【完結】真心スイーツとは、あなたの『痛み』が代金です

櫛田こころ

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第22話 過度なダイエットにはどらやき②

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 まず感じたのは、皮の生地が薄いことがわかった。

 どらやきはあんこもだが、皮も大事。アソートの駄菓子とかに使うあれは仕方ないものの。専門店や和菓子店で食べるそれはどれも美味しいものだった記憶がある。

 しかし、このどらやきの生地はこれまで柚希が食べてきたそれらとは一線を画していると思った。

 薄いが、噛むと甘味と香ばしさを感じる。

 ふた口目に、あんこと食べれば。生地の内側からとろっとしたものが流れてきた快感が。甘くてとろっとしているのに、しつこくない。この甘味の正体は何だろうか。黒糖といっていたから、黒糖のシロップかもしれない。

 半分くらい食べたところで飲み物を思い出すと、細い湯のみの中のほうじ茶はまだ温かく、喉を潤してくれた。


「……美味しい」


 素直に、そう言えた。ここ数か月のルーティンワークになる食生活のせいで、余計に新鮮な気分になれたのだろう。チープな味わいのものに飢えていたわけではないが、昨今の価格高騰を理由にして高価な総菜や外食も避けていた。

 たくさん食べてしまう理由でも、ファミレスも同じだ。コンビニは最近意外と高いのでサラダも気軽に買っていない。そのため、自炊で少しでもとやりくりしていたが……弁当も含めて同じ内容ではどうしても飽きが出てしまう。

 だからこそ、このどらやきを食べて至福の時間に浸れるのは当然のことだった。


「よかった。いい顔になってきたね?」


 パティシエはにこにこしているだけで、こちらへの質問はあまりしないようだ。単純に、客の食べる姿を見て満足したいのかもしれない。これくらいのイケメンに眺めてもらえるのは悪くない気がしたので、柚希はのこりをちぎりながら食べることにした。


「……つい。体型とか体重を意識し過ぎて」
「無理は禁物。たまには……も考えているだろうけど。元気なさそうだったよ?」
「仕事の追い込みもあったかもしれませんが。……そうですね。美味しいものに飢えていた自覚はあります」
「僕も毎日こういう仕事しているから気を付けてはいるけど。体と心は密接になっているから……なにか、ひとつご褒美になるお惣菜もいいかもね? たとえば、かぼちゃの和風サラダとか」
「和風?」
「マヨネーズをほんの少し。醤油とおかかで味付けしたかぼちゃのポテトサラダ風かな? 結構おいしいよ?」
「……それ、食べてみたいです」
「うんうん。そんな風に、自分へのご褒美もだけど。労わってあげてね?」


 代金いただきました。という言葉のあとに、風鈴に似た鈴の音が耳に届き。柚希は気が付いたら、スーパーの冷凍食品コーナーの前に立っていた。退勤した時間にしていたときに、白昼夢でも見たのか。あのどらやきの味は覚えていたが、今頭に残るキーワードは『かぼちゃ』。

 生のかぼちゃは高いから、冷凍のカットかぼちゃを使えば……とあのパティシエにでも作り方を言われたかのように覚えていた。覚えるどころか、調べたかのように作り方が浮かんでくる。

 足りない材料を買い、まずは耐熱の袋に冷凍のカットカボチャを入れてレンチン。

 熱いうちに揉むようにして潰してから、調味料を袋の中に入れてさらに揉む。これだけだ。ほかの作り置きの総菜などを皿に盛り付け、早いけどお腹がもう空いて仕方がなかったから……食べることにした。

 いつものはいつもの味。

 だけど、一品増えた、芋栗に似たこのサラダの味は。味の予想はなんとなく出来たが、想像以上の甘じょっぱくて濃い味付けに驚いた。素直に美味しいと口から出たくらいに。


「……炭水化物、少しほしくなったら。これかしら?」


 これも野菜の果糖に近い感覚はあっても。たまに食べたい『甘いもの』には程遠いが……満足のできる味には近かった。作り方は簡単だし、常備菜に近い感覚で作り置きにも出来る。

 あのパティシエはやはり、夢幻の存在ではないのかもしれない。柚希の心に刺さっていた『ダイエットの痛み』をどらやきでも簡単に抜いてしまっただから。この調子で、次のご褒美には何をしようと考えるも……食べる量はほどほどにしようと、また意識を変えるように努めるしかなかった。




 *・*・*





「太りにくい体質には、なかなか成れないものね?」
「それ、君が言っちゃう?」
「私は、いーの」


 柚希を見送り、代金分の『痛み』をきちんと土地へ送るのに。星型の留め具から、カウンターの『飾り』でしかないレジキャスターの上に置く。チャリン、と下の引き出しが開いたかと思えば、中は空洞よりも深い穴。その中へ、留め具に溜め込んでいた『痛み』が光の玉となって落ちていく。

 終われば、引き出しは自動的に締まるので真宙たちが落ちる心配はないのだ。


「ダイエットね? 加齢で心配するのは当然だけど、食べ物のルーティンさえ気にし過ぎなきゃ」
「真宙はそれが出来るからいいのよ! 普通なんて、食べたいもの食べまくったら顔面なんて化粧で誤魔化すしかないもの!!」
「……その割に、若葉くんは肌綺麗だけど?」
「真宙のお菓子と、食事法ちゃんと気遣いだしただけ!」
「……そっか」


 あれくらいの軽い『痛み』は多く見かけるが。

 あれくらい徹底していると、かえって体に悪いのを誰かが見つけてあげないと……先に壊れるのは心かもしれない。だから、『土地』は柚希をここに導き、真宙から簡単なアドバイスというサービス料を支払うように促してきた。見た目をいくら整えても、内面の満足さは……どうしたって、いつも通り満たされるわけがないのだから。

 ときどきの、『ご褒美』を自分に与えるタイミングは誰かが背を押すようにしてあげないといけない。真宙も、先代がひどい糖尿病患者だったことを知ったので、栄養指導の資格を通信制で取っただけだ。

 あとは、普通の会話をしただけのつもりなのだが、女性にとって嬉しい知識になれたのならよかった。

 なら、次の『客』が支払う『痛み』にはそれが付随しているかもしれないので。あまり作らない和菓子の種類を少し増やそうかと思った。
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