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閻魔大王
第6話 とっておきの『鹿肉料理』②
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カレーには辛味に旨味に、あと適度な甘味が必要だと閻魔大王は常々思っているのだが。
かつて、己の第三補佐官であった不喜処地獄出身の猫獄卒。大王が名のなかった彼を火坑と名乗らせて、二百年ほど前に現世に転生させた。人間ではなく、あやかしとして転生させて、この界隈で生活していくようになり……世話になったあやかしのお陰で店を構えた。
だからこそ、このように美味なる馳走を口に出来るのだ。
「うむ、美味い!」
カレールゥの辛味は適度にあるが、食べやすい辛味だ。以前にインドカレーを地獄の調理人達に作らせたが思った以上に辛くて食べれたものではなかった。比べて、こちらは甘口ではないが幾らかは辛い。今風に言うのであれば、美味辛いと言うかもしれない。
下処理をした鹿肉は、臭みもクセもなく、歯で噛めばほろっと舌の上でほぐれるくらいに柔らかく、蕩けるようだった。
これがカレーとは、単純な日本食に生まれ変わった洋食とは思えないくらいに、閻魔大王の舌を唸らせてくれた。
半分ほど食べたところで、次は鹿肉のチーズ入りハンバーグ。
大きさは閻魔大王の拳程しかないが、時間が経っているのにまだ湯気が立っていた。
箸で割れば、中から蕩けたチーズが溢れてきた。そこに、上にかかっているおろした玉ねぎを使った飴色のソース。この食材の組み合わせは初めてではあるが、まるで子供が喜びそうなメニューは大王は好んでいた。
贅を尽くした料理も嫌いではないのだが、たまにはこう言う人間らしい料理も口にしたい。元人間であった閻魔大王であるからこそ。
割ったハンバーグにチーズとソースをよく絡めて……勢いよく口に運んだ。
「ん!?」
臭みはこちらもないが、強烈なくらい感じる力強い肉の存在感。塩胡椒などで少し刺激を感じたが、絡めたチーズの塩気とまろやかさに加えて、玉ねぎソースのさっぱり感がカレーで刺激されていた口の中をリフレッシュしてくれるよう。
肉は固くなくて、ほろっと挽き肉がほどけていく快感が堪らない。これを、少しだけカレーと一緒に食せば……予想通りに口の中に口福が広がっていったのだ。
「見事じゃ、火坑」
「お粗末さまです」
「ハンバーグはもう無理か?」
「申し訳ありません……カレーでしたら」
「なら、お代わり」
「はい」
空になった皿を差し出せば、火坑が準備をしている間に……あとからやってきた二人の人間の女に座敷童子の真穂を観察することにした。
赤鬼の気配がする髪の短い女は、おそらく赤鬼の守護が強いのだろう。だが、閻魔大王が気になっていたのは真穂が望んで守護に憑いた女の方。
可愛らしい顔で、火坑が出したカレーやハンバーグを美味しそうに頬張っている。この女が、火坑も気にかけているかもしれないと言う女かもしれない。
あの世まで、現世の情報は流れてくるものだが。
調理をしている猫人については、色々流れてきたのだ。必要以上に気にかけているかもしれない人間の女がいるかもしれない、と。
これまで、人間の女の客もいただろうに、素直に食事をしている湖沼美兎と言う女には違う態度をしたそうだ。夏頃に、吸血鬼を介抱した際……酔った吸血鬼から助けたらしい。拒まず受け入れる姿勢の火坑からは考えられない事だ。
であるから、大王は美兎を観察した。
微かだが、美兎からは真穂以外のあやかしの気配を感じる。よく調べればわかるだようが、祖先にあやかしがいるかもしれない。別段珍しいことではないので、それはいい。
だが、美兎が『美味しい』と声を上げると火坑は嬉しそうに猫目を緩めていた。
美兎は自覚しているような節があるが、火坑はまだだろう。相変わらず、自身の感情には疎い猫だ。
それからカレーのお代わりをもらい、食べて飲んでを繰り返していたら……美兎が火坑の前に両手を差し出した。
「今日の心の欠片、お願いします!」
「はい。ありがとうございます」
人間や神の魂の片鱗を具現化させたもの。
この猫人は元獄卒だったので、それを可能としているのだ。美兎の手の上に肉球のない猫の手をぽんぽんと軽く叩けば。
ぱっと、光が店の中を包んだかと思うとすぐに消えて、美兎の手の上には少し大きめのプラスチックで出来た箱があった。
「お、重!?」
「あら、それってアイス?」
「〆に、と思いまして」
火坑が美兎の上からそれを取ってから、沓木と言う女の問いに答えていた。すると、沓木の方も火坑に手を差し出した。
「私もいいかしら?」
「! でしたら」
と、沓木から取り出したのは菓子類の箱。黒いチョコのようなクッキーサンドだった。
「クッキー?」
「少しお時間をいただければ、クッキー&クリームのアイスになります」
「火坑! 是非そうしてくれ!」
「承知致しました」
何はともあれ、今の世をこの猫人が楽しんでいるのなら、少しお節介をしよう。美兎達が帰宅して、亜条と玉露の茶で落ち着いてから大王は切り出した。
「火坑よ」
「はい?」
「儂はお主を、ただの猫以上に可愛がっていた。あの世ではなかったが、現世で沿う相手がいるのなら……子の顔くらいいつか見せてくれ」
「……あの、大王?」
「気づいていないようですよ、大王?」
「そのようじゃな? 己に問い、じっくり考えておくように」
「……はあ?」
きっかけは与えた。
だが、あの美兎と違いこちらの感情の蕾は固い。
時間をかけて、どうなるかまでは大王にも見当がつかないが……今の世に生まれ直したのだから、幸せになってほしい。
大王と亜条は残りのアイスを堪能してから、楽庵より地獄に戻っていく。
赤い月夜は、夜がふけても煌々と輝き、界隈から消えていく二人を照らしていた
かつて、己の第三補佐官であった不喜処地獄出身の猫獄卒。大王が名のなかった彼を火坑と名乗らせて、二百年ほど前に現世に転生させた。人間ではなく、あやかしとして転生させて、この界隈で生活していくようになり……世話になったあやかしのお陰で店を構えた。
だからこそ、このように美味なる馳走を口に出来るのだ。
「うむ、美味い!」
カレールゥの辛味は適度にあるが、食べやすい辛味だ。以前にインドカレーを地獄の調理人達に作らせたが思った以上に辛くて食べれたものではなかった。比べて、こちらは甘口ではないが幾らかは辛い。今風に言うのであれば、美味辛いと言うかもしれない。
下処理をした鹿肉は、臭みもクセもなく、歯で噛めばほろっと舌の上でほぐれるくらいに柔らかく、蕩けるようだった。
これがカレーとは、単純な日本食に生まれ変わった洋食とは思えないくらいに、閻魔大王の舌を唸らせてくれた。
半分ほど食べたところで、次は鹿肉のチーズ入りハンバーグ。
大きさは閻魔大王の拳程しかないが、時間が経っているのにまだ湯気が立っていた。
箸で割れば、中から蕩けたチーズが溢れてきた。そこに、上にかかっているおろした玉ねぎを使った飴色のソース。この食材の組み合わせは初めてではあるが、まるで子供が喜びそうなメニューは大王は好んでいた。
贅を尽くした料理も嫌いではないのだが、たまにはこう言う人間らしい料理も口にしたい。元人間であった閻魔大王であるからこそ。
割ったハンバーグにチーズとソースをよく絡めて……勢いよく口に運んだ。
「ん!?」
臭みはこちらもないが、強烈なくらい感じる力強い肉の存在感。塩胡椒などで少し刺激を感じたが、絡めたチーズの塩気とまろやかさに加えて、玉ねぎソースのさっぱり感がカレーで刺激されていた口の中をリフレッシュしてくれるよう。
肉は固くなくて、ほろっと挽き肉がほどけていく快感が堪らない。これを、少しだけカレーと一緒に食せば……予想通りに口の中に口福が広がっていったのだ。
「見事じゃ、火坑」
「お粗末さまです」
「ハンバーグはもう無理か?」
「申し訳ありません……カレーでしたら」
「なら、お代わり」
「はい」
空になった皿を差し出せば、火坑が準備をしている間に……あとからやってきた二人の人間の女に座敷童子の真穂を観察することにした。
赤鬼の気配がする髪の短い女は、おそらく赤鬼の守護が強いのだろう。だが、閻魔大王が気になっていたのは真穂が望んで守護に憑いた女の方。
可愛らしい顔で、火坑が出したカレーやハンバーグを美味しそうに頬張っている。この女が、火坑も気にかけているかもしれないと言う女かもしれない。
あの世まで、現世の情報は流れてくるものだが。
調理をしている猫人については、色々流れてきたのだ。必要以上に気にかけているかもしれない人間の女がいるかもしれない、と。
これまで、人間の女の客もいただろうに、素直に食事をしている湖沼美兎と言う女には違う態度をしたそうだ。夏頃に、吸血鬼を介抱した際……酔った吸血鬼から助けたらしい。拒まず受け入れる姿勢の火坑からは考えられない事だ。
であるから、大王は美兎を観察した。
微かだが、美兎からは真穂以外のあやかしの気配を感じる。よく調べればわかるだようが、祖先にあやかしがいるかもしれない。別段珍しいことではないので、それはいい。
だが、美兎が『美味しい』と声を上げると火坑は嬉しそうに猫目を緩めていた。
美兎は自覚しているような節があるが、火坑はまだだろう。相変わらず、自身の感情には疎い猫だ。
それからカレーのお代わりをもらい、食べて飲んでを繰り返していたら……美兎が火坑の前に両手を差し出した。
「今日の心の欠片、お願いします!」
「はい。ありがとうございます」
人間や神の魂の片鱗を具現化させたもの。
この猫人は元獄卒だったので、それを可能としているのだ。美兎の手の上に肉球のない猫の手をぽんぽんと軽く叩けば。
ぱっと、光が店の中を包んだかと思うとすぐに消えて、美兎の手の上には少し大きめのプラスチックで出来た箱があった。
「お、重!?」
「あら、それってアイス?」
「〆に、と思いまして」
火坑が美兎の上からそれを取ってから、沓木と言う女の問いに答えていた。すると、沓木の方も火坑に手を差し出した。
「私もいいかしら?」
「! でしたら」
と、沓木から取り出したのは菓子類の箱。黒いチョコのようなクッキーサンドだった。
「クッキー?」
「少しお時間をいただければ、クッキー&クリームのアイスになります」
「火坑! 是非そうしてくれ!」
「承知致しました」
何はともあれ、今の世をこの猫人が楽しんでいるのなら、少しお節介をしよう。美兎達が帰宅して、亜条と玉露の茶で落ち着いてから大王は切り出した。
「火坑よ」
「はい?」
「儂はお主を、ただの猫以上に可愛がっていた。あの世ではなかったが、現世で沿う相手がいるのなら……子の顔くらいいつか見せてくれ」
「……あの、大王?」
「気づいていないようですよ、大王?」
「そのようじゃな? 己に問い、じっくり考えておくように」
「……はあ?」
きっかけは与えた。
だが、あの美兎と違いこちらの感情の蕾は固い。
時間をかけて、どうなるかまでは大王にも見当がつかないが……今の世に生まれ直したのだから、幸せになってほしい。
大王と亜条は残りのアイスを堪能してから、楽庵より地獄に戻っていく。
赤い月夜は、夜がふけても煌々と輝き、界隈から消えていく二人を照らしていた
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