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第二部拾 裕司の場合⑤

第2話『安心出来る豚汁』

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 見えそうで見えない、絶妙な着崩し方。

 しかし、れい本人は寝ぼけているのでまったく気づかないでいるようだ。ゴシゴシと片手で目を擦り、ゆらゆらと体を揺らしながらこちらに歩いて来る度に……胸や足の大事な箇所が適当に着たパーカーが擦れるたびに見え隠れしている。

 非常に、目の毒だ。


「……怜やん、ストップ」

「ほぇ?」


 裕司ゆうじが菜箸を調理台の上に置いてから怜の前に立ち、ささっと乱れたパーカーを整えていく。


「…………朝から襲われてもいいのかね?」

「……おそう?」


 まだ頭もシャキッとしていないので、生返事している。とりあえず、洗顔などをしてくるように言い付けると……鏡を見て、やっと目が覚めたのか素っ頓狂な大声が聞こえてきた。すぐにやって来ないようだから、念入りに整えているのだろう。

 やれやれと思いながらも、裕司は豚汁作りの続きをしていく。並行して、それに合う朝ご飯の副菜なども。おかずはいいかとも思ったが、体力回復のためにもシャケだけは焼くことにした。

 すっかり怜が身綺麗に整えてきた頃には……裕司の調理も終わっていた。


「……出来たぜよ?」

「……………………うん」


 真っ赤っかとまでいかないが、それなりに赤い。

 数え切れない……とまでいくかはわからないが、それなりに回数を重ねたのに。怜はいつまで経っても初々しい反応をしてくれる。

 真尋まひろあたりの入れ知恵とは言え、あのような下着を身につけて……裕司に美味しくいただかれても恥じらいをまだ持っている。実に、裕司のツボを突くところだが……出来立ての料理を無駄にしたくないので、軽く頭を撫でてやって席に着くように促した。


「ほら、食べよ?」

「…………いただき、ます」


 豚汁を見ると、ほっとしたのか表情筋が緩んでいくのが目に見えた。

 まずはお腹を温めるのに、怜は豚汁のつゆを口に含んでいく。そして『はぁ~』と安心し切った声を出した。


「辛くない?」

「全然! いい味噌の濃さだよ! それにすっごく優しい味付け!!」

「ほんのちょっとだけ、めんつゆ入れてあるからねぇ?」

「めんつゆ? 入れるとこんな感じになるんだ?」

「そうそう。源さんに前教わった」


 時々、厨房からバイト先だったまかない処に派遣されるが……やはり、何年経とうが新しい発見などを教えてくれるのが山越やまこしだ。時々ネットを駆使しながら、ホテルの従業員に美味しいまかないを作ってくれるのである。そこから、裕司が勉強するのも日常になってきた。

 最近は、新人だったバイトとかがだいぶ手際よく仕事が出来るようになってきたので、派遣の数も減ってきた。


「ほうほう。だから、いつも以上にお米と合うんだ?」

「芋類もたっぷり入れたからねぇ? おかわりもあるぜよ?」

「所望します!」

「逃げんから、ゆっくりお食べ?」

「はーい」


 なんてことのない日常。

 昨夜は色っぽい部分もあったが、なんだかんだでこの何気ない日常を送れるのが嬉しい。

 お互いにしっかり朝ご飯を食べてから……怜の体力の問題もあり、今日は家で映画鑑賞でもしようとスナック菓子などを買いに行く。手を繋いで買いに行けば、突然のにわか雨に見舞われ……裕司もだが、怜もびしょ濡れ。

 着替えるよりも風呂に入ろうと、買い物したものだけ片付けてから……湯を貯めている間にシャワーでしっかり温まろうとしたけれど。


(…………目の毒その二)


 昨夜も散々見たのに、怜の裸体を見て欲情しかけた。健康的な二十代なので仕方がないが……せめて、夜まで我慢だと。怜の頭を洗ってやりながら意識を逸らした。
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