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第63話 礼を言われてしまう
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政樹に案内された場所には、見た目温和にしか見えない壮年の白衣を着た医師が居て、彼を紹介された。どうやら、仕事が立て込んでいたのにわざわざ外来にまで降りてきてくれたらしい。
奈月と紗夜のために。
バイタルチェックは問題ないにしても、看護師などを呼び血液検査や血圧などをさっと取り行うくらいの手際が良かった。血液検査に慣れっこのふたりではあったが、臨床技士なみに針の扱いがうまくてほとんど痛みを感じなかった。
「君たちは精神科などでは本来半永久的な『措置入院』をするところだったが。事前に奈月くんのお父さんや後ろの彼らが動いてくれたことで……医師として、長年遠回りな薬物研究をしていたとわかったよ。緩和だけでなく、感情を抑え込むだけの医薬品投与だけで……万有引力ともいえる星の巡り合わせとやらを否定してはダメだったのだなと」
そのあと、謝礼ともいえるくらいに深く腰を折ってくれた。記憶の相互がまだ完全でない奈月には『向こうの自分』が彼らになにを告げたのかが正直言ってわかっていない。なので、元に戻すように頼めば、医師は苦笑いするだけだった。
「相当強く、『向こう』との意識を取り換えていたのだろうね。君自身の延命措置にかけた手術は私の担当ではなかったが……手術を終えたあとが大変だったらしい。どう見ても、双極性の感情障害のそれではないかみたいな障がいが酷かったんだ」
「あ、それ。私もです」
「月峰さんのことは聞いていたが。……お互い、共鳴、し合っていたのかもしれないね。科学技術とは関連づく『絆』が深くあったと。私も、今の妻から散々怒られたよ」
「……えーと? つまり。俺わざと、精神科の症状に??」
「どうだろうか。この障がいの投薬は続けてみたが、ずっと君らは『ぼんやり』していたそうだよ??」
「えー?」
「あれー? 思い出せないー」
紗夜とふたりで顔を合わせても、二十代のいい大人が何を子どものように言い合っているんだかくらいしか覚えていない。感情障害というのが正しければ、ふたりの内面は今十代半ばの高校生くらいしかないのかもしれない。
医師はそういう風に判断し、検査結果が来るまで院の食堂を使う許可を出してくれた。ここは物資が患者の給食優先に動いているのだが、ふたりも今は患者だし周りも同行者ということで利用許可が出たのだ。
「俺は、ちょっとここで抜けるわ」
ただひとり、政樹だけは婚約者の検査がひと通り終わったとの呼び出しがあって、一旦離脱した。
「……政樹に彼女っていたかしら?」
「……俺もまだ記憶あやしいけど。いた……か?」
「年上、だよな?」
「かっこいいお兄ちゃんタイプだね~」
「……俺かっこよくない??」
「そんなことないよー」
食堂に行くまでにそんな会話が続いたが、雅博が急に『あいつか!』と叫んだので職員らに注意されたのは言うまでもなかった。
奈月と紗夜のために。
バイタルチェックは問題ないにしても、看護師などを呼び血液検査や血圧などをさっと取り行うくらいの手際が良かった。血液検査に慣れっこのふたりではあったが、臨床技士なみに針の扱いがうまくてほとんど痛みを感じなかった。
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そのあと、謝礼ともいえるくらいに深く腰を折ってくれた。記憶の相互がまだ完全でない奈月には『向こうの自分』が彼らになにを告げたのかが正直言ってわかっていない。なので、元に戻すように頼めば、医師は苦笑いするだけだった。
「相当強く、『向こう』との意識を取り換えていたのだろうね。君自身の延命措置にかけた手術は私の担当ではなかったが……手術を終えたあとが大変だったらしい。どう見ても、双極性の感情障害のそれではないかみたいな障がいが酷かったんだ」
「あ、それ。私もです」
「月峰さんのことは聞いていたが。……お互い、共鳴、し合っていたのかもしれないね。科学技術とは関連づく『絆』が深くあったと。私も、今の妻から散々怒られたよ」
「……えーと? つまり。俺わざと、精神科の症状に??」
「どうだろうか。この障がいの投薬は続けてみたが、ずっと君らは『ぼんやり』していたそうだよ??」
「えー?」
「あれー? 思い出せないー」
紗夜とふたりで顔を合わせても、二十代のいい大人が何を子どものように言い合っているんだかくらいしか覚えていない。感情障害というのが正しければ、ふたりの内面は今十代半ばの高校生くらいしかないのかもしれない。
医師はそういう風に判断し、検査結果が来るまで院の食堂を使う許可を出してくれた。ここは物資が患者の給食優先に動いているのだが、ふたりも今は患者だし周りも同行者ということで利用許可が出たのだ。
「俺は、ちょっとここで抜けるわ」
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「かっこいいお兄ちゃんタイプだね~」
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「そんなことないよー」
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