35 / 204
閻魔大王
第5話 閻魔大王達と対面
しおりを挟む
随分と、愛らしい人間の女性が二人程やってきた。
閻魔大王と、その第一補佐官である亜条の予約は楽庵で為されていたはずだが、貸切にはしていなかったようだ。
もしくは、人間には亜条達の気配を察知出来なかったせいか。だが、傍らに座敷童子の真穂がいるのが亜条の目に写ったので、おそらく態とだろう。
座敷童子の中でも、かなりの長寿である彼女がこちらの気配を察知出来ないわけがないのだから。
「ん? おや、何やら愛らしい女達じゃな?」
カレーを食べようとしていた手を止め、閻魔大王も彼女達に振り返った。閻魔大王の顔を正面から受け止めると、真穂のすぐ隣にいた女性もだが……鬼の霊力を感じる女性も頬を朱に染め上げた。
亜条もだが、閻魔大王もなかなかの美丈夫なのだから、人間の目には良過ぎるくらいの保養になって当然。
だが、鬼の霊力を感じる女性の方はすぐに赤みを引っ込めた。
「はじめまして。今日は貸切だったのかしら?」
「お久しぶりですね、沓木さん。……いえ、貸切ではないのですが。僕の以前の上司方がいらっしゃっているんです」
「え……っと。火坑さんは前世が地獄のお役人だったかしら?」
「そうじゃ。儂が閻魔大王。こっちにいるのは第一補佐官で火坑には先輩だった亜条と言う」
「亜条と申します」
「あら。生きている内に閻魔大王に出会えるだなんて思わなかったわ?」
「閻魔ー、やっほー?」
「そこに居るのは真穂か?」
沓木と言う女性は飲み込みが早いようだ。鬼の霊力を感じるあたり、現世にいる鬼の伴侶か恋仲か。でなければ、このように堂々と出来てはいないはず。
逆にまだ名乗っていない女性からは、座敷童子の真穂以外にもあやかしの気配を感じる。微か過ぎて、補佐官である亜条にも察知するのが難しいくらい。
沓木とは対照的に、閻魔大王と真穂の会話に顔色を青く赤くと交互に変えている様子が、酷く愛らしい。面白くて見詰めていると、火坑の方から視線を感じた。
彼の方に振り返ると、笑顔ではあるのだが伏せている猫目がちっとも笑っていない。こんな表情は、あの世で共に仕事をしていた時ですら見たことがなかった。
いったい、なんの変化があったのか。考えを巡らせていると、楽庵に来る直前の閻魔大王の言葉を思い出したのだ。
『儂が可愛がっていた猫が美味い馳走を振る舞うのじゃぞ? それと、気になる噂もある』
気になる噂。
あの世でも、現世の情報は常に流れてくるもの。
あやかし達の住む、界隈の世界の方も同様に。
そこから、火坑の気になる噂も流れて来ていたのだ。必要以上に気にかけている人間の女性が常連になった事を。
それがおそらく、この女性なのだろう。
「湖沼さん、沓木さん達も。お席によろしければ」
「は、はい!」
「いいのかしら?」
「構わん。今日は私用故に無礼講だ!」
「そうこなくっちゃ! 真穂も飲むー!」
「真穂ちゃん、その姿で飲むの?」
「ふふん? 真穂はこう見えて千年以上生きてるわよ?」
「なーる?」
三人が加わった事でカウンターの席は満員になったが、嫌な空気が流れるわけではない。
むしろ、華に囲まれた感じでいい気分にはなる。
火坑は酒の注文を受けてから、せっかくだからとカレーの方だけは量を調整して三人に出してやっていた。
「火坑、儂が食う分はまだあるのか?」
「大丈夫ですよ、大王? 寸胴鍋にはまだまだありますから」
「おお!」
「相変わらずねえ、閻魔?」
「二十年ぶりなのだぞ? いつでも来れるお主らとは違う!」
「ま、ねー?」
この二人の友人のような物言いも久しい。
だからこそ、最近守護に憑いたと噂になっていた女性である湖沼にべったりなのか。湖沼はまだ表情をコロコロ変えて、緊張しているようだった。
「さ。冷めないうちにカレーの方をどうぞ。女性の皆さん、ハンバーグにチーズを入れるのはお嫌いではないですか?」
「好物」
「女なら、好きですよ!」
「だ、大好き! です」
「では、カレーをお召し上がりの間に作りますね?」
火坑が話題を逸らすためか、料理のためか。
たしかに、カレーもだがハンバーグも熱いうちがいい。もう一度全員で手を合わせてから、亜条はスプーンで米とカレーを掬い上げる。
少し冷めて湯気が少ないが、実は猫舌な亜条には有り難かった。
口に入れれば、市販のルゥのようで全然違う、甘口寄りのスパイシーな味と香りが口いっぱいに広がって行った。
閻魔大王と、その第一補佐官である亜条の予約は楽庵で為されていたはずだが、貸切にはしていなかったようだ。
もしくは、人間には亜条達の気配を察知出来なかったせいか。だが、傍らに座敷童子の真穂がいるのが亜条の目に写ったので、おそらく態とだろう。
座敷童子の中でも、かなりの長寿である彼女がこちらの気配を察知出来ないわけがないのだから。
「ん? おや、何やら愛らしい女達じゃな?」
カレーを食べようとしていた手を止め、閻魔大王も彼女達に振り返った。閻魔大王の顔を正面から受け止めると、真穂のすぐ隣にいた女性もだが……鬼の霊力を感じる女性も頬を朱に染め上げた。
亜条もだが、閻魔大王もなかなかの美丈夫なのだから、人間の目には良過ぎるくらいの保養になって当然。
だが、鬼の霊力を感じる女性の方はすぐに赤みを引っ込めた。
「はじめまして。今日は貸切だったのかしら?」
「お久しぶりですね、沓木さん。……いえ、貸切ではないのですが。僕の以前の上司方がいらっしゃっているんです」
「え……っと。火坑さんは前世が地獄のお役人だったかしら?」
「そうじゃ。儂が閻魔大王。こっちにいるのは第一補佐官で火坑には先輩だった亜条と言う」
「亜条と申します」
「あら。生きている内に閻魔大王に出会えるだなんて思わなかったわ?」
「閻魔ー、やっほー?」
「そこに居るのは真穂か?」
沓木と言う女性は飲み込みが早いようだ。鬼の霊力を感じるあたり、現世にいる鬼の伴侶か恋仲か。でなければ、このように堂々と出来てはいないはず。
逆にまだ名乗っていない女性からは、座敷童子の真穂以外にもあやかしの気配を感じる。微か過ぎて、補佐官である亜条にも察知するのが難しいくらい。
沓木とは対照的に、閻魔大王と真穂の会話に顔色を青く赤くと交互に変えている様子が、酷く愛らしい。面白くて見詰めていると、火坑の方から視線を感じた。
彼の方に振り返ると、笑顔ではあるのだが伏せている猫目がちっとも笑っていない。こんな表情は、あの世で共に仕事をしていた時ですら見たことがなかった。
いったい、なんの変化があったのか。考えを巡らせていると、楽庵に来る直前の閻魔大王の言葉を思い出したのだ。
『儂が可愛がっていた猫が美味い馳走を振る舞うのじゃぞ? それと、気になる噂もある』
気になる噂。
あの世でも、現世の情報は常に流れてくるもの。
あやかし達の住む、界隈の世界の方も同様に。
そこから、火坑の気になる噂も流れて来ていたのだ。必要以上に気にかけている人間の女性が常連になった事を。
それがおそらく、この女性なのだろう。
「湖沼さん、沓木さん達も。お席によろしければ」
「は、はい!」
「いいのかしら?」
「構わん。今日は私用故に無礼講だ!」
「そうこなくっちゃ! 真穂も飲むー!」
「真穂ちゃん、その姿で飲むの?」
「ふふん? 真穂はこう見えて千年以上生きてるわよ?」
「なーる?」
三人が加わった事でカウンターの席は満員になったが、嫌な空気が流れるわけではない。
むしろ、華に囲まれた感じでいい気分にはなる。
火坑は酒の注文を受けてから、せっかくだからとカレーの方だけは量を調整して三人に出してやっていた。
「火坑、儂が食う分はまだあるのか?」
「大丈夫ですよ、大王? 寸胴鍋にはまだまだありますから」
「おお!」
「相変わらずねえ、閻魔?」
「二十年ぶりなのだぞ? いつでも来れるお主らとは違う!」
「ま、ねー?」
この二人の友人のような物言いも久しい。
だからこそ、最近守護に憑いたと噂になっていた女性である湖沼にべったりなのか。湖沼はまだ表情をコロコロ変えて、緊張しているようだった。
「さ。冷めないうちにカレーの方をどうぞ。女性の皆さん、ハンバーグにチーズを入れるのはお嫌いではないですか?」
「好物」
「女なら、好きですよ!」
「だ、大好き! です」
「では、カレーをお召し上がりの間に作りますね?」
火坑が話題を逸らすためか、料理のためか。
たしかに、カレーもだがハンバーグも熱いうちがいい。もう一度全員で手を合わせてから、亜条はスプーンで米とカレーを掬い上げる。
少し冷めて湯気が少ないが、実は猫舌な亜条には有り難かった。
口に入れれば、市販のルゥのようで全然違う、甘口寄りのスパイシーな味と香りが口いっぱいに広がって行った。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる