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夢喰い
第1話 湖沼美兎
しおりを挟む名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
現実と憧れが、こんなにも違うのだと入社二ヶ月目で深く痛感した。
「……おえ、辛っ!?」
(株)西創デザインに入社したばかりの新入社員、湖沼美兎はいわゆる『悪酔い』の状態だった。
理由は、どうしようもない事だ。
デザイナーになりたいがために、突っ走って突っ走って突っ走まくってきたのに。いざ、希望の会社の新卒採用されたのに、仕事は研修と言う理由で雑務ばかり。
来る日も来る日も、書類整理や使いっ走りばっかりで。初めの頃は、仕事の一貫だと意気込んでいたが……だんだんと、耐えられなくなってきた。
憧れていた広告代理店のデザイナーの仕事のためだけに青春を犠牲にしてきたのに。何がどうして毎日毎日雑務ばかりなのか。
いくら美兎でも、我慢の限界点になってきた。……なので、早めに切り上げてきて今日は自棄酒にしてしまったのだが。あまり酒慣れしてないのは自覚していたつもりなのに、結果は悪酔い。
今にも吐きそうだが、錦まで足を運んだのが悪かった。キャッチやナンパのチャラい男性は見かけても、誰も美兎を助けようとはしてくれない。
女性も、キャバ嬢とかがほとんどなので見向きもされず。
這う勢いで通りから離れようにも、重い足取りだとなかなか地下鉄通路口にも行けなかった。苦しいが、吐くしかないかと思った時。
ちりん、ちりん。
場違いな、風鈴に似た鈴の音が美兎の耳に届いた。
こんな歓楽街の喧騒で、そんな微かな音だなんて聞こえるはずがないのに。美兎の耳にこびりつくくらいに、鮮明に聞こえたのだ。
音がなおも聞こえてくるうちに、吐き気だなんてどこかに飛んでいってしまい。美兎は、ふらふらと歩きながらも音の根源を探していく。
ふらふら歩きながらも、音はなおも美兎の耳を虜にして消えていかない。
看板をスレスレで避けながら歩いていくと、ビルの隙間に人影のようなものがあるのが見えた。ような、と思ったのは、こんな夜の歓楽街に子供のような背丈の誰かがいたからだ。
まだ22時前とはいえ、子供がいるような場所ではないのに。
少し正気に戻ってきた美兎は、声をかけようと手を伸ばしたら……その人影が溶け込むように消えてしまったのだ。悪酔いの延長か、とも思ったが視界がぐにゃぐにゃすることもないし大丈夫。
だから、気になって人影がいた隙間を通って、角を曲がって曲がって行けば。
次に目に見えた光景に、美兎はさらに悪酔いが悪化したのではと疑いたくなった。
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