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ブラックサンタクロース

第1話 サンタからのプレゼント

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 名古屋中区にあるさかえ駅から程近いところにあるにしき町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三きんさんとも呼ばれている夜の町。

 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。

 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。

 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。

 小料理屋『楽庵らくあん』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。







 サンタクロースを見ただなんて、夢しか思えない。けれど、実際に見てしまった事と……美兎みうの手に落ちてきた小さい小箱は現実としか言いようがなかった。

 終電に間に合うように、地下鉄に乗り。自宅に戻ってきてから寝る前に……座敷童子の真穂まほと確認を取るのにホットミルクを淹れてからこたつの上に例の小箱を置いた。

 一見すると、オブジェのように精巧な作りで出来ている紙箱にしか見えない。


御大おんたいも気前がいいわね~?」


 先にこたつに潜り、美兎からホットミルクを受け取った真穂は本来の子供サイズになっていた。


「おんたい? サンタ……さんだったよね??」
「ああ。いつのまにか、あやかしでもあの爺さんをそう呼ぶようになったのよ? 美兎は夢かと思ってるでしょーけど、サンタクロースは実在するのよ?」
「……本当にほんとのサンタさん?」
「あの人にとっちゃ、美兎も子供と変わりないし。プレゼントを直接貰えるだなんて凄いじゃない?」
「え、え~? ほんとにサンタ……さん」


 作り話、お伽話。

 両親がどーのこーのだったなどと言われていると言うのに、実は存在していただなんて信じられなかった。けれど、今年社会人になって火坑かきょうを含むあやかしらと出会い、様々な驚きと不思議を目にしてきた。

 であれば、お伽話の登場人物だと思われていた人物が存在していてもなんら、不思議ではないのか。

 美兎もこたつに足を入れてホットミルクを飲む。明日も半日仕事があるが、火坑と出かけられるのが楽しみだ。彼にも、サンタクロースからプレゼントを貰ったと言えば、なんと返事をしてくれるだろうか。またあの涼しげな笑顔で『良かったですね』と言ってくれるのだろうか。

 こたつの真ん中に置いたプレゼントに手を伸ばすと、緑の綺麗なリボンと赤と金の包装紙でラッピングされたもの。

 再確認して、開けてみようとしたがリボンが固結びでもされているかのように……キツく結んであって力を入れても解けなかった。


「???」
「仕掛けがあるようね?」
「え、しかけ??」
「ただのクリスマスプレゼントじゃないってことよ? タイミングとか、プレゼントが開くための条件が必要とか……そう言う術式を組み込んでいても不思議じゃないわね?」
「んと……妖術とか?」
「あの人はある意味……神に近い存在なのよ? だから、神聖術とか言われてるものね?」
「か、神……様?」
「本国じゃそう言う扱いなのよ」


 そんな凄い存在だとは露知らず。

 しかし、人間じゃない存在から物を貰ったのはこれで二度目。

 前は雨女の灯里あかりにもらった、虹の欠片と言うものだったが。使う事なく、それは美兎の鞄の中に大事に仕舞ってある。いつか、好きになった相手に使うといいと言われながらも……火坑に使えずにずっと仕舞ったままなのだ。
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