名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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ジョン

第2話 師の店『楽養』②

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 人間のようじゃない、あやかしはそこそこ見てきたつもりではいたが。

 狼の頭に手足を持つあやかしは初めてなので……美兎みうは座敷童子の真穂まほに思わずしがみつくくらいに驚いてしまう。

 花菜はななと呼ばれた白いあやかしは首を傾げたが、あとから出てきた狼頭のあやかしはすぐに『あー』っと言いながら頭を掻いた。


「俺のこの顔か? 人化すっか?」
「言いわよ、蘭霊らんりょう? 美兎には霊夢れむも含めて慣れさせなきゃ」
「そうか?」
「ま、ままま、真穂ちゃん?! この人が?」
「違うわよ? こいつは火坑かきょうの大将の兄弟子」
「え?」
「俺とか、霊夢の師匠の事伝えてねーのか?」
「面白いと思って」
「おいおい」


 蘭霊と言う狼のあやかしは、呆れたようなため息を吐いた。少し人間臭い仕草をするせいか、美兎は少しずつ怖くなくなってきた。そして、謝罪のために真穂から離れてお辞儀をする。


「す……すみません。驚いてしまって」
「ん? いや、いい。人間からそう見られるのは慣れてっからな?」


 苦笑い……のような表情を見せるせいか、本当に人間臭い感じがして怖く無くなってきた。そして彼は、美兎達に中に入るように促してくる。


「さ、入りましょ?」
「お、お邪魔します……」
「兄さん。……私、片付けの続きしてます」
「おう、頼んだ」


 花菜と言う女性は、小柄で可憐な容姿だがしっかりしてそうだった。以前ろくろ首の盧翔ろしょうと会った時に聞いた、想いを寄せている相手なのだろうか。他にも、火坑の妹弟子がいるのなら話は別だが。

 とりあえず、店の中に入ると……外観と同じく、黒と白のモノトーンで統一された、お鮨屋さんのように一列に並んだカウンター席が主流店構えだった。座敷も少しあるが、楽庵らくあんとは違って個室のようではない。

 そして、カウンターの向こう側には壁の黒と溶け込んでしまうそうなくらい、艶やかな毛並みの……何故か黒豹のようなあやかしが調理か何かをしていた。

 豹耳と尻尾があったので、単純に黒豹かと思っただけだが。美兎がじっと見つめていると、黒豹は顔を上げてくれた。美兎と金色の目が合えば、笑顔も見せてくれる。


「いらっしゃい」
「?!」


 火坑と違って当然だけど。

 美兎は、思わず腰を抜かしそうになった。想う相手が当然破壊力が凄いと思っていた声音なのに、この黒豹はそれを遥かに上回っているのだ。低音で掠れ気味なのに、耳通りがよくて心地良すぎる。

 背中も思わず、ゾワッとするくらいになったが真穂にしがみつく事で床に座り込むのを耐えた。

 真穂にはまた、けらけらと笑われたが。


「いい声でしょー?」
「あ?」


 真穂が笑いながらも、黒豹を指差すと黒豹の方が不機嫌な返答をした。そして、真穂と美兎を交互に見るとため息を吐いたが。


「?」
「地声はしょうがない。俺ぁ、人化してもしなくてもこの声だかんな?」
「美兎を腰砕け手前にするくらいだもの? もっと誇っていいのよ?」
「あのなぁ? 今日は俺達に相談しに来たって言ってただろう? その嬢ちゃんとうちとなんの関係が?」


 普通に話しているだけでも、破壊力は変わらない。火坑の落ち着きのある低音も大好きだが、この渋くて凄みのある低音は恐ろしい。これから、この彼の前で食事をすることが出来るか、美兎は自信がなかった。

 とりあえず、彼の前辺りのカウンター席に美兎達は腰掛ける事になった。


「あの……湖沼こぬま美兎と言います」
「! 俺は霊夢。『ジョン』ってあやかしは知ってるか?」


 おそらくだが、彼が火坑の師匠なのだろう。貫禄が有り、おしぼりを渡してくれる手つきが優しかったのが共通点だと思った。


「? 英語ですか?」
「ちげーな? 俺はかなり昔の中国出身だ」
「……日本語お上手ですね?」
「そりゃ、移住してきて結構経っているからな? 真穂、この嬢ちゃん連れてくるの初めてなのに、うちに何の用があんだ?」
「あんたの二番弟子に惚れてんのよ?」
「真穂ちゃん!?」
「ほう……? 火坑にか?」


 温かいほうじ茶を出してくれた後に、霊夢は面白そうに笑い出した。
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