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第32話 貧血予防にカシスムース②
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まず、ひと口目はブルーベリーやいちごとも違う酸味の強いベリーっぽいムースの味が。特に表面の赤紫が酸味を多く含み、内側はまろやかかつさっぱりとした味わいだ。
ふた口目は内側のチョコレートソースとココアスポンジ。酸味とチョコレートの組み合わせはあまり経験がなかったので美味しいのかと思っていたが。二十歳を過ぎたことでの味覚変化により、ほろ苦さと酸味のコラボは意外にもすんなりと受け入れられた。
素直に、『美味しい……』と口から言葉が出るくらいに。
(カシスって、お酒だけに使うかと思ってたけど。なんだっけ? ベリーってほかにフランなんたらが多いような??)
調理関連にあまり詳しくはないが、なんとなくで覚えていた食材と比較してもこれはこれですごく美味しいとしか思えない。
せっかくと用意されていたアイスティーを間に挟むと、きゅっと舌を休ませてくれるようなふんわりと花の香りに似た何かを感じた。
ケーキ、飲み物と交互に食べ進めていくのをやめられないでいたが……終わりはやがて来るもの。
きれいに食べ終えてフォークを置いたときに、真里菜は細く長い息を吐いた。吐息交じりに、あの酸味を感じるがもうないのは少し悲しかった。
(ああ……終わっちゃった)
美味しいものをゆっくり味わっても、結局は終わりが来てしまうのが儚くも愛おしい。こんなにも満たされた感覚になれたのはいつぶりだろう。まだ、貧血がひどかった時期にはなかったような。
そう、処方箋やセカンドオピニオンで医師を変えて……ほっとしたときのあの感じに近い。
「元気、出たようで何より」
向かいに座ったままの店長が、にこにこ顔で真里菜の様子を見続けていたらしい。普通なら不快に思うのに、介抱してもらったこともあってかあまり嫌悪感は出てこなかった。
「あの。すごく美味しかったです」
「よかった。気分の方はどう?」
「……すっきり、してます」
「甘いものを食べたからじゃないけど。気分転換も出来たから、余計に『痛み』がすっと抜けたのかもね」
「あの……『痛み』って」
「この店の特別ルールみたいなものかな? 嘘か真実かどうかは信じるのは君次第」
「……信じ、たいです」
「おや?」
あれだけふらついていた、『体質』をここで代価かなにかで支払ったとなれば。
今さっき気づいた、店長のネクタイにある留め具が反射以外の理由で光っているのも納得。だが。ファンタジーやスピリチュアルとかオカルトみたいな怪しげなものではなく。
目の前にあることと、体で受け止めた感覚に嘘偽りがない。
真里菜は、その感覚を素直に信じたいと返答をしたのだ。
「こんなにも体が洗われたような感覚。はじめてなんです。だから、店長さんの言葉を信じたいんです」
「……そうか。けど、また来たいと思うようになるには相応の『痛み』が必要なんだ。作為的な衝動でしちゃだめだよ?」
「! はい。そうですね」
支払いは既に終わっているのなら、あとは帰るまで。
会社のおつかいがまだ終わっていないので、それを先に済ませることが大事だ。開けてもらった扉をくぐっても、後ろには『ル・フェーヴ』と書かれた店名のが見えただけ。ドアベルの音が聞こえたので、倒れる前に聞いたのはこれなのだろうとも確認した。
真里菜は一度ここを去り……再び来れるときにはなにか別の目的で来るかもしれないが。
その予感が当たるまで、あのカシスムースの後味をしっかり覚えながら歩みを進める。すぐにふらつくような怠さは、もとからなかったかのようにすっきりだった。
(……多分。もう一度来なきゃ、だけど。いつかはわからない)
その日のために、いろんな角度で体質を労わることから始めよう。次世代候補者となるかはわからないが、真里菜の道しるべが一つ増えたような気がした。
*・*・*
直感とやらは、ときに恐ろしいと聞いたりするものの。二人そろって、『ああこれか』と納得するのは、真宙の従兄弟のヒカル以来だったかもしれない。
「ドンピシャ?」
「……に、近いのかな??」
真奈美を帰宅させるような指示を『土地』がしてこなかったので、真宙は話せる範囲でこの店の仕組みを伝えたのだが。呑み込みがいいのか、『そうですか』とだけ彼女は受け入れてくれたのだ。
『痛み』は身体だけでなく。
『魂の核』となる『ココロ』そのものがどれほど『痛覚』を覚えているかで……再来訪出来るかどうかを『土地』が決めるのだ。妖怪変化、神の来訪とかではない……自然界のひとつの現象だと、かつて千景から聞きはしたが。
あれだけ、素直に受け止めてくれる人材はなかなかいない。体質のことがなければ、この店に来ることはなかっただろうが。真宙が表側の窓ふきをしていなければ、もっと酷いけがをしてこの店に強制待機しなくてはいけなかっただろうが。
そこは、間に合ってよかったと思う。
「背丈はまあ、合格点の域だし。踏み台なしでテキパキ動ける子が来てくれるのはいいことね?」
「自分で言ってて、苦しめてない?」
「そこまで自虐的にしてないわよ。ちゃんと正論を言ったまで」
「……ほんとかな?」
「おーい。真宙と若葉いるー?」
何故かこのタイミングで先代の大我が来店してきた。ひょこっと顔を出したが、理事会の帰りなのかそれなりにおしゃれなスーツを着ていた。
「あら、お父さん。仕事帰り?」
「うん、そう。……そこで『らしい』子見たけど。普通に帰したのか?」
「すれ違ったんですか?」
「まあ、俺には気づいてないくらい上機嫌だったし。ただ、なんかで見た子なんだよな~?」
といって、スマホを取り出していくつか操作をしていたが……何かにヒットしたのか、『あ』と覗いていた若葉と一緒に声を上げたのだ。
「インターンのひとり?」
「だな。体調が少し気になる子がいるっつってた。……吸ったのか? 『土地』は」
「「気に入るくらいには」」
「んじゃ、候補者の可能性として……いろいろ労わってやろうか」
「お父さん、おっさん臭い」
「いいじゃん!! 娘の後輩は早いうちにつくんないと、お前嫁遅れだろ!?」
「それはどうだっていいの!!」
ともあれ、『佐東真里菜』を次世代候補者として、社会人の育成をある程度こなせられるように……大我が結局は、上役として直々に声をかけにいったのはそれから数日後。
理事のひとりだと自己紹介したときは、さすがに貧血症状になりかけて卒倒しそうだったと話してくれたが。
またひとつ、この店の『変化』が動き出したなと真宙は経営者としても精進の意志を固めた。
ふた口目は内側のチョコレートソースとココアスポンジ。酸味とチョコレートの組み合わせはあまり経験がなかったので美味しいのかと思っていたが。二十歳を過ぎたことでの味覚変化により、ほろ苦さと酸味のコラボは意外にもすんなりと受け入れられた。
素直に、『美味しい……』と口から言葉が出るくらいに。
(カシスって、お酒だけに使うかと思ってたけど。なんだっけ? ベリーってほかにフランなんたらが多いような??)
調理関連にあまり詳しくはないが、なんとなくで覚えていた食材と比較してもこれはこれですごく美味しいとしか思えない。
せっかくと用意されていたアイスティーを間に挟むと、きゅっと舌を休ませてくれるようなふんわりと花の香りに似た何かを感じた。
ケーキ、飲み物と交互に食べ進めていくのをやめられないでいたが……終わりはやがて来るもの。
きれいに食べ終えてフォークを置いたときに、真里菜は細く長い息を吐いた。吐息交じりに、あの酸味を感じるがもうないのは少し悲しかった。
(ああ……終わっちゃった)
美味しいものをゆっくり味わっても、結局は終わりが来てしまうのが儚くも愛おしい。こんなにも満たされた感覚になれたのはいつぶりだろう。まだ、貧血がひどかった時期にはなかったような。
そう、処方箋やセカンドオピニオンで医師を変えて……ほっとしたときのあの感じに近い。
「元気、出たようで何より」
向かいに座ったままの店長が、にこにこ顔で真里菜の様子を見続けていたらしい。普通なら不快に思うのに、介抱してもらったこともあってかあまり嫌悪感は出てこなかった。
「あの。すごく美味しかったです」
「よかった。気分の方はどう?」
「……すっきり、してます」
「甘いものを食べたからじゃないけど。気分転換も出来たから、余計に『痛み』がすっと抜けたのかもね」
「あの……『痛み』って」
「この店の特別ルールみたいなものかな? 嘘か真実かどうかは信じるのは君次第」
「……信じ、たいです」
「おや?」
あれだけふらついていた、『体質』をここで代価かなにかで支払ったとなれば。
今さっき気づいた、店長のネクタイにある留め具が反射以外の理由で光っているのも納得。だが。ファンタジーやスピリチュアルとかオカルトみたいな怪しげなものではなく。
目の前にあることと、体で受け止めた感覚に嘘偽りがない。
真里菜は、その感覚を素直に信じたいと返答をしたのだ。
「こんなにも体が洗われたような感覚。はじめてなんです。だから、店長さんの言葉を信じたいんです」
「……そうか。けど、また来たいと思うようになるには相応の『痛み』が必要なんだ。作為的な衝動でしちゃだめだよ?」
「! はい。そうですね」
支払いは既に終わっているのなら、あとは帰るまで。
会社のおつかいがまだ終わっていないので、それを先に済ませることが大事だ。開けてもらった扉をくぐっても、後ろには『ル・フェーヴ』と書かれた店名のが見えただけ。ドアベルの音が聞こえたので、倒れる前に聞いたのはこれなのだろうとも確認した。
真里菜は一度ここを去り……再び来れるときにはなにか別の目的で来るかもしれないが。
その予感が当たるまで、あのカシスムースの後味をしっかり覚えながら歩みを進める。すぐにふらつくような怠さは、もとからなかったかのようにすっきりだった。
(……多分。もう一度来なきゃ、だけど。いつかはわからない)
その日のために、いろんな角度で体質を労わることから始めよう。次世代候補者となるかはわからないが、真里菜の道しるべが一つ増えたような気がした。
*・*・*
直感とやらは、ときに恐ろしいと聞いたりするものの。二人そろって、『ああこれか』と納得するのは、真宙の従兄弟のヒカル以来だったかもしれない。
「ドンピシャ?」
「……に、近いのかな??」
真奈美を帰宅させるような指示を『土地』がしてこなかったので、真宙は話せる範囲でこの店の仕組みを伝えたのだが。呑み込みがいいのか、『そうですか』とだけ彼女は受け入れてくれたのだ。
『痛み』は身体だけでなく。
『魂の核』となる『ココロ』そのものがどれほど『痛覚』を覚えているかで……再来訪出来るかどうかを『土地』が決めるのだ。妖怪変化、神の来訪とかではない……自然界のひとつの現象だと、かつて千景から聞きはしたが。
あれだけ、素直に受け止めてくれる人材はなかなかいない。体質のことがなければ、この店に来ることはなかっただろうが。真宙が表側の窓ふきをしていなければ、もっと酷いけがをしてこの店に強制待機しなくてはいけなかっただろうが。
そこは、間に合ってよかったと思う。
「背丈はまあ、合格点の域だし。踏み台なしでテキパキ動ける子が来てくれるのはいいことね?」
「自分で言ってて、苦しめてない?」
「そこまで自虐的にしてないわよ。ちゃんと正論を言ったまで」
「……ほんとかな?」
「おーい。真宙と若葉いるー?」
何故かこのタイミングで先代の大我が来店してきた。ひょこっと顔を出したが、理事会の帰りなのかそれなりにおしゃれなスーツを着ていた。
「あら、お父さん。仕事帰り?」
「うん、そう。……そこで『らしい』子見たけど。普通に帰したのか?」
「すれ違ったんですか?」
「まあ、俺には気づいてないくらい上機嫌だったし。ただ、なんかで見た子なんだよな~?」
といって、スマホを取り出していくつか操作をしていたが……何かにヒットしたのか、『あ』と覗いていた若葉と一緒に声を上げたのだ。
「インターンのひとり?」
「だな。体調が少し気になる子がいるっつってた。……吸ったのか? 『土地』は」
「「気に入るくらいには」」
「んじゃ、候補者の可能性として……いろいろ労わってやろうか」
「お父さん、おっさん臭い」
「いいじゃん!! 娘の後輩は早いうちにつくんないと、お前嫁遅れだろ!?」
「それはどうだっていいの!!」
ともあれ、『佐東真里菜』を次世代候補者として、社会人の育成をある程度こなせられるように……大我が結局は、上役として直々に声をかけにいったのはそれから数日後。
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