53 / 192
第十四章 小森の場合⑦
第1話 長野へ
しおりを挟む
年末も間近。
ほぼ年越しと言っていいか、裕司は恋人の怜に前々から連れて行きたい場所に、今日向かっているところだ。
県外も県外。特急などを使って、長野県に。
「おー……新幹線じゃないけど、早い」
子供ではないが、怜はそれなりにはしゃいでいた。考えてみれば、デートや遊びに行くのは殆ど県内で済ませていたので……ちょっとした旅行にも連れて行ったことがない。
今回は、夏頃に怜が克服出来た『ところてん』を食べに向かっているのだ。しかも、この冬の時期にしか食べられない『生ところてん』と言う地元ならではの美味を。
裕司も昔の帰省はともかく、高校以降は正月でもきたかどうかのうろ覚えだった。しかし、大好きな彼女のために、それなりにリサーチしてから……母方の実家に連絡を入れると『連れてきなさい!!』と返事があった。
大はしゃぎしないか少し心配だったが、裕司が彼女を連れていくのが初めてだから嬉しいかもしれない。
『次はー』
アナウンスが鳴った時に、裕司達が降りる駅名が聞こえてきたので……降りる準備をして出口に向かえばすぐに車両が停止した。
「段差あるから気をつけて」
「ほいほい」
お互いに気をつけて車両から降り……エレベーターを使って改札に行く。日帰りではあるが、裕司の祖父母にとお土産が少々あるので……移動に使えるところは使う。
無人駅ではないが、都会に比べると規模の小さい駅の改札口はそれなりに小さい。裕司らを迎えにきた祖父もすぐに会えた。
「やーっと来たか!」
「じ、じぃちゃん。い、痛い!!」
「お前が待たせるからだ!」
祖父と言えど、まだまだ若々しさが消えていない……裕司と背丈もあまり変わらない祖父は相変わらず元気だった。祖母はいないようだが、家の方だろうか。
「は、はじめまして!! 眞島怜と言います!!」
裕司と祖父がじゃれている間、頃合いを見て怜が祖父に挨拶をした。ちょっと緊張しているところが可愛かったが、今は愛でている場合ではない。
「お! ご丁寧に。おじいちゃんは吾味啓司って言うんだ。おじいちゃんでいいよ?」
「そ、そんな!」
「じいちゃん……」
気が早いというか、もう怜を気に入りかけているらしい。これまで彼女を紹介したことがないので、それが嬉しいのだろう。
祖父は寒いだろうから移動しようと、どうやら実家に連れて行ってくれるらしい。あとで、生ところてんの販売店に連れて行ってくれるかと思ったが。
「まあまあ! あなたが裕司の彼女さん? なんて可愛いらしいのかしら!!」
祖母のひとみも、怜が挨拶したら抱き付かんばかりに声を上げていた。怜は顔を赤らめていたが、嬉しくないわけではないようだった。裕司から手土産を渡せば……長野だとこれも有名な塩羊羹を茶請けに出してくれた。
スーパーに売っているタイプで、ひと口サイズが切り込みを入れた箇所から飛び出て口に入れやすいのである。
「……じいちゃん、ばあちゃん? あとで怜……ちゃんをところてん屋に連れて行くんだから、あんまり食べさせ過ぎんで?」
ついいつもの癖で、『やん』と呼びそうだったから……慌てて呼び変えた。それが新鮮だったのか、怜ははにかんでいたが。
「なーに。店に行かずともここでやるさ」
「え? 買ってきたの??」
「店だと味が決まってるだろう? なら、酢醤油や黒蜜以外も用意したさ」
今日のために、わざわざところてん突きまで買ってしまったらしい……。
ほぼ年越しと言っていいか、裕司は恋人の怜に前々から連れて行きたい場所に、今日向かっているところだ。
県外も県外。特急などを使って、長野県に。
「おー……新幹線じゃないけど、早い」
子供ではないが、怜はそれなりにはしゃいでいた。考えてみれば、デートや遊びに行くのは殆ど県内で済ませていたので……ちょっとした旅行にも連れて行ったことがない。
今回は、夏頃に怜が克服出来た『ところてん』を食べに向かっているのだ。しかも、この冬の時期にしか食べられない『生ところてん』と言う地元ならではの美味を。
裕司も昔の帰省はともかく、高校以降は正月でもきたかどうかのうろ覚えだった。しかし、大好きな彼女のために、それなりにリサーチしてから……母方の実家に連絡を入れると『連れてきなさい!!』と返事があった。
大はしゃぎしないか少し心配だったが、裕司が彼女を連れていくのが初めてだから嬉しいかもしれない。
『次はー』
アナウンスが鳴った時に、裕司達が降りる駅名が聞こえてきたので……降りる準備をして出口に向かえばすぐに車両が停止した。
「段差あるから気をつけて」
「ほいほい」
お互いに気をつけて車両から降り……エレベーターを使って改札に行く。日帰りではあるが、裕司の祖父母にとお土産が少々あるので……移動に使えるところは使う。
無人駅ではないが、都会に比べると規模の小さい駅の改札口はそれなりに小さい。裕司らを迎えにきた祖父もすぐに会えた。
「やーっと来たか!」
「じ、じぃちゃん。い、痛い!!」
「お前が待たせるからだ!」
祖父と言えど、まだまだ若々しさが消えていない……裕司と背丈もあまり変わらない祖父は相変わらず元気だった。祖母はいないようだが、家の方だろうか。
「は、はじめまして!! 眞島怜と言います!!」
裕司と祖父がじゃれている間、頃合いを見て怜が祖父に挨拶をした。ちょっと緊張しているところが可愛かったが、今は愛でている場合ではない。
「お! ご丁寧に。おじいちゃんは吾味啓司って言うんだ。おじいちゃんでいいよ?」
「そ、そんな!」
「じいちゃん……」
気が早いというか、もう怜を気に入りかけているらしい。これまで彼女を紹介したことがないので、それが嬉しいのだろう。
祖父は寒いだろうから移動しようと、どうやら実家に連れて行ってくれるらしい。あとで、生ところてんの販売店に連れて行ってくれるかと思ったが。
「まあまあ! あなたが裕司の彼女さん? なんて可愛いらしいのかしら!!」
祖母のひとみも、怜が挨拶したら抱き付かんばかりに声を上げていた。怜は顔を赤らめていたが、嬉しくないわけではないようだった。裕司から手土産を渡せば……長野だとこれも有名な塩羊羹を茶請けに出してくれた。
スーパーに売っているタイプで、ひと口サイズが切り込みを入れた箇所から飛び出て口に入れやすいのである。
「……じいちゃん、ばあちゃん? あとで怜……ちゃんをところてん屋に連れて行くんだから、あんまり食べさせ過ぎんで?」
ついいつもの癖で、『やん』と呼びそうだったから……慌てて呼び変えた。それが新鮮だったのか、怜ははにかんでいたが。
「なーに。店に行かずともここでやるさ」
「え? 買ってきたの??」
「店だと味が決まってるだろう? なら、酢醤油や黒蜜以外も用意したさ」
今日のために、わざわざところてん突きまで買ってしまったらしい……。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる