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27-4.思い慕う気持ち(ミリアム視点)

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 ★・☆・★(ミリアム視点)








 ああ……ああ、チェスト様。

 どうか、わたくしのこの心を。

 受け止めてくださいましな?

 ガイウスお兄様に、わたくしがいかにチェスト様を想っていることを切にアピールされてから、数時間後。

 今度は、妹姫のアイルンに告げました。


「まあ、まあまあまあ、ミアお姉様!? 想われる殿方が出来ましたとのこと!!」

「ええ……ええ、アイ。ガイウスお兄様のご親友でいらっしゃるクローム=アルケイディス殿の幼馴染みのチェスト=ポディロン様ですわ!」

「まあ、それではお姉様が国民に降嫁なさいますの?」

「ふふふ。お料理以外は修行せねば難しいでしょうが、異論はありませんわ」

「まあ、素敵!」


 もう一人のお兄様である、ルーイスお兄様には絶対言えませんが。ガイウスお兄様には少しはぐらかされましたし、わたくしとしては王女として一刻も早く、チェスト様に想いを告げたいのですが。

 お父様の陛下は、わたくしの拳で少し使い物にならない状態ですし、お母様には苦笑いされましたもの。

 歯痒いですわ!

 しかし、妹姫のアイルンには合意を得られて何よりです。

 わたくしのように、夢見る乙女ですもの。ガイウスお兄様のように、ずっと思い慕う方がいらっしゃるわけでもないようですが、いずれ望む殿方と結ばれてもらいたい。


「はあ……チェスト様。ミアは早く貴方様のもとに嫁ぎたいですわ」

「素敵ですわ! どのようにお会いなさいましたの?」

「それはですね……」


 ああ、あの勇ましいお姿。

 まだ数日前とは言え、まぶたの裏に焼き付いていますわ!

 わたくしが、金髪をカツラで隠して服装も出来るだけ質素に抑えて出かけたあの日。

 供の者もつけずに、お買い物をしていた矢先に、柄の悪いゴロツキ連中が声をかけてきたのですわ。


『よう、綺麗な嬢ちゃん。俺達と遊ばねーか?』

『いーい、酒場知ってんだぜ?』

『……お断りします』


 なにを好き好んで、柄の悪い男どもと関わらなくてはいけない?

 わたくしの理想はガイウスお兄様ですわ!

 あなた方のような人間とは、断固として関わりたくありません!

 なので、掴みかかってきそうな手を払おうとした時に。


『お嬢さんが嫌がっているんでしょ? おにーさん達、無理矢理だと余計に嫌われるよー?』


 その時、助けていただいたのがチェスト様ですわ!

 片手で巨漢の腕を止めるなど、傭兵とも言われる冒険者達でも難しいと聞きますのに。細腕でも可能とは、最初の印象は冒険者かと勘違いしかけましたが。


『な……んだ、お前……!?』

『ただの生産ギルド職員。ギルマスのアークさんに言いつけて、ポーション買えなくしちゃうよ~?』

『おっま!?』

『まさか、直属の部下のチェスト=ポディロン!?』

『あっれ~、僕意外に有名人?』


 そして、巨漢を適当に放り投げてしまい、もう一人の男が無理に担いで逃げてしまった一連の事態に。

 わたくしは、かつてないくらいの胸の高まりを感じましたわ!


『おじょーさん? 大丈夫? 怪我してない?』

『は、ははは、はい!』

『自分で対処しようにも、あんな大男二人もだなんて大変だからちゃんと大人を呼びなよ?』

『わ……たし、に武の心得があるとお分かりに?』

『あの立ち位置で、きちんと受け止めようとしてたんだもん。出来る女の子でもせっかく綺麗な腕を壊しかねないから。次は僕みたいなのとか呼んでね?』


 それからすぐに、けらっと笑ったチェスト様は去ってしまいましたが。

 わたくしの胸の高まりは最高潮に達していましたわ!


「素敵素敵! それでお心を射抜かれたのですね!」

「あのふにゃ……っとした笑顔が愛らしくて」

「もう完全にお慕いしてますのね! アイも素敵な殿方と出会いたいですわ!」

「成人出来たら、お披露目パーティーもありますわ。それをきっかけとするのもよろしくてよ?」

「はい、お姉様!」


 今頃、チェスト様はなにをしていらっしゃるのかしら?

 影の情報からだと、優秀なギルド職員として日々働いていらっしゃるらしいけど。最近は、別の動きもあるらしい。それについての報告は、なぜか情報を曖昧にするのだが。

 おそらく、ギルドマスターと関係があるのだろう。

 一度、お父様である陛下に問い合わせて、チェスト様を外していただこう!

 もし、危ない目に遭ったとしたら大変ですもの!


「アイルン。少し用事が出来ましたが。一緒に来ますか?」

「どこに参りますの?」

「陛下……お父様のところですわ」

「行きますわ!」


 そして、王女二人がかりでお父様から聞き出した情報は、ガイウスお兄様のご婚約だけでなく、次男のルーイスお兄様の幽閉についてだった。
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