで連れて帰るのだ。これが意外と重くて、すいすい扱える両親のようには出来ない。
そんな、ちょっと変わった家族構成の隆司だが中学になってから……何回か目に物貰いができるようになってしまった。最初は擦ったかもしれないくらいに思って、医者に行って処方された塗り薬で落ち着いた気がした。
しかし、先月にもう一度。
そして、今日だ。これで三度目なので変な病気じゃないかさすがに怖くなってきた。母親も口調からして大丈夫そうに見えても、車で送ってくれるくらい心配はしてくれているのかもしれない。
とりあえず、前に使った残りのガーゼと眼帯を装着はしてみたが。前とは逆の目なので歩きにくいったらない。転げないように、ゆっくりゆっくりになるのはどうしようもなかった。
(あーあ。新作ゲームのソフトが届くのに、片目だとコマンド見えにくいしな~)
クラスメイトともいつ遊ぶかの約束もしていたのに、物貰いだと一週間は様子見しなくてはいけないので……仕方がないが、無理をしてまで遊んでも楽しくはない。ただ、三つ子の相手は出来ないので家族には少し申し訳なく思う。やんちゃ盛りな弟と妹たちだが、歳が離れている分世話は苦じゃなかった。
しかし、物貰いだと遠慮なく触ろうとするので、これは避難しないと今後の世話が出来なくなるので両親たちも認知してくれているのだ。せめてものことは、宿題を早めに済ましておくくらいだろう。
学校生活でも『どんまい』と言われるのにも慣れてきたので、激痛が走るとかの痛みはなかったが変な違和感が続く以外特に何もなく。下校途中で母親との合流場所はどこかと連絡しようとしたら……耳に届いてきたのは、軽やかな鈴みたいな音だった。
チリン……リン。
角を曲がる手前だったので、危ないと一時停止するも。見えてきたのは車ではなく、『店』だった。一軒家くらいの大きさにガラス窓の向こうにはテーブル席とガラスのショーケース。片目だと見にくいがケーキかなにかが入っているように見えた。
(菓子か……俺の小遣いじゃ、こういうの高くて一個買っても小さいんだよな?)
たまにだが、祖父母らと外の喫茶店に連れて行ってもらうので中学生でも価格の違いは少しわかる。友人らと小遣いで分け合うのも、駄菓子とかコンビニのチョコ菓子だ。あのチープな味わいも嫌いじゃないが、『本物』を知っている隆司にとって洋菓子店などのお菓子とは別物だった。
「おや、いらっしゃい」
片目が使えないので気づかなかったが、父親より年下くらいの男性パティシエが扉を開けていた。紫のネクタイに星の形の留め具が少しかっこよく見えた。ゲームのNPCとかにあるような、サブキャラにいてもおかしくないタイプ。
そんな人が現実にいるんだなと思いながらも、声をかけられたので挨拶はしておく。
「こんにちは。突っ立っててすみません」
「いや、それはいいんだよ。こちらは待っていたから」
「……待って、た? 俺、親が迎えに来るんですけど」
「その前に、ちょっとだけお時間いいかな?」
「うん?」
変な勧誘のように見えるも、内緒ごとをしようじゃないかみたいな声のかけ方に……つい、店の中に入ってしまった。中は外から見えていたのとほとんど同じ以外は、会計のカウンターの方に背の低い店員がいたこと。多分、同級生の女子くらいに背の低い女性だった。
「いらっしゃいませ」
「……どうも」
けど、大人の女性の声だったので、ちゃんと返事はした。意識を逸らすのに、ショーケースを見たが……本当に、どれも値段が普通のケーキ屋よりもすごいんじゃと思うくらいの細工菓子がたくさん並んでいた。
待っていた、というのは常套句なのかと思いかけたが、パティシエの方は席においでと手招きしてきた。
「すぐ用意するから、こっちにおいで?」
「あの。お金、ないんですけど?」
「お金じゃないんだ。ここの支払い方法はね? ……もう、もらっているから」
「はい?」
さっきより話がかみ合わないでいると、靴音が聞こえたので振り返れば……さっきの店員が、ケーキセットらしきものをトレーに乗せて運んでいたのだ。
「お待たせいたしました。目取りのスフレチーズケーキです」
「……え?」
ケーキなのはわかったが、ゲームとかのアイテム名にしてもネーミングセンスがいかがなものか。一瞬、ぽけっとしていたら、店員がかちゃかちゃ音を立てながらも隆司の前へ当たり前のようにそのセットを置いていく。飲み物はホットの紅茶だった。しかも、ティーポット付きで。
そして、メインのケーキは小さいがホールサイズのスフレチーズケーキにテンションが高くなりそう。びっくりしたが、パティシエからはどうぞとまた言われるだけ。
「『痛み』を代金で今も発生しているからね? それに見合ったサイズだから、君へのケーキだよ?」
「……じゃあ」
弟たちが離乳食を離れ、少しずつ普通のも食べるようになったから……譲るばかりのケーキだったそれが独り占めだなんて夢のようだ。
店長らしい彼が言うのなら、遠慮はいらないと添えてあったデザートフォークを手にするのだった。
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