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座敷童子
第6話 守護契約
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契約に必要な道具と言うのはわかったが、随分と手の込んだ布だなと美兎は興味が湧いた。
絶妙なアナグラムのような星形の紋章に円型の配置。
やはり、デザイナー志望の美兎にとって図形は興味の対象だ。だが、今は興味津々でいるわけにもいかない。
座敷童子の真穂と守護についてもらう契約を結ぶのだ。
「美兎、この陣の真ん中に座って?」
火坑の家のリビングに、その布を広げた真穂は美兎にそう言ってきた。美兎はわかった、と頷いてからその上に座る。触ってみると、質の良いシルクのような手触りだった。
「じゃ、手……出して」
「うん」
次に両手を出すように言ってきたので、美兎は言われた通りに両手を差し出すと……目の前の真穂の表情が変わったかのように見えた。
昨夜の子供のような雰囲気でもなく、妖しい大人のような雰囲気でもなく。真剣で、凛と美しい女性のような表情になっていた。思わず、美兎も緊張してしまうくらいに。
「……我が守護」
真穂が呟くと同時に、美兎達の下にある布が光ったような気がした。下を見ると、たしかに描かれている赤い線が光っていた。
「……我が誓い」
次に真穂が呟くと、今度は光っていただけの線から赤い光があふれ出して、美兎と真穂を囲むように浮かび上がっていく。体に触れているところは別段熱さなどは感じなかった。
「……我が、願い」
また真穂が呟くと、今度は光がどんどん小さくなり美兎の両方の手の甲に集まってきた。何か、レーザー光線で刻むように動き、手の甲に布の上に描かれていたのと同じ模様が刻まれていく。
「今ここに、開眼せん!」
力強く真穂が言うと同時に、刻まれていた模様が完成して……赤く、強く光った。そうして、すぐに模様は消えてしまい、あれだけ強く光っていたのも消えてしまう。
真穂も何も言わなくなり、ただ笑うだけ。つまりは、契約の儀式と言うのはこれで終わったのか。
「……終わり?」
「そ。ちょっと試すわよ?」
と言って、手を離した真穂は美兎の後ろに周り……影の部分に立つと吸い込まれるように沈んでいった。
「え」
「守護についたあやかしは、宿主の影に入れるのよ? 直接的にも間接的のにも、外敵から宿主を護る意味も兼ねているわ」
「へー?」
美兎へのメリットが大きいのでは、とも思うが。今この状態でも真穂に霊力とやらが流れているのであれば大丈夫なのだろう。
真穂が影から出てくると、ずっと黙っていた火坑が手を叩いた。
「おめでとうございます。真穂さんが湖沼さんの守護に憑かれたのであれば、界隈にも安心して来れますしね?」
「ま。今までも、気になってたから真穂が見てたけど」
「そうなの?」
「まあ、理由はいつか話すけど。あの夢喰いに目をつけられてた美兎を、横取りされるのは嫌だったのよ」
「え?」
「今はまだ、ね?」
内緒、と真穂は口に指を当てる仕草は、やっぱり子供の見た目らしくない妖しい女性のように見えた。
それからは、先程食べようとした先輩からのおすそ分けでもらった菓子を食べることにして。火坑の美味しい美味しいブラックコーヒーと一緒に心ゆくまで堪能することになった。
「おや、この味は」
フィナンシェを食べていた火坑が、首を傾げたのだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、僕の知人にもパティシエさんがいるんですが。味が似ていたもので」
「え。妖怪さんって、人間界でも働いてたりするんですか?」
「いらっしゃいますよ? その知人もそうなんです。もしかしたら、同一人物かもしれないですね?」
「けど、人間とお付き合いしてる妖怪さんっているんですか?」
「意外にも多いわよー? 真穂の親戚にもいるし。そいつの子孫は界隈で働いてるけど」
「へー?」
あやかしが、人間と交際している。
先輩にすぐに確認出来るか、美兎には勇気がないので難しいとは思ったが。ふいに、隣にいる猫人が誰かと付き合っているのかどうか気になってきて……何故、と美兎は自問自答した。
(……火坑さんが、誰かと付き合うのだなんて自由だし)
それなのに、この優しい猫人の隣に……あやかしでも人間でも女性が立っていたらと思うと、少しモヤモヤしてきた。
それはお茶会がお開きするまで続き、真穂と一緒に火坑の家を出て自宅に戻るまでも、すっきりすることはなかった。
「みーう?」
呼んだのは真穂のはずなのに、真穂より少し低くて綺麗な声が聞こえてきた。
前を見ると、美兎くらいの背丈でとびっきり美人な女性が美兎に向かって人差し指を立てていた。
誰だろうと思うよりも先に、彼女は真穂なのか、と疑問に思った。
「……真穂ちゃん?」
「よそ見し過ぎ。もうすぐ人間界に入るから、真穂もこの見た目になったのよ。小学生と大人が親子でもないのに、栄に出るのは不自然でしょ?」
「あ、うん。そうだね?」
なんで最初からその姿にならなかったのかを聞くと、子供の方が本当の姿だからだそうで。手を掴まれると、触り心地の良い手の感触に少し羨ましく思った。
「何か考え事?」
「……うん。自分でも良くわかんなくて」
「真穂のことじゃなさそうね? 火坑の大将?」
「…………そう、なんだけど」
正直に、今日感じたことを告げれば彼女に猛烈にため息を吐かれた。
「あんたねー……」
「わ、悪い事かな?」
「逆よ、逆。……美兎、大将が好きなんじゃないの?」
「へ?」
「likeとは言わせないわよ? loveの方で!」
「ええええええええ!!?」
ここが騒がしい界隈で良かった。
美兎の絶叫も、喧騒に吸い込まれていってしまったのだから。
絶妙なアナグラムのような星形の紋章に円型の配置。
やはり、デザイナー志望の美兎にとって図形は興味の対象だ。だが、今は興味津々でいるわけにもいかない。
座敷童子の真穂と守護についてもらう契約を結ぶのだ。
「美兎、この陣の真ん中に座って?」
火坑の家のリビングに、その布を広げた真穂は美兎にそう言ってきた。美兎はわかった、と頷いてからその上に座る。触ってみると、質の良いシルクのような手触りだった。
「じゃ、手……出して」
「うん」
次に両手を出すように言ってきたので、美兎は言われた通りに両手を差し出すと……目の前の真穂の表情が変わったかのように見えた。
昨夜の子供のような雰囲気でもなく、妖しい大人のような雰囲気でもなく。真剣で、凛と美しい女性のような表情になっていた。思わず、美兎も緊張してしまうくらいに。
「……我が守護」
真穂が呟くと同時に、美兎達の下にある布が光ったような気がした。下を見ると、たしかに描かれている赤い線が光っていた。
「……我が誓い」
次に真穂が呟くと、今度は光っていただけの線から赤い光があふれ出して、美兎と真穂を囲むように浮かび上がっていく。体に触れているところは別段熱さなどは感じなかった。
「……我が、願い」
また真穂が呟くと、今度は光がどんどん小さくなり美兎の両方の手の甲に集まってきた。何か、レーザー光線で刻むように動き、手の甲に布の上に描かれていたのと同じ模様が刻まれていく。
「今ここに、開眼せん!」
力強く真穂が言うと同時に、刻まれていた模様が完成して……赤く、強く光った。そうして、すぐに模様は消えてしまい、あれだけ強く光っていたのも消えてしまう。
真穂も何も言わなくなり、ただ笑うだけ。つまりは、契約の儀式と言うのはこれで終わったのか。
「……終わり?」
「そ。ちょっと試すわよ?」
と言って、手を離した真穂は美兎の後ろに周り……影の部分に立つと吸い込まれるように沈んでいった。
「え」
「守護についたあやかしは、宿主の影に入れるのよ? 直接的にも間接的のにも、外敵から宿主を護る意味も兼ねているわ」
「へー?」
美兎へのメリットが大きいのでは、とも思うが。今この状態でも真穂に霊力とやらが流れているのであれば大丈夫なのだろう。
真穂が影から出てくると、ずっと黙っていた火坑が手を叩いた。
「おめでとうございます。真穂さんが湖沼さんの守護に憑かれたのであれば、界隈にも安心して来れますしね?」
「ま。今までも、気になってたから真穂が見てたけど」
「そうなの?」
「まあ、理由はいつか話すけど。あの夢喰いに目をつけられてた美兎を、横取りされるのは嫌だったのよ」
「え?」
「今はまだ、ね?」
内緒、と真穂は口に指を当てる仕草は、やっぱり子供の見た目らしくない妖しい女性のように見えた。
それからは、先程食べようとした先輩からのおすそ分けでもらった菓子を食べることにして。火坑の美味しい美味しいブラックコーヒーと一緒に心ゆくまで堪能することになった。
「おや、この味は」
フィナンシェを食べていた火坑が、首を傾げたのだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、僕の知人にもパティシエさんがいるんですが。味が似ていたもので」
「え。妖怪さんって、人間界でも働いてたりするんですか?」
「いらっしゃいますよ? その知人もそうなんです。もしかしたら、同一人物かもしれないですね?」
「けど、人間とお付き合いしてる妖怪さんっているんですか?」
「意外にも多いわよー? 真穂の親戚にもいるし。そいつの子孫は界隈で働いてるけど」
「へー?」
あやかしが、人間と交際している。
先輩にすぐに確認出来るか、美兎には勇気がないので難しいとは思ったが。ふいに、隣にいる猫人が誰かと付き合っているのかどうか気になってきて……何故、と美兎は自問自答した。
(……火坑さんが、誰かと付き合うのだなんて自由だし)
それなのに、この優しい猫人の隣に……あやかしでも人間でも女性が立っていたらと思うと、少しモヤモヤしてきた。
それはお茶会がお開きするまで続き、真穂と一緒に火坑の家を出て自宅に戻るまでも、すっきりすることはなかった。
「みーう?」
呼んだのは真穂のはずなのに、真穂より少し低くて綺麗な声が聞こえてきた。
前を見ると、美兎くらいの背丈でとびっきり美人な女性が美兎に向かって人差し指を立てていた。
誰だろうと思うよりも先に、彼女は真穂なのか、と疑問に思った。
「……真穂ちゃん?」
「よそ見し過ぎ。もうすぐ人間界に入るから、真穂もこの見た目になったのよ。小学生と大人が親子でもないのに、栄に出るのは不自然でしょ?」
「あ、うん。そうだね?」
なんで最初からその姿にならなかったのかを聞くと、子供の方が本当の姿だからだそうで。手を掴まれると、触り心地の良い手の感触に少し羨ましく思った。
「何か考え事?」
「……うん。自分でも良くわかんなくて」
「真穂のことじゃなさそうね? 火坑の大将?」
「…………そう、なんだけど」
正直に、今日感じたことを告げれば彼女に猛烈にため息を吐かれた。
「あんたねー……」
「わ、悪い事かな?」
「逆よ、逆。……美兎、大将が好きなんじゃないの?」
「へ?」
「likeとは言わせないわよ? loveの方で!」
「ええええええええ!!?」
ここが騒がしい界隈で良かった。
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