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座敷童子
第4話『鱧の湯引き』
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いきなり雰囲気が変わった、座敷童子の真穂というあやかしは……また手を叩きながら美兎の隣に立ったかと思うと当たり前のようにカウンターの椅子に腰掛けた。
「ふふ。冷酒ちょうだいな?」
「はい、かしこまりました」
見た目は子供だけれど、やっぱりあやかしだから美兎よりもずっとずっと歳上なのだろう。火坑は注文を受けて、すぐに準備に取り掛かる。美兎は、まだ真穂の雰囲気へのギャップに戸惑っていたが……言わなきゃ、とすぐに口元を引き締めた。
「あの……」
「うん?」
声をかけると、真穂にはもう可愛らしい雰囲気などはなく、むしろ妖しい雰囲気を醸し出していた。妖艶、と例えていいのかわからないが、どう見ても外見の小学生が持つ雰囲気には見えないのだ。
「えと……狂いはなかったって、どう言う意味なの?」
「ああ、そのこと? 言葉の通りよ? 真穂が狙いを定めていた人間。あんたが、真穂の求めていた霊力の持ち主だからよ?」
「……よくわかんない」
「簡単に言っちゃえば、あんたと繋がりを持ちたかったのよ。湖沼美兎」
「? 私の名前……」
「会社とかにも『おすそ分け』してたんだから、あんたの名前も自然とわかるわ」
そう言った時に、火坑が冷酒のセットを持ってきたので、彼女は徳利からお猪口に注いでからひと息で飲んだ。口に入れても顔が赤くならないことから、やはり彼女は子供ではなくあやかしだと理解は出来た。
「だから、湖沼さん自身だけでなく。湖沼さんの会社にまで幸運を与えたのですか?」
「そうね? 会社の歴史はまだ浅いけど、良いところね? いい仕事をしてると思うわ」
「あ……りがと?」
「もっと誇っていいのに、疑問形?」
「や……まだ、あなたが妖怪さんでも子供じゃないのが信じられなくて」
「こう見えて、こっちの大将より数百年以上歳上よ?」
「え゛!?」
「ふふ。あやかしの一部は見た目を変えることが可能ですからね?」
「はぁ~……」
火坑よりも、だいぶ歳上。そうは見えないが、事実は事実と受け止めるしかない。美兎がぽかんとしているうちに、真穂は冷酒をぐいぐい呑んでいったからだ。
「けど。幸運を迷惑に近い状態にまで感じる人間は稀よ? あんただったら、真穂が『守護』になっても問題ないわ」
「守護?」
「まだ数回程度でも、この界隈に行き来出来る人間。かまいたちの若手が守護についた人間と最近知り合ったでしょ? あいつらのように、真穂があんたの守護につきたいと思ったの」
「えっと?」
「今は良くても、この先界隈のあやかし達にあんたが誘拐されないとも限らないのよ? そうならないために、真穂があんた……美兎を守ってやりたいと思ったの」
「……お菓子あげただけだよ?」
「それ以外にも、美兎の霊力が欲しいって言ったでしょ?」
「うん?」
たしかに、先程そのような事を言っていたが、それが真穂にとってメリットになるのかと言われても良くわからない。
夢喰いの宝来からは、吉夢を持つ才能があるとは言われたが……普段はただの会社員だ。実感が湧かないのも当然。
「守護につかれたあやかしのメリットは、宿主の霊力なんですよ。わずかとは言え、共存する状態になればその霊力は憑いたあやかしにも流れるんです」
と言いながら、火坑がこちらの前に置いてくれたのは白身魚を湯がいたような料理。
別に小皿も添えられて、そちらには梅を叩いたようなペースト状のタレが載っていた。
「あら? 鱧の湯引き?」
「夏らしい料理ですからね? お話中に骨切りをさせていただきました」
「は……も?」
「こう言う頭の魚です」
「わ!?」
いきなり火坑が見せてきたのは、エイリアンのような見た目のグロテスクな牙を持つ魚の頭だった。
それから、皿に盛り付けられている愛らしい白身魚の体だったとは思えず。少し、びっくりしてしまった。
「結構美味しいわよ? 若い人間には馴染みがないだろうけど」
「……うん」
けれど、火坑の料理となれば話は別。
今までハズレなんてなかったのだから、これもきっと美味しいのだろう。梅肉のペーストにつけて食べるらしいので、先に食べてた真穂の真似をして口に入れてみた。
「!?」
ふわっとした食感が先にくるが、あとでくにくにとした歯応えも感じる。それと、少しコリコリとした食感も加わって楽しい。
身はあくまで柔らかく、梅肉と合わさると口の中がさっぱりとするのに、凝縮された旨味が強くなって口いっぱい広がっていく。
はも、と言う可愛らしい響きなのに、とてもグロテスクな頭をしていたがこれは病みつきになりそうだ。二人分用意されていたので、真穂と交互に食べていくとあっという間になくなってしまい。
ああ、終わってしまったと何故か残念に思ってしまうくらい、美味しかった。
「ふふ。物足りなさそうなお顔ですね?」
小さく火坑が笑うと、下に屈んで何かを開ける音が聞こえてきた。引き出しにしては、冷蔵庫を開け閉めするような音に似てたので席から少し覗き見ると……本当に小さいが冷蔵庫があったのだ。
「先に仕込みでお作りしたものがあるのですが」
大きめのタッパーから取り出したのは、美兎でも見知った料理──魚の南蛮漬けだとわかるものが入っていた。
「南蛮漬けですか!?」
「はい。鱧で先に作ったんです」
「肴にはいいわね? 冷酒おかわり」
「はい、すぐに」
「お願いね?……で、美兎。どーう?」
「え?」
なにが、と首を傾げたら真穂には苦笑いされた。
「真穂が守護に憑くの。どーう?」
「……んー? 霊力、て言うのあげるだけで守ってもらえるんだっけ? 大変じゃないの?」
「ふふ。利用しようとするのも人間の感情なのに、美兎はほんと面白い人間ね?」
「そう?」
「だから、真穂が目をつけた。……どうかしら?」
「んー……ここに来やすくなるんなら、嬉しいけど」
「じゃ、いいじゃない? 真穂が守護に憑く」
「お願いします?」
「ふふ、ほんと面白いわ」
妖しく笑いながら、真穂が美兎にお猪口を寄せてきたので、美兎は湯呑みしかなかったが軽く合わせたのだ。
「ふふ。冷酒ちょうだいな?」
「はい、かしこまりました」
見た目は子供だけれど、やっぱりあやかしだから美兎よりもずっとずっと歳上なのだろう。火坑は注文を受けて、すぐに準備に取り掛かる。美兎は、まだ真穂の雰囲気へのギャップに戸惑っていたが……言わなきゃ、とすぐに口元を引き締めた。
「あの……」
「うん?」
声をかけると、真穂にはもう可愛らしい雰囲気などはなく、むしろ妖しい雰囲気を醸し出していた。妖艶、と例えていいのかわからないが、どう見ても外見の小学生が持つ雰囲気には見えないのだ。
「えと……狂いはなかったって、どう言う意味なの?」
「ああ、そのこと? 言葉の通りよ? 真穂が狙いを定めていた人間。あんたが、真穂の求めていた霊力の持ち主だからよ?」
「……よくわかんない」
「簡単に言っちゃえば、あんたと繋がりを持ちたかったのよ。湖沼美兎」
「? 私の名前……」
「会社とかにも『おすそ分け』してたんだから、あんたの名前も自然とわかるわ」
そう言った時に、火坑が冷酒のセットを持ってきたので、彼女は徳利からお猪口に注いでからひと息で飲んだ。口に入れても顔が赤くならないことから、やはり彼女は子供ではなくあやかしだと理解は出来た。
「だから、湖沼さん自身だけでなく。湖沼さんの会社にまで幸運を与えたのですか?」
「そうね? 会社の歴史はまだ浅いけど、良いところね? いい仕事をしてると思うわ」
「あ……りがと?」
「もっと誇っていいのに、疑問形?」
「や……まだ、あなたが妖怪さんでも子供じゃないのが信じられなくて」
「こう見えて、こっちの大将より数百年以上歳上よ?」
「え゛!?」
「ふふ。あやかしの一部は見た目を変えることが可能ですからね?」
「はぁ~……」
火坑よりも、だいぶ歳上。そうは見えないが、事実は事実と受け止めるしかない。美兎がぽかんとしているうちに、真穂は冷酒をぐいぐい呑んでいったからだ。
「けど。幸運を迷惑に近い状態にまで感じる人間は稀よ? あんただったら、真穂が『守護』になっても問題ないわ」
「守護?」
「まだ数回程度でも、この界隈に行き来出来る人間。かまいたちの若手が守護についた人間と最近知り合ったでしょ? あいつらのように、真穂があんたの守護につきたいと思ったの」
「えっと?」
「今は良くても、この先界隈のあやかし達にあんたが誘拐されないとも限らないのよ? そうならないために、真穂があんた……美兎を守ってやりたいと思ったの」
「……お菓子あげただけだよ?」
「それ以外にも、美兎の霊力が欲しいって言ったでしょ?」
「うん?」
たしかに、先程そのような事を言っていたが、それが真穂にとってメリットになるのかと言われても良くわからない。
夢喰いの宝来からは、吉夢を持つ才能があるとは言われたが……普段はただの会社員だ。実感が湧かないのも当然。
「守護につかれたあやかしのメリットは、宿主の霊力なんですよ。わずかとは言え、共存する状態になればその霊力は憑いたあやかしにも流れるんです」
と言いながら、火坑がこちらの前に置いてくれたのは白身魚を湯がいたような料理。
別に小皿も添えられて、そちらには梅を叩いたようなペースト状のタレが載っていた。
「あら? 鱧の湯引き?」
「夏らしい料理ですからね? お話中に骨切りをさせていただきました」
「は……も?」
「こう言う頭の魚です」
「わ!?」
いきなり火坑が見せてきたのは、エイリアンのような見た目のグロテスクな牙を持つ魚の頭だった。
それから、皿に盛り付けられている愛らしい白身魚の体だったとは思えず。少し、びっくりしてしまった。
「結構美味しいわよ? 若い人間には馴染みがないだろうけど」
「……うん」
けれど、火坑の料理となれば話は別。
今までハズレなんてなかったのだから、これもきっと美味しいのだろう。梅肉のペーストにつけて食べるらしいので、先に食べてた真穂の真似をして口に入れてみた。
「!?」
ふわっとした食感が先にくるが、あとでくにくにとした歯応えも感じる。それと、少しコリコリとした食感も加わって楽しい。
身はあくまで柔らかく、梅肉と合わさると口の中がさっぱりとするのに、凝縮された旨味が強くなって口いっぱい広がっていく。
はも、と言う可愛らしい響きなのに、とてもグロテスクな頭をしていたがこれは病みつきになりそうだ。二人分用意されていたので、真穂と交互に食べていくとあっという間になくなってしまい。
ああ、終わってしまったと何故か残念に思ってしまうくらい、美味しかった。
「ふふ。物足りなさそうなお顔ですね?」
小さく火坑が笑うと、下に屈んで何かを開ける音が聞こえてきた。引き出しにしては、冷蔵庫を開け閉めするような音に似てたので席から少し覗き見ると……本当に小さいが冷蔵庫があったのだ。
「先に仕込みでお作りしたものがあるのですが」
大きめのタッパーから取り出したのは、美兎でも見知った料理──魚の南蛮漬けだとわかるものが入っていた。
「南蛮漬けですか!?」
「はい。鱧で先に作ったんです」
「肴にはいいわね? 冷酒おかわり」
「はい、すぐに」
「お願いね?……で、美兎。どーう?」
「え?」
なにが、と首を傾げたら真穂には苦笑いされた。
「真穂が守護に憑くの。どーう?」
「……んー? 霊力、て言うのあげるだけで守ってもらえるんだっけ? 大変じゃないの?」
「ふふ。利用しようとするのも人間の感情なのに、美兎はほんと面白い人間ね?」
「そう?」
「だから、真穂が目をつけた。……どうかしら?」
「んー……ここに来やすくなるんなら、嬉しいけど」
「じゃ、いいじゃない? 真穂が守護に憑く」
「お願いします?」
「ふふ、ほんと面白いわ」
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