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座敷童子
第5話『しじみの味噌汁』
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それから、どれだけ飲んでいたかわからない。
座敷童子の真穂と話すのが意外に楽しくて、火坑の作る料理がやっぱり美味しかったせいもある。
呂律が回らなくなってから、記憶がないのだ。具体的にいつつぶれたのかは、美兎も本当に覚えていなくて……気がついたら、布団に横になっていた。
柔らかい布団の感触に、自分は一瞬自宅に帰れたのかと思ったが、自宅の布団はここまで柔らかくはないとわかった。
だから、まさか……と起きあがろうとしたら、足元に少し重みを感じたのだ。上体だけ起きて下を見れば、見覚えのあるおかっぱ頭があった。
「あ……」
昨夜、散々一緒に飲んだあやかしの少女。実際は少女の年頃ではないが、こうして見るとあどけない寝顔が可愛らしく見えた。
そっと、髪を撫でてやると真穂は目が覚めたのかもぞもぞと動き出した。
「……はよ」
「おはよう、真穂ちゃん。あの……ここどこ?」
起きて急だけど、この場所の説明をして欲しかった。
落ち着いたトーンの、アパートではなくマンションらしい部屋。そう思ったのは、美兎のように1LDKの部屋とかではなくてしっかりとした個室だったからだ。
だいたいの予想はつくが、念のために確かめたかった。
「ここ? 大将の家」
「え、火坑さんの!?」
「あんた見事につぶれちゃったのよ? 一応あやかしは人間の居場所を調べる方法もあるけど……あんた、『まだ飲む~』とか、『明日休みだから帰りたくない~』って言うから座敷で寝かせた後にあいつが運んだの」
「う……わぁ、申し訳ないわ」
彼との初対面の時は悪酔い。今度は、酔い潰れ。
全然いいとこじゃないのを見せてばかりだ。思わず、大きくため息を吐くと、真穂にはケラケラと笑われた。
「気にはしてなかったわよ? ただ、女を自宅に上げるのは初めてだったから、ちょっと慌ててたけど」
「火坑さんが?」
「あんな坊主でも、女に対しては初心なのよ?」
「ふーん?」
落ち着いた猫の男性だと言うことしか知らないが、慌てるだなんて想像しにくい。
しかし、迷惑をかけたことには変わりなかった。今日が土曜だったので、美兎も慌てることはなかったが。まずはお礼を言おうとベッドから出ることにした。
ただ、扉を開ける前にひとりでに開いたので驚いたが。
「おや、お目覚めですか? おはようございます」
「お、おはようございます!」
今会いに行こうとしていた火坑本人が来てくれたのだ。美兎がすぐに寝床を貸してくれたことと、介抱してくれたことへの感謝を言うと、火坑はにっこり笑ってくれた。
「いえいえ。二日酔いになっていなくてよかったです。朝ご飯、出来ていますが食べれそうですか?」
「え、朝ご飯!?」
「いいじゃん、いいじゃん? 食べてから契約の儀もしよう!」
「契約?」
「そこまで記憶飛んだの!?」
だが、だんだんと酔った時の記憶が蘇ってきて、美兎は悶絶しそうになったのは真穂にまた笑われたが。
とりあえず、火坑手製の朝ご飯を食べることになった。
「わあ!」
リビングに案内してもらうと、三人分の朝食はもう出来上がっていた。
「あら、定番の定番ね?」
鯖の塩焼き、出汁巻き卵、青菜のおひたしに白米や味噌汁。
真穂の言う通り、定番中の定番ではあるが一人暮らしの美兎でもここまでのメニューは作れない。
ただひとつ、美兎の目に飛び込んできた青菜のおひたしには……美兎の苦手なあるものがあった。
「……しめじ……」
苦手なきのこ類が入ってきたので、一気に食べる気が失せてしまったのだ。
「おや、すみません。苦手でしたか?」
「……すみません。ど~~しても、きのことこんにゃくはダメで!」
「では、それは取り除きますので先に味噌汁でも。しじみは大丈夫ですか?」
「あ、はい」
深酒した場合には、しじみの味噌汁。
まだ美兎は試したことがないので飲んでみることにした。真穂と先に手を合わせてから、まだ温かいお椀を手に取り……ゆっくりと口に含むと、磯の香りと程よい塩気の合わせ味噌が口いっぱいに広がっていった。
貝殻ごと入っていたしじみを、箸でつまんで中身を口にちゅるんと含むと味噌の味と合わさって素直に美味しいと思える。
出汁巻き卵は、初めて楽庵で食べたものとは全然違う卵だと言うのはわかるが、出汁の濃さは同じで柔らかさも同じ。ぱくぱくと食べれるのだ。
途中、火坑がきのこを取り除いてくれたおひたしを出してくれたので、慎重に箸を持っていく。きのこがなければ、味が多少うつっていても食べられるのでぱくりと口に入れると。少しはきのこの味がするが、海苔とほうれん草の味の方が際立って美味しかった。
「はぁー、ごちそうさま」
「美味しかったです!」
「ふふ。お粗末様です」
とここで、美兎は昨夜渡し損ねていたおすそ分けでもらった菓子を思い出して。
朝からだが、火坑がコーヒーを淹れようと言ってくれた時に、真穂が『待った』と静止の声を上げた。
「先に契約よ?」
「あ、ごめん」
「いいわよ。すぐ済むし、ちょっと待って」
と言って、どこから出したのか赤い線で色々な模様が書かれた布を取り出してきた。
座敷童子の真穂と話すのが意外に楽しくて、火坑の作る料理がやっぱり美味しかったせいもある。
呂律が回らなくなってから、記憶がないのだ。具体的にいつつぶれたのかは、美兎も本当に覚えていなくて……気がついたら、布団に横になっていた。
柔らかい布団の感触に、自分は一瞬自宅に帰れたのかと思ったが、自宅の布団はここまで柔らかくはないとわかった。
だから、まさか……と起きあがろうとしたら、足元に少し重みを感じたのだ。上体だけ起きて下を見れば、見覚えのあるおかっぱ頭があった。
「あ……」
昨夜、散々一緒に飲んだあやかしの少女。実際は少女の年頃ではないが、こうして見るとあどけない寝顔が可愛らしく見えた。
そっと、髪を撫でてやると真穂は目が覚めたのかもぞもぞと動き出した。
「……はよ」
「おはよう、真穂ちゃん。あの……ここどこ?」
起きて急だけど、この場所の説明をして欲しかった。
落ち着いたトーンの、アパートではなくマンションらしい部屋。そう思ったのは、美兎のように1LDKの部屋とかではなくてしっかりとした個室だったからだ。
だいたいの予想はつくが、念のために確かめたかった。
「ここ? 大将の家」
「え、火坑さんの!?」
「あんた見事につぶれちゃったのよ? 一応あやかしは人間の居場所を調べる方法もあるけど……あんた、『まだ飲む~』とか、『明日休みだから帰りたくない~』って言うから座敷で寝かせた後にあいつが運んだの」
「う……わぁ、申し訳ないわ」
彼との初対面の時は悪酔い。今度は、酔い潰れ。
全然いいとこじゃないのを見せてばかりだ。思わず、大きくため息を吐くと、真穂にはケラケラと笑われた。
「気にはしてなかったわよ? ただ、女を自宅に上げるのは初めてだったから、ちょっと慌ててたけど」
「火坑さんが?」
「あんな坊主でも、女に対しては初心なのよ?」
「ふーん?」
落ち着いた猫の男性だと言うことしか知らないが、慌てるだなんて想像しにくい。
しかし、迷惑をかけたことには変わりなかった。今日が土曜だったので、美兎も慌てることはなかったが。まずはお礼を言おうとベッドから出ることにした。
ただ、扉を開ける前にひとりでに開いたので驚いたが。
「おや、お目覚めですか? おはようございます」
「お、おはようございます!」
今会いに行こうとしていた火坑本人が来てくれたのだ。美兎がすぐに寝床を貸してくれたことと、介抱してくれたことへの感謝を言うと、火坑はにっこり笑ってくれた。
「いえいえ。二日酔いになっていなくてよかったです。朝ご飯、出来ていますが食べれそうですか?」
「え、朝ご飯!?」
「いいじゃん、いいじゃん? 食べてから契約の儀もしよう!」
「契約?」
「そこまで記憶飛んだの!?」
だが、だんだんと酔った時の記憶が蘇ってきて、美兎は悶絶しそうになったのは真穂にまた笑われたが。
とりあえず、火坑手製の朝ご飯を食べることになった。
「わあ!」
リビングに案内してもらうと、三人分の朝食はもう出来上がっていた。
「あら、定番の定番ね?」
鯖の塩焼き、出汁巻き卵、青菜のおひたしに白米や味噌汁。
真穂の言う通り、定番中の定番ではあるが一人暮らしの美兎でもここまでのメニューは作れない。
ただひとつ、美兎の目に飛び込んできた青菜のおひたしには……美兎の苦手なあるものがあった。
「……しめじ……」
苦手なきのこ類が入ってきたので、一気に食べる気が失せてしまったのだ。
「おや、すみません。苦手でしたか?」
「……すみません。ど~~しても、きのことこんにゃくはダメで!」
「では、それは取り除きますので先に味噌汁でも。しじみは大丈夫ですか?」
「あ、はい」
深酒した場合には、しじみの味噌汁。
まだ美兎は試したことがないので飲んでみることにした。真穂と先に手を合わせてから、まだ温かいお椀を手に取り……ゆっくりと口に含むと、磯の香りと程よい塩気の合わせ味噌が口いっぱいに広がっていった。
貝殻ごと入っていたしじみを、箸でつまんで中身を口にちゅるんと含むと味噌の味と合わさって素直に美味しいと思える。
出汁巻き卵は、初めて楽庵で食べたものとは全然違う卵だと言うのはわかるが、出汁の濃さは同じで柔らかさも同じ。ぱくぱくと食べれるのだ。
途中、火坑がきのこを取り除いてくれたおひたしを出してくれたので、慎重に箸を持っていく。きのこがなければ、味が多少うつっていても食べられるのでぱくりと口に入れると。少しはきのこの味がするが、海苔とほうれん草の味の方が際立って美味しかった。
「はぁー、ごちそうさま」
「美味しかったです!」
「ふふ。お粗末様です」
とここで、美兎は昨夜渡し損ねていたおすそ分けでもらった菓子を思い出して。
朝からだが、火坑がコーヒーを淹れようと言ってくれた時に、真穂が『待った』と静止の声を上げた。
「先に契約よ?」
「あ、ごめん」
「いいわよ。すぐ済むし、ちょっと待って」
と言って、どこから出したのか赤い線で色々な模様が書かれた布を取り出してきた。
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